ソーシャルCRMとは「ソーシャルメディアを用いた顧客管理で、エンゲージメント構築を促進する活動」を意味する。
従来のCRMは、顧客の行動や嗜好(しこう)を分析し、これに対し適切なオファーをダイレクトに届けることで「顧客との持続的な関係を構築する活動」とされていたが、ここにはいくつかの弱点がある。顧客とコミュニケーションを行っていくには、住所やメールアドレスといった連絡手段となる情報をデータベースに保持しておかなくてはならない。つまり、「顧客=連絡先が管理されている一部の顧客」という制約がある場合が多かった。こうした従来のCRMでは、実質的に「自社データベース」にいる顧客のみが、その対象となってしまう。また顧客の行動を判定するプログラムを準備しておく、あるいは「問い合わせ」など顧客からのアクションがあって対応する、といった過程を経るため、どうしても「顧客との双方向の対話」という意味では課題があった。
一方、ソーシャルメディアのプラットホーム上には「自社データベース」に格納されていない多くの潜在見込み客、あるいはかつての顧客も存在する。さらに顧客の「今」の声を自然な対話の内容から察知することも可能になっている。
それならば、企業が「個人」としてこのプラットホームに参加し「顧客との水平な立場で対話を行う」ことで、顧客との「持続的な関係構築」が可能となるのではないか、という考え方がSCRMの基本的な概念だ。
ソーシャルメディアを用いた顧客との関係構築は、大別すると今のところ3つに分類できる。
第一は「経営レベルでの構築」で、この中でのコミュニケーションテーマは、企業幹部が経営ビジョンや社会問題といった大きなテーマについて、顧客(社会)と直接対話を行うこと、あるいは技術担当幹部がテクノロジーについて、より専門的な対話を行うことなどがある。ここでは、IR、CSR、テクノロジーといった分野の主要なステークホルダーが集まれる「場」を提供しつつ、対話がオープンに公開されるしくみが設計される。
第2は「マーケティングによる構築」。企業のファンページを読んでくれた顧客に対しては、その内容・テーマに沿った持続的な対話が可能になり、アプリケーションがダウンロードされてユーザーの許諾が取れれば、「そのユーザーが情報拡散に積極的か」「どのような関心を持っているのか」など、より深い傾聴と対話が可能になってくる。また近年では、企業がすでに持っている顧客のID情報と、ソーシャルメディア上の顧客の行動データをひも付けることによって、より的確な対応が可能になるような工夫も試みられている。
第3は「顧客サポートによる構築」。これは、ソーシャルグラフ(ソーシャルメディアで行われる対話の場)に発生する自社サービスに対する顧客の疑問・クレーム・意見・質問を傾聴し直接対応を行うというもの。従来のCRMの弱点であった「自社データベースにいない顧客」とも直接的な関係構築の対象となり得るようになった。
こうした顧客との関係構築活動は「企業と顧客」という関係を一歩進めた「企業の社員が、個人として顧客との対話に参加する」という「n:n」の関係構築になっていく。B to Cはやがて「E into C」(Employee into Customer)という形に進化していくことになるだろう。