1.マーケティング・インテリジェンスとは?
マーケティング・インテリジェンス(MI:Marketing Intelligence/ Market Intelligence)とは、堅く言うと「市場(顧客および見込み客)を理解するための情報の収集と分析のプロセス。すなわち、市場のニーズや嗜好(しこう)の変化、動向を測定し、将来の市場規模やその特徴に影響をおよぼしそうなビジネス環境の変化を評価すること」(※1)。一言で言えば「現在と将来予測のための戦略情報の評価」といったところだろう。
ちょっとかっこいい響きで、いかにも最近のマーケティング流行語のように思われがちだが、実は1970年代の論文(※2)にも出てきている言葉だ。それが、なぜ再び注目を浴びているのだろうか?
2.インテリジェンスの意味
「インテリジェンス」は一般には「情報」と訳され、また、一方で「諜報(ちょうほう)」「スパイ」という物騒なイメージになりがちだ。だが、いずれも英語本来のもつ意味とは若干異なっている。
日本語の「情報」にあたる英語は、データ:data、インフォメーション:information、インテリジェンス:intelligenceの三つがある。たとえば、身近な天気でいえば、「湿度10%、気温28度」という素の事実が「データ」。これを他の日と比較して「今日は湿度が低く、気温が高い」という法則性を加えた言い方をすると「インフォメーション」。さらに、「今日は洗濯日和」という言い方で、聞き手が「今日はまとめて洗濯すべきかどうか」という判断を助ける知見となれば、これが「インテリジェンス」となる。
英語圏の情報機関が、CIA(Central Intelligence Agency:米中央情報局)、SIS(Secret Intelligence Service:英秘密情報部)のように「インテリジェンス」を名乗るのは「国のリーダーが判断する時の助けとなる知見を与える」という組織の姿勢を示しているのである。
3.情報過多の時代における「マーケティング・インテリジェンス」
「マーケティング・インテリジェンス」に再び注目が集まったのは、インターネットをはじめとするITの進歩によって、企業が利用できる顧客や市場の情報が爆発的に増大したためである。これまでのリサーチやPOSデータ等に加えて、WEBサイトやECサイトのアクセスログから顧客の購買行動に関する膨大なデータを収集できるようになった。解析ツールを活用すればログから大量のインフォメーション(あるツールではなんと600種類もの指標!)を簡単に生成できる。しかし、利用可能なデータやインフォメーションは増える半面、情報過多によって判断を下しにくくなったり、必要な情報が埋もれてしまったり、という事態も生じてきた。有り余る情報を的確に処理し、マーケティングに活用していくための人間の知恵や知見、すなわち「インテリジェンス」が改めて重視されるようになったのである。
博報堂が本年度の組織改編で、マーケティング・インテリジェンス部を新設したのも「この情報過多の中で適切な助言のできる目利きでありたい」との思いが込められている。
※1 Cornish, S. L. “Product Innovation and the Spatial Dynamics of Market Intelligence: Does Proximity to Markets Matter?”, Economic Geography. Volume: 73, Issue 2 (April 1997).
※2 Philip Kotler、 William M.Pride 、O.C.Ferrellらの論文・著作に見ることができる。