「NPOメディア」

 TwitterやFacebookなど、次々と新手のネットサービスの台頭が起きている昨今のメディアビジネスの状況だが、そんな中で私が注目しているのが「NPOメディア」と称される一種の社会運動論的現象。今は知る人ぞ知るという認知レベルだが、その萌芽(ほうが)は米国を中心にあちらこちらですでに見られており、昨年話題になったあのウィキリークスもその一つである。
「NPOメディア」とは文字どおりにNPOが運営するメディアを意味するが、運営体制にはさして意味はない。重要なのは、「志の高いメディアを指向する」という強い動機に突き動かされて運営されていることだ。すなわち、運営するNPOはもちろん、それを支持する多くの閲読者が既存マスメディアに対して強い不満を感じており、その不満が原動力となって自分たちの意思を反映すべくNPOメディアを産み落とし、さらに支持する動きを加速させているのだ。

 特に知識層の間で、NPOメディアへの支持が広がっていると言われる。マスメディア、なかでもこのような知識層を理想的顧客像とする新聞メディアにとって、NPOメディアは最大のライバルであると同時に、もしかしたら新聞自身の原点なのかもしれない、と思う。と言うのも実は、NPOメディアを運営している人たちの多くは新聞社の出身なのだ。

 近年の米国では、機関投資家や投資ファンドの意を受けて、ジャーナリズムに関心も経験もない経営者がメディアビジネスにかかわるという構図がしばしば見られる。そんな彼らが最初に手掛けるのが高給取りである記者のリストラだが、それと同時にコンテンツの質が低下していくのも道理というもの。その結果、知識層を中心に既存メディアに対する不信感が募り、より質の高いコンテンツを求める機運がやがてNPOメディアを誕生させた、という皮肉な経緯がある。だから、新聞にとってNPOメディアはライバルであると同時に原点でもある、というわけなのだ。

「Voiceofsandiego.org」 「Voiceofsandiego.org」

 NPOメディアが生まれた米国では現在約60の団体が存在していると言われているが、中でも特に有名なのが「Voiceofsandiego.org」。名称から推察が付くとおり、地元サンディエゴに限定して政治や経済・コミュニティー・教育などの社会問題を掘り下げていく姿勢を貫いており、国レベルやスポーツ・エンタメ系の記事は一切ない。現在、月間のユニーク閲読者は約15万人で、2年前の約8倍に成長している。また同団体によると、主な読者層は「35歳以上・男性・年収10万ドル超・高学歴」だという。
そして、題字のすぐ下には「調査・分析・対話・理知」というスローガンがうたわれているが、私が特に注目したいのは「対話」。すなわち、同メディアを舞台に生まれる地元知識人同士の対話を通じて、実質的に地域社会の合意形成の場として機能している点に感銘を受ける。

 現在躍進が著しいソーシャルメディアにこの合意形成機能が備わっているのは、アラブ諸国の騒動でも明らかだ。だとすると、NPOメディアの真の価値とは「ジャーナリズムのコンテンツ力」と「ソーシャルメディアの合意形成力」を掛け合わせたところにある、と言えそうだ。
今、ネット時代の既存マスメディアは「どう生き残るか」が模索されているが、本当に大切なのは「どう生まれ変わるか」という問題意識ではなかろうか。そして、それに対する一つの回答を示唆しているのがNPOメディアかもしれない、と私は思う。