「断捨離」

 断捨離(だんしゃり)とは、物理的・精神的な意味で、自分にとって不要な対象を切り捨てて身軽になって、シンプルなライフスタイルを目指すこと。
 もともとは、外から不要なものが入ってこないようにアクセスを断つ「断行」、身の回りの不要なものを捨て去る「捨行」、不要な執着から離れて精神的に自由である状況を生む「離行」というヨガの用語を元に、ヨガ・インストラクターをしていたやましたひでこ氏が生み出したキーワードである。
 最近になって、女性誌やテレビ番組で特集されるなど一気にブレーク。今や、やました氏の断捨離関連書籍は計30万部超に達し、セミナーなどでもひっぱりだと聞く。
 モノの過剰、情報の過剰、人間関係の過剰、観念の過剰など、現代人の生活は多種多様な「過剰」で充満しているが、皮肉なことに表層的には豊かであるがために、その内実はむしろ貧弱になっているのではなかろうか。断捨離が支持されている背景には、そのような現代人の反省がありそうだ。
 加えて、エコロジー意識の高まりを背景に強まりつつある、大量生産・大量消費を良しとしない風潮も、断捨離人気の追い風となっているようだ。

 ただし、何でもかんでも捨てて世捨て人のように暮らしたいというわけでは、もちろんない。あくまで、不要なものだけを捨てるのであって、自分にとって重要なものはむしろ大切にしようという気持ちも、この断捨離には込められている。
 電通総研では「消費気分調査」と題して、リーマンショックが冷めやらぬ2009年3月を皮切りに四半期ごとに生活者の消費意識を定点観測しているが、それによるとこれまで一貫して増え続けているのが「消費のメリハリ志向」である。すなわち、こだわりの対象には支出を惜しまないが、そうではない対象には節約を徹底するという、1人の生活者の中で消費の二極化が起きているが、これもまた断捨離の一形態と言ってよいだろう。
 従ってマーケティング的には、「断捨離=消費離れ」と簡単に決め付けずに、こだわり志向・本物志向・エコ商品志向などへ誘引する心理的パスとして、断捨離というキーワードを上手に活用する知恵が求められる。

 さて、改めて考えてみると、この断捨離の意味するところは決して目新しいものではないことに気付く。シンプルライフやスマートライフというおなじみのキーワードとも重なる部分が大きいし、2000年に話題になった新書「捨てる技術」もほぼ同様の主張である。それにもかからず、今これほど注目されているのは、以下の二つの要因があるように思われる。
 ひとつは、ヨガ思想を背景にしているという物語性があること。ヨガの精神的イメージが断捨離というキーワードに思想的深みを付与しており、それが結果的に悩み多い現代人への癒やしにつながっているようだ。
そして、どちらかと言うとネガティブな意味合いの漢字3文字を並べた見た目と、そして口に出して読んだ際の語感の、二重のインパクトも見逃せない。情報が過剰にあふれている現代においては、このように言葉自体のインパクトが重要であることを示唆する。巧みなキーワードを作るノウハウとしても、この断捨離は注目に値しよう。