「ソーシャル型位置情報サービス」と聞いてすぐに思い浮かぶのは、「チェックイン」という言葉を浸透させたfoursquareである。
スマートフォンなどの携帯端末に搭載されたGPSセンサーにより、今いる位置を検出し、そこにある「場所の名前リスト」から選択することで、自分が今「この場所にいます」と宣言することを「チェックイン」と言う。foursquareでは、同じ場所に何度も訪れてチェックインした数により、その場所のメイヤー(市長)の権利を獲得できるが、今、シリコンバレーを中心に、世界中でこのような「自分の位置情報」をキッカケに新しいつながりを生むサービスが多数生まれている。
ソーシャル型位置情報サービスには、foursquareやfacebookのチェックインのように「場所の名前を共有」というものの他に、「近くにいるもの同士で、写真ネタでつながろうよ!」というColorというサービスがある。「近い」という距離感で親近感を醸成し、「写真」や「音」など、いろいろなネタを出し合って新しい「つながり」を自動的に作ってしまうのだ。位置情報型グループチャットサービスのYobongo は、近くでそれを起動している15人を自動的にグループ化する。「近くにいるんだから、なんか話そうよ」というだけで人がつながり、15人という少数で密度が深いコミュニケーションを実現している。
情報過多、飽和した多メディア時代に、人は何を求めているのか。自分が今いる位置情報を公開することで、一体何の得があるのか。それはズバリ「リアリティー」である。「本当にそこにいるんだね」というリアリティーを、このGPSによるチェックインと、それを他のユーザーが簡単に地図やアプリで確認できる、という機能が実現しているわけなのである。
このリアリティーは、当然ビジネスにおいても価値を生み出してくる。チェックインとは究極の行動ログデータであり、それがSNSのタイムラインに流れた瞬間、それは究極のリアルタイム拡声機になるのだ。「僕はここにいます!」とSNSで叫ぶことで返ってくるコメントは、友達からだけではない。今、その場所にいるからこそ価値があるモノや情報を、企業がユーザーへ自動的に届けることもできる。言わば、究極のグッドタイミングデリバリーシステムなのである。
今のところ、ユーザーが位置情報を送る、という能動的なサービスに落ち着いているソーシャル型位置情報サービスだが、今後、スマートフォンに「プッシュ通知機能」の搭載が充実してくれば、その先には「いちいちチェックインしなくてもナイスタイミングで向こうから情報がやって来る」という、究極の行動連動型位置情報サービスも実現可能になるだろう。
その際、重要になるのは、「本当にそれが自分に必要な情報かどうか」という、趣味趣向や属性を自動的に解析する「自分用フィルター」的な仕組みである。実はこのフィルターも「ソーシャル」なつながりから、自動的につくられる時代が来る、と筆者は考えている。facebookで自動的に友達の可能性のある人をリコメンドしてくる「知り合いかもしれません」リストは、それに近い趣向属性フィルターの先駆けだろう。
スマートフォンで注目されるようになったソーシャル型位置情報サービスだが、実は昔からあった「近所付き合い」や「通学電車での恋」「駅前のビラ配り」がスマートフォン上で手軽に、そして確実にやり取りできるようになっただけなのかもしれない。ただ、昔からあったそれとの決定的な違いは、SNSでつながってさえいれば、今まで話題にしようとも思わなかった一個人の小さな行動や「今いる場所」を公開してみることで、思いもよらなかったコミュニケーションが醸成される可能性が、格段に増大したことなのである。