「トリプルメディア」とは、2009年秋、日本アドバタイザーズ協会のWeb広告研究会が提唱した、現在のメディア環境およびメディア戦略をあらわすコンセプトだ。
「トリプル」とは 1)企業が媒体費を支払って広告を掲載する従来型の「ペイドメディア(買うメディア)」、2)自社サイトに代表される、企業が直接所有する「オウンドメディア(所有するメディア)」、3)SNSやブログ、ツイッターなど、信頼や評判を<得られる>「アーンドメディア(得るメディア)」、の3つのメディアのことを指す。
その背景には、デジタル化の進行によって、自社サイトやソーシャルメディアの重要性が増し、従来のマス広告メディアとの連携がマーケティングにおいて不可欠となってきた、という認識がある。マーケティング業界において「メディア」という言葉が漠然とマスメディアを指していた時代は過去のものとなった。トリプルメディアはそれが広告主サイドから提起されたコンセプトである、という点も含めて大きな話題をよび、象徴的な役割を果たしてきた。
だが問題は、現場においてそれをどう活用できるかである。そのためにはトリプルメディアを、単にデジタル化によるメディアの多様化ととらえる見方をするだけでは十分ではない。そこにはマーケティング環境の本質的な変化があり、それを踏まえたプランニングの革新こそが必要なのだ。
消費者はもはや、企業から発信されるメッセージを一方的に受動する存在ではない。さまざまな情報に主体的に接し、かつ、自ら情報を加工しメッセージを発信しあう「生活者」に変わった。「メディア」を使ってメッセージを伝えることは、もはや広告主の専売特許ではなくなったのだ。こうなってくると、どんな「広告メッセージ」を届けるかよりも、生活者との間に築く「エンゲージメントテーマ(情報を生活者にとって「自分ごと」化することで、企業と生活者の互いのきずなをつくるためのテーマ)」が大事になってくる。もちろんマス広告の影響力は依然として強大だ。だがいま一度、自分自身もその一人でもある「生活者」の姿を虚心坦懐(きょしんたんかい)に観察しなおしてみよう。購買行動に関与する「メディア」の役割の変化、メッセージの質の変化は、誰しもが納得できることだろう。
ことはデジタルの領域にとどまらない。アウトドアメディアやPOP、新聞や雑誌の記事、商品パッケージ、店員のセールストーク、生活者同士のクチコミにいたるまで、そのすべてを通じて伝わり、さまざまに加工され、広がっていく情報を扱う態度と方法論こそが求められる時代なのだ。
下図は、縦軸にトリプルメディア、横軸にそれがどのような場で機能しているのかを置き、生活者が接するあらゆる「メディア」を9つのマトリックスで一覧できるようにしたもので、博報堂において実際に使われている手法である。(「POEマトリックス™ 」)。マーケターは、このモジュールに自ら実行しようとする施策を書き込み、その全体連携を考えることで、トリプルメディアを単なる概念整理におわらせることなく、プランニングの現場で生かしていくことができる。トリプルメディアへの関心は、象徴としての位置づけから、その具体的な活用手法へと移ってきている。