マーケティングROIとは、近年注目されている経営指標のひとつで、マーケティング活動の投資収益率(Return On Investment)のこと。分母にマーケティングコストを置き、分子にはそのマーケティング活動によって得られた粗利額(売上額ではない)からさらにマーケティングコスト分を引いた正味の収益額をおき、計算結果がプラスであれば、もうけが出ているということになる。
粗利 ― マーケティングコスト
マーケティングROI = ――――――――――――――――― = ○%
マーケティングコスト
計算式は単純だが、厳密に計算することはそれほど容易ではない。マーケティングコストには広告費のほかにもキャンペーンでの値引きや、既存顧客の維持費用など(DM送付など)様々なものがあり、どこまでを費用として算入するかによっても計算結果は違ってくる。また売り上げや収益は、投資の時期よりもタイミングが遅れて回収されるために、算出期間の区切り方にも配慮する必要がある。通信販売などのダイレクトマーケティングであれば広告と販売の関連づけは可能だが、小売店などで販売される商材では、そもそも広告と売り上げとの関連を個別に測定すること自体が不可能に近い。
とはいえ、広告主がこのマーケティングROIを重視しはじめているのは、広告予算を投下したものの、その効果は広告の到達度や興味関心度などに求めるしかなかった時代から、投資したコストの売り上げや収益への直接的な貢献を求める利益重視へと志向を変化させてきたからにほかならない。そもそも設備投資とマーケティング投資のどちらがどのくらい収益率が高いのか、また個々のマーケティング施策のうち、もっとも売り上げに貢献しているのはどの施策なのか、というようにマーケティングも経営上の投資案件になっているということだ。
費用対効果が比較的見えやすいインターネットを使ったコミュニケーション手法の登場も、こうした変化を後押ししているといえるだろう。投下予算が大きい半面、効果が測定できないテレビCMよりも、商品情報を求めてホットな消費者が集まってくるインターネットに投資した方が効率的だ、と判断する企業は少なくない。
では、費用対効果の見えにくいマス広告は、本当に投資するに値しないのだろうか? 例えば、マス広告を出稿するケースをいくつか考えてみる。
1.新商品発売時や商品ライフサイクルの初期において、速やかに認知率を向上させる
2.通販など費用対効果が見えやすい業態において、コスト効率の見合った出稿
3.商品の需要期や季節性に合わせた販促キャンペーン
4.老舗(しにせ)ブランドの定期的なリマインド策として
5.商品コンセプトやターゲットの変更による新規需要の掘り起こし
いずれにしても、2.以外は広告投下と売り上げとの関連性を明確に把握することは難しいが、一定期間内での投下金額と収益額から、おおまかなROIの算出が可能になる。ROIが明らかになることで、マス広告のコストはもっと下がるべきだという議論につながる可能性はあるが、将来的なブランド構築のための先行投資の意味も含めて、投資先としての本当の価値を導き出せるのではないだろうか。肝心なのは、このまま投資先としての価値を明らかにできず、広告主の意向にそった形で価格の下落に歯止めが掛からない状況から、広告主・媒体側の双方が納得する価値評価の裏づけと価格設定ができるようになることではないだろうか。それは、ターゲットへの到達率や態度変容といった効果だけではなく、最終的な売り上げへの貢献という尺度によって、それぞれの媒体やビークルが評価されるということだろう。つまり到達のボリュームだけでなく、どれだけ売り上げにつながる優良な見込客を集められるかという媒体のクオリティーが重要になってくる。マス広告の投資効果に納得できれば、広告主は自社の投資判断に基づき再び出稿を増やすケースが増加するかもしれない。
投資効果を明らかにすることで、多くの広告主が再びマス広告に回帰し、正常な需給バランスが再生されることが望まれる。