ステルス(Stealth)とは、レーダーに映らない特殊技術やその技術を使って製造された探索されにくい戦闘機などを指す。翻って、企業が第三者を使って広告の体裁を取らず、“隠密”に行うプロモーション活動をステルスマーケティングという。
客を装って店に列を作る“さくら”のような古典的な手法から、近年ではインターネット、特にブログやツイッター、掲示板といったソーシャルメディアを使った企業や広告会社による人工的なクチコミ誘発策を指すこともある。このようなクチコミの起点になるのは多くの場合、有名ブロガーやタレントなどの情報発信力が高い人であることが多い。一般のブロガーに出来高で報酬を払って投稿してもらうビジネスも存在する。
いずれの場合も、企業からの報酬によって商品を推奨しているが、見かけ上では広告とは分からないようになっているのが特徴である。しかし最近ではこのような有償の記事投稿はネガティブに受け取られ、特に大企業や一流ブランドによる仕掛けがおおやけになった場合は大々的に非難される(いわゆる「炎上」)ことも多く、数年前には企業から謝礼を受け取って記事化する場合には、広告であることを断ったうえで掲載することが米国のクチコミマーケティング協会(WOMMA)によって原則化されている。
このようにステルスマーケティングとは、いわゆるバイラルマーケティングやバズマーケティングといった言葉とも似ており、マスメディアを使った隠密なマーケティングということであれば、PR活動やプロダクトプレースメントなども広義にはステルスマーケティングの一種といえるだろう。従来の広告スペースを逸脱した新しいコミュニケーション手法のひとつとして開発され、活用されているこれらの手法は、ある意味で広告が効きにくい時代=生活者が企業からのメッセージを簡単に信用しない状況への企業側の困惑が背景にあるといえよう。
しかし生活者の情報リテラシーが高まっている現代ではまた、有名人による単純な商品の推奨だけでは狙った広告効果は得られない。そればかりか反感を買ってむしろ逆効果にならないとも限らない。有名人のブログで本人の簡単なコメントとともに商品の画像が載っているだけでは、通常の広告スペースがブログに置き換わっただけであり、不発に終わるばかりか、かえって策略が露呈した時の炎上リスクの反動の方が恐ろしい。
受け手側の情報の消化能力が高まっている現在では、情報を発信する企業側に求められるのは受け手を上回る高度な情報の加工と発信のノウハウだろう。情報を受容する側が自然に役に立つと感じ、むしろ積極的に受け入れたくなるように伝えられるかどうか、それこそが本来の意味でのステルスマーケティングにほかならない。