最近、自社の商品・サービスのターゲットを、ライフスタイルの観点から見直そうと試みる広告主が多い。USP(ユニーク・セールス・プロポジション)やイメージだけではブランドの差別化が困難であり、ターゲットのライフスタイルに影響する強い体験を提供しないと、彼らの心を動かしづらいことが背景にある。さらにインターネットなどデジタル環境の進化は、生活者のライフスタイルや情報接点の多様化を促している。多様化するターゲットと多様化する接点をつなぎ、そこでいかに心を動かす体験を提供するか、緻密(ちみつ)に計算しストーリー化することが課題となっている。
このような動向の中、ターゲットを質的に分類し、メディアを質的な側面から評価し、最適な組み合わせを導き出す「ライフスタイル別接点プランニング」(ADKは一連の分析手法を『ターゲットスコープ』と命名)が注目されている。
ではライフスタイル別接点プランニングを行う際に重要なことは何か? ADKの「ターゲットスコープ」では、ターゲットをとらえる際に3つのポイントを重視している。
1つ目は、視野の広さである。例えば食品ターゲットを分析する場合、デモグラフィック特性だけでなく、食意識、健康意識、買い物スタイル、家族観など様々な角度でとらえることが重要であり、少し視点をずらすだけで新しい発見がある。
2つ目は、一人を深く見ていくことである。なぜその商品を欲するのか、ブランドやカテゴリー使用から、メディア接触、消費スタイル、趣味、価値観まで、デプスインタビューのように階層別に掘り下げてプロファイリングできることが重要である。
3つ目は、ライフスタイルで分類された人々ごとに、接点・コンテンツの関連性を見ていくことである。趣味×テレビ番組×ウェブコミュニティー×遊び場所など、横断的に見ていくことで、どこで火をつけ、どう広げるかといったストーリーが見えてくる。
「ターゲットスコープ」の事例として、シニア男性のビールユーザー分析を紹介する。本物志向ビールAユーザーは自分で料理をするこだわり派と思われたが、実はミーハーで食事は妻まかせの人であった。また、情報接触を見ると、シニアにもかかわらず若者ドラマやバラエティーを積極的に視聴し、一方でPCやDVD鑑賞が好きといった引きこもりの側面も見えてきた。このように質的にターゲットをとらえることで、いわゆるシニア男性と異なる接点アプローチの必要性が明らかになった。
これまで、ターゲットのライフスタイル分類別に最適な接点・コンテンツを数量的にひも解き、その分析をメディアバイイングまで一気通貫して活用することはあまりなかったが、メディアの質的評価を意味するエンゲージメントの考え方や、クロスメディア環境におけるコンテンツ発想のプランニングが浸透する中、生活者のライフスタイルに応じた接点戦略・設計が、新たな価値を持ち始めている。
ターゲットを質的側面から切り取り、質的な側面から最適な接点を導き出す、ライフスタイル別接点プランニングの手法は、今後も主流となる360度のコミュニケーション戦略を質的に高めるための手法として、今後もより一層求められていくと考えられる。