「態度表明社会」

 一億総リブート時代へ

 世界同時不況から1年余。長引く不況への対応、「温室効果ガス排出量の25%削減」への取り組み、少子高齢化やグローバル化への対応など、多くのマクロ課題が生活者の暮らしへダイレクトに降りかかり続けている。現代の生活者はその生き方や暮らし方を抜本的に見直すことを迫られているといっても過言ではないだろう。「自らが率先して変わらなければ続かない」という危機意識は、政府や自治体、企業だけでなく、生活者にも着実に広がっているのだ。こうした「ゼロベースからやり方そのものを変えていかなくては出口はない、漫然とこれまでの体制に乗っていては沈没してしまう」という意識が、マクロな立場からミクロな人々の暮らしに至るまで日本全体を包んでいる。2010年代に入った今、日本は、生き方そのものをリブート(再起動)しようとする、「一億総リブート時代」を迎えているといっても過言ではないだろう。

 態度表明する生活者

 こうした時代環境に適応するため、生活者は新しい行動を始めている。リスクを背負ってでも起こすこの行動は、これまでとは違う社会を生み出していくだろう。それが今回のキーワード「態度表明社会」である。どちらかといえばこれまで日本人は自分の立場をはっきりと表明するのが苦手といわれてきた。しかし、この危機的状況に至って、人々は積極的に自らの考えや行動を公に明示してきている。2009年10月に博報堂生活総合研究所が全国で実施した調査によれば、「ここ数年で思い切ってやめたことがある」人は42%、「ここ数年で思い切って新たにはじめたことがある」人は44%。さらにこの割合は性別、年代別、エリア別、年収別にも大差なく、リスク覚悟の思い切った行動、生き方を変える行動が日本人全体に広がりつつあることがわかる。また、思い切った態度決定だからこそ、当初想定できなかったメリットが得られたとの声も目立った(図1)。「態度表明」とは、生活者が時代を乗り切るための適応行動であると同時に、新しい幸せの発見行為にもなっており、今後も継続するだろうと考えられる。

 賛成の連鎖が流れを変える

 生活者の「態度表明」は消費行動にも広がる。商品の本質や意味の問い直し、ブランドの思想や価値観の見極めなど、企業にも明確な態度を求めた上での選択が進むだろう。それは生活者が「好き・嫌い」ではなく「賛成・反対」という態度で企業を選ぶことを意味している(図2)。企業への賛同者こそが、目指すべき新しい顧客像なのである。また、生活者の賛成づくりのポイントは主に3つ考えられる。企業自体も「そもそも発想」で自らの活動を問い直し、その結果を発論する「①生活議題の発論」。賛成することが生活者にどの程度の負荷を強いるのか、またどの程度の成果を保障するのか。生活者にとっての態度表明のROIを明示する「②行動成果の数値化」。賛成する生活者をコミュニティー化し、それを広く世の中に開示して、さらなる賛同者をオープンに募る「③共賛装置の開発」。これからの企業行動には、これら3つを同時に満たすことで、企業に対する生活者の賛成態度を共鳴させていくこと、つまり「賛成の連鎖」を形成していくことが求められるのである。この生活者の賛成が連鎖する場所こそが新しい市場になり、現在の閉塞感を打ち破る起点ともなる。