「ライフログ」

 ライフログ(lifelog)とは、個人の生活(life)をデジタルデータに記録(log)すること。広義では個人ブログの記述やFlickrなどの写真共有サイト上の画像データなどを含む。またライフログの例としてよく取り上げられるマイクロソフトの「MyLifeBits Project」は、身の回りに起こるあらゆることを携帯している機器で撮影・録画し、後から再現することができるようにしたものである。極端な例では、個人が生活上で目にするものすべてをビデオカメラで映像記録しようという試みもある。(ちなみに、睡眠時間を除く日常生活すべてを映像で記録すると、人間の一生分は約10テラバイトだという研究成果もある)

 このように概念としては新しいものではないが、最近、特に注目されているのは、携帯電話などへのGPS機能の普及による、“携帯ライフログ”である。例えばNTTドコモは2008年に経済産業省が推進する「情報大航海プロジェクト」において、「マイ・ライフ・アシストサービス」という携帯電話の新機能案を発表し、ユーザーの閲覧ページや位置情報などからユーザーの嗜好(しこう)や行動にマッチした情報を提供するというコンセプトを提示している。このモデルは2009年にはドコモの正式なサービス「iコンシェル」として実現化され、携帯電話=便利なコンシェルジュ、としての新たなポジションの獲得を狙っている(ちなみに、携帯内のナビゲーターは、“執事”をもじって”羊”のキャラクター)。ドコモはiアプリ「キセキ」でユーザーがGPSを使って訪れた場所と時間を自動的に記録し、訪問した先の地域情報などを表示するサービスも行っている。またKDDIではその名もズバリ「ケータイdeライフログ」というアプリの実証実験を行い、位置情報や購入商品(バーコード)、コメントなどが記録できるようになっている。

 GPSや基地局からの位置情報を使ったゲーム(いわゆる“位置ゲー”)も、広い意味ではライフログに含むことができる。有名なところでは「コロニーな生活☆PLUS」(株式会社コロプラ)や「ケータイ国盗り合戦」(マピオン)のほか、世界中でユーザーが増えている「FourSquare」などがある。“位置ゲー”という呼び名は、株式会社コロニーによって特許出願中である。位置情報にまつわるサービスとして「ジオメディア」と呼ぶこともある。

 ライフログを活用した情報提供の機会が増大すると、ユーザーにとってのウェブの意味合いは変化していく。ウェブ=必要な情報を自分で探すという能動的な世界から、自分に有益な情報が向こうから勝手に送られてくるという受動的な世界への変化だ。テレビのように受動的に、しかも自分に選ばれた情報を次々と受け取るようになる。Googleが支配する検索エンジン中心の世界ではなく、パソコンや携帯電話や身の回りの様々なデバイスを通じて意識せずとも情報が流れる世界になっているかもしれない。

 ライフログのさらなる普及については、プライバシーやセキュリティーの課題は残るが、何よりユーザーにとって役に立つ魅力的な情報がタイミングよく提供されることが重要だろう。ソーシャルメディアの拡大という潮流とともに、マーケティングツールとしてのライフログによってウェブは大きく変化しようとしている。