アドエクスチェンジとは、インターネット広告の取引を専用の管理ツールを通して行う仕組みを指す。米国ではすでにアドエクスチェンジによる取引は広く浸透しており、日本でも最近いくつかの管理ツールが導入され、注目され始めている。
インターネット広告については、広告主と媒体側が直接的に取引を行う場(アドマーケットプレース)を通じてダイレクトに受発注を行う、いわゆる広告会社の“中抜き”のビジネスモデルの登場が話題になったこともあるが、アドエクスチェンジはそのようなビジネスモデルのことではない。基本的には広告会社やメディアレップの担当者が使う広告の受発注および広告素材の入稿管理、そして広告の効果測定を行うためのツールのことである。
アドエクスチェンジは、もともと米国で増加していたアドネットワーク(大手以外の中小規模サイトの広告枠をまとめて販売する形態)を管理するために使用されてきた経緯があり、さらに細かく見ると広告枠の需要側(広告主側)のためのツールであるDSP(Demand Side Platform)と、広告枠を供給する側(媒体側)のツールであるSSP(Supply Side Platform/またはYield Optimizerとも呼ばれる)によって構成される。このアドエクスチェンジによって、広告主/媒体側の双方にメリットを生むRTB(リアルタイムビッディング)という取引方法を可能にした。RTBによって広告主は狙ったターゲットに向けて適正なコストで広告を表示させることが容易になり、一方の媒体社は売れ残りの広告枠の在庫を高く売ることも可能になった。その仕組みはこうだ。
広告主は広告会社やメディアレップを通じて、希望のターゲットの条件(属性やネット上の行動履歴など)と、広告単価(配信単価やクリック単価)を指定して広告枠を購入できる。アドネットワーク上に広告主の条件に合った広告枠があれば広告が配信されることになる。この取引はツールを通じて自動的に、かつリアルタイムに行われる。
媒体側のメリットは今までは価格を下げてダンピングしていた売れ残りの広告枠を、付加価値を付けて販売できることにある。それはRTBの取引の特徴が、どこに広告を出すかという“枠”の取引ではなく、どのような“人”に広告を見せるかという発想に基づく取引だからである。広告のターゲット(=オーディエンス)は、技術的にはクッキーと呼ばれるブラウザーに保存される情報によって特定される。また米国にはデータエクスチェンジャーといわれるクッキーの属性情報などを専門に売買する業者も存在するようだ。
このように複雑な生態系によって、今まで人気のなかった広告枠が、ターゲットを特定するクッキー情報によって広告枠の価値を高め、取引価格の低下を維持できるのだ。しかも取引価格は複数の広告主によるオークションによって決定される仕組みになっており、今まで以上に価格が高騰することも期待できる。
しかし、アドエクスチェンジにもいくつか課題はある。ひとつは端末やデバイスを横断して個人を特定できないことだ。たとえば会社のパソコンと自宅のパソコンとではブラウザーが異なるため、たとえ同じ人であってもクッキーは別々の情報として認識される。またiPhoneやアンドロイドなどのスマートフォンはそもそもクッキー情報を取得できない。
ふたつ目は、広告が表示されるアドネットワーク上の媒体に不適切な媒体が含まれている場合、事前に排除することが難しい点だ。DSPにはある条件の媒体への広告掲載を停止する機能があるものの、個人ブログなど細かいレベルでの掲載停止は事前には難しい面もある。もちろん、どの媒体への掲載でも構わない、出来るだけ多くの媒体に広告を露出させたいという場合は問題にならないが、企業のブランドイメージの点から広告掲載する媒体を選ぶ場合は注意が必要だ。
日本でもアドエクスチェンジを利用する広告主が増え、参加する媒体数も増えれば、米国のように本格的に活用されるまで時間はかからないだろう。その時には、日本のインターネット広告の取引形態が新しい段階に進んでいるのではないかと思われる。