「サービスブランディング」

 サービス産業の競争力強化が叫ばれている。サービス産業は、日本社会の中で占めるウエートを高めており、就業者数で60%台半ば、GDPで70%強の規模まで成長した。今後、総人口の減少などで市場が縮小する中、苦境に立たされた製造業各社が、少しでも生産コストを抑えるために、生産拠点を海外に移していく動きは加速される気配である。そうなると日本社会は製造業への就業割合(現状30%)がさらに低下し、サービス産業への一層のシフトが起こってくると予想される。経済産業省が発表した『新経済成長戦略』の中でも、製造業とサービス産業の二つが相互に補完し合う「双発エンジン」として、人口減少下でも成長は可能とうたっている。

 しかし、「世界で活躍する日本企業」と聞くと、ほとんどの答えは自動車や電機などの「モノづくり」の会社が挙がり、残念ながらサービス業の企業名はあまり聞かれない。しかし、三戸祐子氏著作の『定刻発車』によると、日本の鉄道のシステムは、世界で類を見ないほど、時間に確実なシステムである。電車の定時性や、旅館の心くばり、宅配便の正確さなど、日本が培ってきたサービスの品質は、国際的にも定評があり絶賛されている。こうした日本人が持っている『おもてなしの心』を、価値に変換していく装置が必要とされており、そのカギとなるのが『ブランド』による仕組みづくりである。

 目に見えないサービスにおけるブランディングとは、その企業でしか得られない固有の「体験」をつくり、それを支持する顧客との強固なきずなを築くことである。そのための方法論は様々だが、どのような業界でも不可欠なのは、「顧客の見極め」「提供価値の見極め」「人材の見極め」の三つの境界線を明確に引くことである。

 「顧客の見極め」とは、誰が第一のお客さまで、そうではない顧客は誰なのかを明確化すること。どういう顧客のどういう声を大切にすべきかの判断軸をもつことこそ重要なのだ。

 大事にする顧客が定まったら、次にサービスを構成する複合的な要素の中から、最優先事項の提供価値を見極める。例えばレストランならば、接客、料理、店の雰囲気などのどれを大事にするのかを決めていく。これはどの要素にフォーカスするかが大切なのではなくて、どこまで徹底度合いを高められるかが、競争上重要となってくる。例えば右図の中で、サービス財での提供価値として八つに類型化しているが、その中で自社としてどの要素においてオンリーワンの位置を確保するかは、誰を大事にするのか決まっていればおのずと見えてくるはずである。

 三つ目の見極めは、どんな人が対応するのか。つまり、それを担う人材は誰かという問題である。対応する人によって、提供する価値の善しあしが変わってしまうため、人材は最も注力する提供価値と必ずリンクしていなければならない。

 これら三つの境界線があいまいだと、現場の努力に依存した精神論に陥ってしまうことがままある。古くから日本のサービス業では、黙ってお客さまのために尽力する、いわば「不言実行」が美学とされてきた。しかし、ブランディングの観点では、「有言実行」が必要とされる。自分たちは何ができて、何ができないのかを、きちんと発信し続けることが大切なのだ。