消費者の購買プロセスを、下向きの“funnel”=漏斗(ろうと)の形で表現したものをパーチェス・ファネル、または購買ファネルという。
例えば、ある商品の広告を投下したとする。その広告に接触した人のうち何割かが商品に興味を持ち、購入を検討する。そして最終的に商品を買う価値があると判断した人がこの商品を買うことになる。商品の存在を知っていても、実際には数パーセントしか購入しないのが現実だ。マーケティングや広告の目的は、単純化して言えば、この逆三角形の漏斗の入口の部分を広げたり、購入意向を刺激するためにプロモーション施策を行うなどして、購入段階にいたる確率を少しでも高めることにある。問題は全体の効率をあげるためには限られた予算をどこにどれだけ投下すれば良いかが分からないことだ。
デジタルかつ双方向という特徴を持つインターネットの中では、購買プロセスは比較的つかみやすくなっている。本当はどの広告が効いているのか、また購入に至るまでの間に、どのようにページを遷移しているのかが把握しやすくなっているのだ。一方で、これまで広告効果という点では直接的な売り上げへの貢献を求められてこなかったマス広告は、マーケティングROI(Return On Investment:投資回収率)の観点から、より購買に近いインターネットへ予算がシフトされるという現象が起きている。ホームページの購入画面を改善しただけで売り上げが何倍もアップしたという例があるように、購入に直結する部分から固めていくことがマス広告への無駄な投資を防ぐためには重要ではある。しかし、売り上げへの貢献度が不明確なマス広告は、このまま凋落(ちょうらく)していくのだろうか?
実はここに次世代の広告ビジネスのヒントがあると思っている。ひとつはマス広告が収益にどれくらい貢献しているか測定することへのチャレンジである。インターネットのように直接的な測定が難しいため、消費者への定量調査や店頭の販売データなどを組み合わせて、認知や好意度と売り上げとの相関を導き出すしかない。ブランド認知や好意度と店頭での売り上げとは時間的な隔たりがあることも考えると、相関を導き出すのは容易ではないが、この相関とコストの関係が明らかになれば、インターネット内の効果測定も含めたトータルでのマーケティングROIを予測できるため、販売計画に合わせたマーケティング予算額の提案も可能になる。設備投資や研究開発費など、他の投資先との回収率の比較もできるのだ。
もうひとつは、顧客データベースとの連携だ。マス広告に限ったことではないが、広告を出稿した媒体や訴求内容によって、獲得した顧客の質には大きな違いがあるはずだ。例えば、プレゼントキャンペーンをきっかけに顧客になった場合、その他の顧客に比べてその後の継続購入やロイヤルユーザー化率、平均購入単価などに違いが出てくるだろう。
通信販売やeコマースであれば、コールセンターやネットショップ経由で顧客データが集まりやすい。入口のマス広告からロイヤルユーザー化するまでの長期的なパーチェス・ファネル上での効果測定も可能になる。従来のマスメディアとインターネットとのクロスメディア化が進み、一方で通販やオンラインショップなどのダイレクトビジネス市場が伸張していることを考え合わせれば、マス広告を含むマーケティングコストの最適配分と投資効率の最大化が次世代の広告ビジネスの課題になるのではないだろうか。
マーケティングROI重視の時代の広告会社には、広告主の商材に応じた精度の高いパーチェス・ファネルのモデル構築と、それを活用したデータ中心のサービスが求められる。