「NFC(ニア・フィールド・コミュニケーション)」

 「NFC(Near Field Communication)」とは、13.56MHz帯の周波数を使用した近距離無線通信技術のこと。日本で普及しているFelicaやTypeA、TypeBといった各方式との互換性がある。NFCの規格で可能となる主な機能は、①ICカードやタグとして振る舞う「カードエミュレーション」、②ICカードやタグの読み書きができる「リーダーライターエミュレーション」、③NFC対応機器間での通信、の3つ。通信技術がゆえに活用の領域は幅広いが、広告・コミュニケーションの視点から見ると、一番の特徴は「10cm程度」の通信距離にあると思われる。

 テレビ、ラジオ、ウェブ、携帯電話(移動通信)などが、実質場所を選ばない(もちろん受信エリアなどの障壁はあるが)通信手段であるのとは対照的である。近年の携帯端末はGPS対応がほとんどであり、Wi-Fi活用も含めて位置を特定したコミュニケーションも増えているが、いずれも特定範囲は数十メートル程度で、NFCとはそもそも対象距離が違う技術、規格である。

 ある駅を降りた人にその街の情報を送るのにGPSを活用することや、ある店の近くを通りかかった人にその店のお得情報を送るのにWi-Fiを活用するということは可能だ。だが、ある商品の前で、その商品の購入を検討している人に情報を届ける、クーポンで購入を決断させる、また駅貼り広告に興味を示している人にさらに詳しい情報を伝えるといった場合にはNFCが機能する。

 同じようなコミュニケーションは、QRコードなどの画像とカメラ付き携帯電話を利用すれば、これまでも可能であったが、カメラ機能の起動や読み取りの手間が行動を抑止したり、店内や電車内などカメラ機能を使用すること自体が禁止される場所もある。

  また、購買プロセス(パーチェスファネル)で考えた時、マスメディアがアッパーファネル(認知、好意形成)に有効な媒体であるのに対し、NFCは主にローワーファネル(購買検討、購買決定)に有効なコミュニケーションを支援する。さらに、ワインのラベルにNFCラベルを貼って蘊蓄(うんちく)を共有するといったロイヤルティープログラムとしての活用も可能かもしれない(NFCラベルの水や金属との相性の改善が必要だが)。そもそもNFCを活用したコミュニケーションには(それが携帯電話でもカードでも)「かざす」という能動的な行為が不可欠。漠とした生活者レベルではなく、購買を検討している層にこそ有効的な手段だと思われる。もちろん、述べるまでもないことだが、この能動的な「動作」の誘発は、その購買層にとってどれほど有益な情報や特典が入手できるのか、ということにかかっているといえる。

 広告・コミュニケーション領域でのNFCの普及を考えると、携帯電話(特にスマートフォン)への「リーダー」機能の搭載が不可欠だと思われる。スマートポスターにしても、スマートPOPにしても、その制作費は1枚数十円のレベル。これに数万円のリーダーライターを設置することはありえない(物理的にも)。また、情報を確認したり、持ち帰ることができなければ、ユーザー側にとって不便である。関連企業の思惑、技術の進歩、変化もあり、この機能の搭載が普及していくかどうかは定かでないが、こうした「点」でのコミュニケーションのニーズが拡大していく可能性は高いのではないだろうか。

 昨今、O2O(Online to Offline)というキーワードが盛んに語られるようになってきているが、NFCを活用したコミュニケーションはOffline to Online(上記キーワードが双方向性を意味するものであろうことは理解した上で)と言えるだろう。店頭、街頭、イベントなどリアルなタッチポイントの媒体価値を高めてくれる技術としても注目していきたい。