「メディアニュートラル」

 「冒険野郎マクガイバー」に見習うニュートラル発想法

 みなさん、「冒険野郎マクガイバー」という80年代に一世を風靡(ふうび)したアメリカのTVドラマシリーズをごぞんじでしょうか? このドラマの主人公マクガイバーは秘密組織のメンバーで毎回危機に陥ります。しかし、その危機からの脱出方法がエクセレント! たとえば、台所に監禁されると小麦粉をまき散らし、ガスコンロを点火。その膨張力でガラス窓を破壊したりするわけです。課題解決(=この場合は監禁状態からの脱出)に対し、既成概念を取っ払い持ちうる手段のすべてをニュートラルにとらえ、最高の課題解決を考える。しかも、1時間の放送時間内に解決する。すべての広告会社の新入社員研修でマクガイバーを見せたいくらいです。

 グーグルの採用広告に見るコアアイデア発想

 博報堂ケトルは設立当時からマクガイバーを見習って、得意先の課題解決のためにもっとも効果的な解決策を見出そうと、考えています。その目標のひとつがクリスピンポーター&ボガスキー社が作ったグーグルの採用キャンペーン。グーグルはスーパーブレーンズといわれるハーバードなどの秀才を採用したかった。普通の広告会社ならそこで採用広告の提案をしてしまうかもしれません。しかし、彼らのアイデアは「e(自然対数の底)の中から最初に連続する10けたの素数.com」と書かれた横断幕をハーバード大学の最寄り駅に掲出すること。このコピーにビビっときたあなたにはすぐにでも留学をお勧めします。大半の人にとっては「?」な表現ですが、実はこのコピー、スーパーブレーンズにとっては「萌え~」な表現。晩ごはん抜きでも今すぐ答えを出したい問題なのです。最後に.comと付いていますから、彼らは早速ネットにアクセス。難問に答えると、なんと第二問が・・・・・・。さらに答えるとそのサイトはグーグルの採用サイトに。このキャンペーン、スーパーブレーンズ達はクイズ好きだからクイズに答えさせようというコアアイデアから発想し、一番効果的なメディアを真剣に考えた結果、横断幕→ウェブというメディアにたどり着いたのだと思います。

 メディアニュートラル発想はどうインサイトを突くかから発想

 このように、メディアニュートラルなキャンペーンはコアアイデア(=どう人のインサイトをつかむか)からピュアに発想し、何が一番効くメディアなのか考えることで生まれます。しかも、そのメディアはもしかしたら既存のメディアではないかもしれません。もしかしたら社長の会見が最高のメディアになるかもしれませんし、新聞の折り込みチラシが最高のメディアかもしれません。

 メディアニュートラルなプランニングのコツは、ただひとつ。コアアイデアを考えるときに、テレビCMやグラフィック広告を意識的に想定しないようにすること。我々は今までの経験の蓄積により、自分が思っているよりはるかに既存メディアの枠内でものごとを発想する思考回路にとらわれています。コピーを考えるにしても、テレビCMを前提としたコピーをつい書いてしまう。ついグラフィックに定着しやすいビジュアルアイデアから考えてしまう。表現を考えるときにすでに自分が一番慣れ親しんだある特定の媒体を前提としてしまっているものです。しかしそうした瞬間にメディアニュートラルな思考は消えてしまいます。

 マス媒体とメディアニュートラル

 メディアニュートラルな発想によるキャンペーンプランニングは、マス媒体の地位をおびやかすもののでしょうか? 確かに媒体を先に決定してから枠を埋める従来型の発想に比べると、マス以外の様々なメディアの可能性を高めることになるのは間違いありません。しかし、それと同じくらいメディアニュートラル発想は、それぞれの媒体の特性をより発揮しやすくすることになります。CMはCMの、新聞は新聞の果たすべき役割がより明確になります。

 新聞メディアの強みを利用するコミュニケーション

 たとえば、新聞。新聞の強みはなんでしょうか? ビジネスマンがオフからオンに変わるタイミングに読む媒体である、政治経済、国際ニュース、スポーツ、芸能までそれぞれのカテゴリーのニュースが載っている媒体である。信頼度の高い媒体である。いろんな強みを挙げることができます。

 アメリカだけでなくアジアやヨーロッパなど世界中のニュースを発信する「クーリエジャポン」の広告をケトルで制作したとき、ニュートラルな発想から起用したメディアは新聞。しかも、掲載日はブッシュ大統領が来日して小泉首相と会談した翌日。日米同盟の更なる強化を訴える両首脳のニュースが掲載された新聞に、「アメリカだけが世界でしょうか」という逆説的なキャッチコピーの広告を掲載したのです。メディアニュートラルな発想で適材適所なメディア選択が実現することによって、媒体価値の新たな地平が開ける、そんな可能性を秘めていると思います。