「ネットコミュニティー」

 ネット上のコミュニティーが日常生活の中に定着して久しい。だが、「広告媒体」としてのネットコミュニティーに求められるものは、急激に変質しつつあるようだ。それは、広告主のネットコミュニティーに対する期待が、近年大きく変わってきているからにほかならない。
 マクロの市場動向を確認してみると、「ネット広告費」は1996年の統計開始以降、右肩上がりの成長を遂げてきた(図)。ネットコミュニティーの運営側にとっても、広告収入は変わらず大きな収益源であり、例えばmixiでは売り上げの88%、モバゲータウンの48%が広告による(2009年第2四半期)。また、アフィリエイトプログラムの発達が個人ブロガーたちにとってブログを続けるためのインセンティブの一つとなってきた側面もある。

  一方、これまで広告主サイドが、ネットコミュニティーに期待してきたことは、主に以下の6点に整理できる。
①新規性②インタラクティブ性③セグメントメディア性④クチコミ(Buzz、WOM等)性⑤簡便な効果測定⑥消費者への到達効率の高さ
 しかし、世界同時不況がネット広告の成長に急ブレーキをかける以前から、すでに水面下では広告主側のネット広告に対する期待の質は変わりつつあったとの見方もある。それを、上記①~⑥に即してながめてみよう。
 
 ①の新規性については、一時期、新登場のネットコミュニティーに出稿することで一定のPR効果が得られたものの、「お試し」的な出稿が一巡した後、継続的な広告出稿につなげることに苦戦している点が指摘できる。
 
 ②のインタラクティブ性については、消費者と企業の美しい関係は常に成立するものではないという現実がある。そもそもコモディティ(日用品)においては、常にインタラクティブ性が重視されるとは限らない。逆に無理にインタラクティブにしようとすることはある種の「ゆがみ」すら発生させかねない。あらゆる商品でユーザーが自主制作CMをYouTubeに投稿するわけではないのだ。
 
 ③のセグメントメディア性については、他の媒体との差別化を図る上で重要なポイントとなるが、これを主張するためにも一定規模の「母数」が求められることを忘れてはならない。いまや多くのネットコミュニティーにとって、「母数」の確保は死活問題になっている。
 
 ④のクチコミ性については、情報の流通をコントロールすることが事実上不可能であるという点がネックになる。自由な情報流通が保障されているがゆえに、ユーザー間で爆発的な情報の伝播(でんぱ)が行われるというのがBuzzやWOMの本質なのだが、企業側は「自社にメリットのある情報のみを流したい」と考えており、そうした企業側の潜在的な欲求とユーザーの自由を求める欲求とは本質的に相いれない。また「炎上」のリスクの問題も、企業側にもかなり強く意識されるようになってきた。

 ⑤の効果管理指標の問題は、クリック数やPV(ページビュー)至上主義の陥穽(かんせい)に陥りがちになることだ。広告主の最終的なゴールはマーケティング目標を効率的に実現することにあるのだが、PVを伸ばすことにのみ専念した設計と、最終ゴール(例えば売り上げ)の達成との間のギャップが埋めきれていないのだ。総合的なマーケティング戦略の一環として、どのようにネットコミュニティーを活用していくのかが明確でないと、管理指標としてクリック数やPVが適しているかどうかの判断もできない。

 ⑥の消費者への到達効率の高さについては、一定程度の地位を獲得したネットコミュニティーにとっては最大の強みとなっている。と同時にそれは、既存の他のマーケティングツールとの競争が本格化することを意味する。そしてこの場合、必ずしも常にネット広告やネットコミュニティーが優位になるとは限らないのだ。

 これまで、新しいネット系のサービスなどがブームとなるたびに「従来のマスメディアを使ったアプローチでは解決し得なかったマーケティング上の課題が、新しいネットコミュニティーを積極的に活用することで『すべて』解決できる」かのような論調が起こってきたし、今後も一定周期で起こり続けるだろう。
しかし、今後どのような技術が開発されブームになろうとも、ネットコミュニティーの活用は万能薬ではない、ということを肝に銘じておかないと、ネットコミュニティーを使うことが目的化するという、本末転倒なことになりかねない。

 「クロスメディア」「メディアニュートラル」の重要性の高まりにつれて、広告媒体としてのネットコミュニティーの価値は再定義されるべき段階に来ている。それは、とりもなおさず、広告媒体として、ネットコミュニティーが成熟し存在感を増していることの裏返しなのだ。