「イケダン」

 「イケダン」とは「イケてるダンナ」の略。女性誌『VERY』(光文社)が2010年に提唱した造語で、「仕事も、家事・育児も、オシャレも高水準で、妻が友人に自慢したくなるような理想的な既婚男性像」を意味する。

 その後はNHKの情報番組で紹介されたり自動車CMで使われたりして、急速に浸透してきたキーワードだ。
類似語に「イクメン」があるが、こちらは「育児を楽しめる男性」のこと。つまり方程式で表現すると、「イケダン=イクメン×(仕事バリバリ+妻への愛情+外見もオシャレ)」という感じで、イケダンのハードルはすさまじく高い。「そりゃ一時期だけ」と割り切って演技すれば、それなりに見えるかもしれないが、心底からのイケダンなんて現実にいるのだろうか?

 前述したNHK番組の中で、イケダン度チェックがあったので、紹介すると・・・・・・

Q1 野菜よりも肉が好き -1
Q2 ポイントカードの類が好き +1
Q3 歩くより車が好き -1
Q4 友人、先輩など身近な人をすぐリスペクトする +1
Q5 冷蔵庫の残り物おかずなど、主婦的な料理が得意だ +1
Q6 年上の女性に可愛がられる +1
Q7 「人生、65点くらいがちょうどいい」と思っている +1
Q8 家でまったりするより、アウトドア派 -1
Q9 スイーツ好き +1
Q10 頼むならコーヒーよりラテ +1
Q11 地元より都会での生活が好き -1
Q12 10万円あったら、家電よりブランド品を買いたい -1
Q13 男友だちにプレゼントをする +1
Q14 下着はもちろん自分で買う +1
Q15 観戦するなら野球よりサッカー +1
 

※NHK『あさイチ』(2011年3月7日放送)より引用

 当てはまる項目の点数を合計して、5点以上でイケダンと認定される。本来のイケダン定義からは随分と甘いという気もするが、お試しあれ。

 さてこのように今、イケダンが注目される社会背景には何があるのだろうか? 1985年にいわゆる男女雇用機会均等法が施行されてから、女性の社会進出は着実に進んできた。一昔前は妊娠出産を機に離職する女性が多かったため、女性就業率はM字カーブとなり、復職してもパート・アルバイトがせいぜいだった。しかし、今やM字はほぼ解消し、育産休後は元の職場に正社員として復帰するケースが格段に増えている。しかしその一方で男性は、終身雇用が崩壊したり契約・派遣社員が増えたりで、以前と比べて職場に対する帰属意識は総じて低下傾向にあることは否めない。

 心理学では、人間は絶対水準よりも変化に反応しやすいと言われる。今でも職場帰属意識は、実態的には男性の方が女性よりも強いかもしれないが、近年の相対的低下を受けて実態以上に職場帰属が過小評価され、その喪失感を埋めるように家庭帰属を重視する心理が男性に生じているとしても不思議ではない。

 大げさに表現すると、かつての安住の帰属先であった職場から駆逐されて、いや応なしに家庭に固執しているのがイマドキのオトーサン。イケダンは果たして真に理想的な生き方だろうか。
人間は、本当は嫌なことをどうしてもやらなくてはいけない時に、「実は元々これが好き」といううそを思い込もうとする防衛的な心理メカニズムを持っている。その結果、イケダンを理想化する風潮が生み出されてきたとしたら、ちょっと悲しい・・・・・・。

 家族ラブを公言してはばからないイケダンだが、何事も無理は禁物、長続きしない。女性も男性も「ホドホドでちょうどいい」くらいの緩い構えでなければ、このイケダンブームは案外早く終わってしまうかもしれない、と思う。