「グリーンウォッシュ」

 「グリーンウォッシュ」とは、英語で「粉飾」「ごまかし」を意味する「ホワイトウォッシュ」と、「環境」を表す「グリーン」を掛け合わせた造語で、環境配慮の実態がない製品やサービス・企業を、あたかも環境に配慮しているように見せかけること」「環境配慮の実態があっても、それらを実態以上に環境に配慮しているように見せること」を意味する。近年顕著になった環境広告の拡大とともに、その質の問題、「グリーンウォッシュ」が注目されるようになってきた。
具体的には、明確な根拠を示さずに「環境にやさしい」とうたったり、環境によさそうなイメージを使用する、CO2の排出が少ないことを訴求する商品が実は生物多様性の問題には悪影響を与えているなど、企業や商品、そして環境の問題に対して、生活者に誤解を与えかねないメッセージとされる。
 

 すでに法律による規制や国レベルのガイドライン作りが進む欧米では、市民の間でもグリーンウォッシュに対する認識が高まっており、消費者団体や環境NGO、あるいは個人が、規制当局や企業に対して「グリーンウォッシュ」が懸念される広告表現の見直しや出稿差し止めを申し入れるケースも出てきている。その一方、一説によるとグリーンウォッシュ広告は減るどころか、増加しているという。

 「グリーンウォッシュ」とされるコミュニケーションを避けるには、いくつかの難しさがある。第1に、何をグリーンウォッシュと呼ぶかは国や地域、個人によって異なり、基準があいまいな点である。ある国で「グリーンウォッシュ」と判断されて差し替えとなった広告が、他国ではそのまま出稿されているという事例は、枚挙に暇がない。第2に、温暖化が生物多様性の問題と密接に関係しているように、環境問題は互いに複雑に関連しており、それらのつながりを完全に理解することは通常の広告業務の知識の範囲では難しい。よかれと思う環境コミュニケーションが、他の側面の環境負荷を視野に入れぬまま組み立てられる可能性がある。第3に、広告制作の技法である情報の圧縮と、正確な環境情報の伝達はトレードオフになりやすく、またそのリスクは見逃されやすい。正確性・厳密性と、伝わること・分かりやすさを両立させるには、環境問題とコミュニケーションの2つの領域において、専門的な知見と技術が求められる。

 こうした状況を踏まえて、広告会社は「グリーンウォッシュ」への対応に乗り出している。フランスの広告会社ピュブリシスはグリーンウォッシュを避けるために積極的に取り組んでいく考えを明らかにし、コミュニケーション業界をけん引していく姿勢を示した。また、電通は、環境コミュニケーションを行う際の注意事項や参考事例などをまとめて「グリーンウォッシュにならないための DENTSU 環境コミュニケーションガイド」を作成し、リスクマネジメントの観点から従業員の意識徹底を図っている。

 グリーンウォッシュに目を配ることは、コミュニケーションの発信者や作り手にとって新たに浮上してきたチャレンジだと言える。しかし、生活者にとっては、公正な情報が与えられ真の環境企業や、環境に配慮した商品・サービスを主体的に選択できるようになるチャンスである、という読み替えもできる。そう考えるとこの問題の本質は、コミュニケーションの真実性・誠実性を改めて見直し、担保する努力をするという、至極ベーシックなところにあるのかもしれない。