「ソーシャル・メディア・マーケティング」

 ソーシャルメディアとは電子掲示板、ブログ、SNS、プロフ、Wiki、画像・ビデオ共有サイトなど、一般消費者が情報発信するメディアの総称である。以前はCGM(Consumer Generated Media)と呼ばれることが多かったが、近年ソーシャルメディアという表現が定着してきた。このソーシャルメディアを活用して行うマーケティングがソーシャル・メディア・マーケティングである。まだ確立された手法ではないため、WOM、バイラル、ユーザーコミュニティーづくりなど異なったアプローチが互いに混同されがちであるが、以下のように大別できる。

 1.WOMマーケティング

 消費者発のブランドに関するWOM (Word of Mouth≒クチコミ)を最大化するためのマーケティングで、ブロガーへの情報提供等が最も一般的な手段である。気をつけなければならないのは、あくまで消費者の自発的な情報発信を促進するスタンスをとることである。ブランド主導で消費者の情報発信を促しすぎたり、消費者になりすましてブランドが情報発信をしてしまったりすると、ネガティブなWOMを起こしてしまう。ブランドが介在していることを感じさせずにクチコミを誘発する影響を及ぼす、という二律背反を両立させなければならないのがチャレンジである。

 2.バイラルマーケティング

 WOMマーケティングが消費者発の情報の話題性を最大化しようとするのに対し、バイラルマーケティングではブランドが話題性のあるコンテンツを提供する。そのコンテンツがソーシャルメディアを通じて伝播(でんぱ)し、多くのメディアコストをかけずとも広いリーチを得ることを狙うのだが、その伝播力は無論コンテンツの魅力に依存する。従来のメディアを用いるより効率的となるか否かは、どれだけ低コストで魅力的なコンテンツを作れるかのクリエーティブ勝負となる。また、いくら消費者にとって魅力的なコンテンツであっても、それがブランドと明確な関係性がなければコミュニケーション効果は小さい。ブランドのメッセージを伝えながら、消費者が見たくなる広告を作るという従来の広告の課題と、実は同じ課題を抱えている。

 3.ブランデッドコミュニティー

 ブランド主導でユーザーのコミュニティーをつくり、そこに向けたコミュニケーションを積極的に行い、ブランドとユーザーのきずなを強くしていく。ブランド独自のコミュニティーサイトを立ち上げるケース、SNSなどにユーザーのコミュニティーを立ち上げるケース、自社サイト内に掲示板やWikiを用意しユーザー間の情報共有を促進するケースなど様々なパターンがある。従来はブランドロイヤルティーを高めることやコミュニティーを通じてユーザーを巻き込んだ新製品開発を行うことがほとんどであったが、最近はDell社がマイクロ・ブログ・サイトTwitterでの特売情報やクーポンをつけたポストを通じて6カ月で100万ドルを売り上げたように、ソーシャルメディアでつながりをつくったユーザーに向けて販促を行うケースも見られる。

 4.コミュニティーマーケティング

 消費者が既に組織化しているコミュニティーにブランドが参加し、そのコミュニティーのメンバーとの関係づくりをしていこうとするアプローチ。例えば、環境意識、特定の趣味など、ある関心領域を持ったコミュニティーとコミュニケーションを図ることで、そのコミュニティーに対する理解を深めていくことが主眼となる。コミュニケーションを強めることで、結果的にそのコミュニティーから共感されるブランドになりうるが、それをあからさまに目的とすると、WOMマーケティング同様ネガティブな反応を生むリスクがある。

 いずれのアプローチにおいても、ソーシャル・メディア・マーケティングは、マーケターが完全にコントロールできるものではなく、あくまで消費者の能動性に委ねる覚悟が必要である。また、マーケティング分野としてまだまだ発展途上であり、確立された手法は不在である。そのためマーケティングROIの不確実性も極めて高い。しかし、それだけに成功すれば競合ブランドに対し大きな競争優位を築ける可能性もあり、今後ますます重要性が高まると思われる。