「懐古厨」

マーケティング・キーワード「懐古厨」 マーケティング・キーワード「懐古厨」

 いきなりクイズです。左の写真、一体何歳の若者だと思いますか?

 「懐古厨(かいこちゅう)」という言葉をご存知でしょうか。これは「過去は良かった」と嘆く人たちのことを指す、2ちゃんねるから生まれた言葉です。この「懐古厨」が、若者の間で増えているのです。
 例えば、昨今の“ポケモンブーム”もこれが影響しています。「ポケットモンスター」と言えば、小学生などの子供に大人気のゲームだと思われていますが、実は今では、大学生も若手社会人もポケモンが大好きなのです。

 任天堂の携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」のソフトとして初代ポケモンが発売されたのは、今の大学生が小学生だった1996年。モンスターを育て、友達と交換したり、戦わせたりして毎日のように遊んできた彼らが、大人になった今でも、ポケモンで遊び続けています。大学の学食などで友達とポケモンをやりながら、「超懐かしいよね~」などと互いに昔を懐かしみ合っていると言います。
 こうした流れから、任天堂は、99年に発売されて大ヒットした「ポケットモンスター 金・銀」の復刻バージョンである「ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー」を2009年に発売。これも爆発的なヒットを記録しました。

 さて、冒頭のクイズの答えですが、もうお分かりになりましたよね。彼女たちは大学3年生の女子です。最近、大学生や若手社会人の男女の間で起きているのが、「制服ディズニー」という現象です。彼らはタンスの中から引っ張り出してきた、あるいはドンキホーテなどで買ったりした制服を着て、高校時代の友人同士でディズニーランドに行くのです。
 そして、「意外とまだイケるよね?」「超懐かしくない?」「チュロスよく食べたよね~」などと互いに言い合いながら、プリクラを撮って盛り上がったりするようです。

博報堂生活総合研究所「生活定点」調査 調査地域:首都40km圏、阪神30km圏/調査対象者:20 歳~69歳の男女/サンプル数:3,389人/調査時期:2010年5月 博報堂生活総合研究所「生活定点」調査 調査地域:首都40km圏、阪神30km圏/調査対象者:20 歳~69歳の男女/サンプル数:3,389人/調査時期:2010年5月

 このように、近頃の若者には過去を懐かしむという「回顧願望」があるようですが、博報堂生活総合研究所の「博報堂生活定点2010」を見ても、「新しいモノ好きな」「関心のある情報は新製品・新商品」「関心のある情報は流行やトレンド」と回答する20代が年々減少してきていて、若者が他世代に先駆けて、必ずしも新しい情報に飛びつく時代でなくなっていることが、データでも裏付けられます。

 今の若者たちは、インターネットの普及とともに生きてきました。インターネットが普及すると、フロー情報が大量に流れてくるとともに、それらの情報がストックされていきます。以前は、生活者は常にフロー情報だけに触れ、過去の情報とは決別するか、せいぜい新聞の切り抜きをクリッピングしてストックするか、図書館に行くかといった程度のことしかできませんでした。ところが今は、フロー情報に常に触れるとともに、ストック情報にも常に触れ続けることができるようになっています。インターネットで何かを検索しても、検索上位に出てくるものは、多くの人に見られているものであって、必ずしも新しい情報だとは限りません。
 つまり、フロー情報とストック情報が等価な時代であり、フロー情報がストック情報より価値のないものであれば、ストック情報が話題の中心になるのです。このように、インターネットやケータイというインフラの普及が、若者に昔を懐かしむ老人のようなライフスタイルを送らせる要因となっています。