「ソーシャルマーケティング」

 ソーシャルマーケティングとは、70年代に米国の経営学者フィリップ・コトラーが提唱した概念。企業が商品やサービスの販売を通して行う、利潤追求を目的としたマーケティングに対して、ソーシャルマーケティングは社会の変革のためのアイデアや行動を浸透させるためのマーケティング技術の応用をさす。
企業による寄付行為(フィランソロピー)や、売上の一部を特定の非営利団体などに提供するコーズ・リレーテッド・マーケティング、投資家や消費者などの企業のステークホルダーからの要求に対する企業の社会的責任(CSR; Corporate Social Responsibility)なども企業の社会貢献という意味においては類似概念ではある。

 具体的な事例としては、日本でのJTの喫煙マナー広告やAC公共広告機構のキャンペーンなどの事例のほか、米国では長年出稿してきたスーパーボウルへの莫大なテレビCMの予算を、一般の消費者から寄せられた優秀な社会貢献アイデアへの投資に振り分けたペプシの「Refresh everything」キャンペーン(2010年)が有名である。
また「ソーシャルマーケティング」は一般企業だけではなく、政府・公共団体などの非営利組織の活動に当てはめることができるという。営利目的のマーケティングとの違いは、営利企業の商品やサービスを売ることが目的ではなく、「禁煙」や「飲酒運転」「薬物」や「貧困」の撲滅といった習慣や社会状況の変革こそが本来の目的だということである。その目的を戦略的に達成するために営利マーケティングの諸手法を応用したものが、ソーシャルマーケティングである。

 このように多くのソーシャルマーケティングが行われる背景には、特に物質的な豊かさがほぼ達成された先進国で、消費者へ商品やサービスを提供するだけでは、もはや企業の存在価値が認められないという状況がある。企業は強力に差別化された商品を提供しないかぎり、それだけで支持されることは難しい。いわば大量生産・大量消費時代が過ぎ去った現在では、企業は本来のマーケティング活動以外にも積極的な社会参加を求められる時代になったといえる。そのような状況では、やみくもに自社の利益のみを追求するのではなく、自社の利益をいかに社会に還元するかという発想や行為が求められる。そういった社会貢献のサイクルの中で、企業は消費者の支持を集め、社会にとって本当に必要なものならばさらに利益を得ることになる。

 実際に企業がソーシャルマーケティングを実施するうえでは、売り上げなどへの短期的な効果を望むのではなく、長期的な視野から行っていくことが重要になる。すぐに効果が現われないからといって、短期的に施策を変更してはかえって消費者の不信につながる。

 古くて新しいソーシャルマーケティングという概念は、営利企業にとって今後ますます重要になってくるだろう。ツイッターやSNSといったソーシャルメディアの普及によって消費者同士のつながりが促進されれば、情報共有の度合いはさらに高まり、企業への評価はますます厳しく多面的なものになると思われる。ある意味で消費者のほうが企業よりも優位な高度情報化社会においては、企業の社会における役割や消費者の間に溶け込んでいく方法は、変化せざるを得ない。