「中国次世代生活者・80后」

 中国では今、「80后(バー・リン・フォー)」と呼ばれる世代が、注目を浴びている。中国語で「后」とは、日本語の「後」を意味し、「80后」とはつまり1980年代(以降)に生まれた若者(現在の年齢で言うと、18歳~28歳)を指す。例えば、あるウイスキーの広告では、70年代生まれの人(70后)から80后へ向けた手紙が、広告のコピーに使われている。「親愛なる80后へ我々があなたたちの現実主義を批判する時、あなたたちは我々の理想主義を軽蔑(けいべつ)するだろう。そんな時は一杯飲んで、互いの長所を認め合おう70后より」。テレビ・新聞・雑誌でも、80后に関する特集や、彼らをターゲットにした番組や記事が数多く見られる。80后が社会の関心を集めるのは、彼らが4つの特徴を持った新人種だからだ。

 その1つ目は、彼らが「市場経済とともに育った」点。中国が改革開放経済に移行した1979年以降、日本の家電メーカー等が相次いで進出。80后は、多くの外資系企業やブランドが上陸する中で生まれた。

 2つ目は、彼らの多くが「1人っ子」である点だ。1979年は1人っ子政策開始の年でもあるが、中国では近居・同居が多いだけに、両親や祖父母などたくさんの大人に愛情とお金を注がれて育った。社会に出てもお小遣いをもらうという人も多く、社会的に問題視されることもある。また、80后は少子化の先駆け世代であるにもかかわらず、約2億人とボリュームが大きく、消費者として魅力的な層だ。

 3つ目は、彼らの多くが「大卒・ホワイトカラー」である点だ。中国の大学生の数は、2000年代、つまり80后が大学生になる頃から一気に増加する。当然社会人になれば、上の世代より相対的に給料や可処分所得も高く、優良な消費者となる。

 4つ目は、中国における「ネット・ユーザーのほとんどが彼ら」である点だ。現在中国にネット・ユーザーが約2億人いるが、そのうちの約7割が80后と言われている。ウェブを含めたクロスメディアキャンペーンのターゲットは、80后以外ありえないと言っても過言ではない。

 そんな新人種の「80后」をつかむために、博報堂研究開発局では、上海・北京・寧波・杭州の都市部に住む80后約50人に、定性調査を実施した。そこで発見したのは、「消費」の観点で見ると、80后が4タイプに分類できることだ(図参照)。

 タイプ1は、衝動的に消費行動を行う「月光族」だ。「光」とは中国語で「使い果たす」ことを意味し、1カ月の給料すべてをブランド品などに衝動的に使い切ってしまうタイプ。タイプ2は、社会的意義のあるモノや自分らしさを体現できるモノであれば、何も考えずに衝動的に消費する「洗練族」。モノや消費自体にはあまり関心がなく、その背景にあるものや経験によって消費を行う点で、成熟した日本の若者に大変近いと言える。タイプ3は、自分が欲しいと思うモノを、計画的に買う「飯族」。「飯」とは、80后がよくネット上で使うはやり言葉で、「ファン」を意味する。タイプ4は、将来なりたい自分に近づくために、計画的な消費をする「透明族」だ。「透明」とは、中国語で「明日の自分に投資する」という意味。

 消費に刺激を感じ、ひたすら買い物に走るイメージを、我々は今の中国人に抱きがちだが、それは70后まで。80后にも「月光族」のように消費意欲旺盛な層は存在する。しかし、「飯族」や「透明族」のように、消費が当たり前の中で育ち、もう少し大人で計画的な消費行動を行うのが、この層の特徴だ。いずれにせよ、中国ではこれまでとは全く違う「次世代生活者」が生まれている。我々はこの「80后」をしっかりと把握しないことには、未来の中国市場から取り残されてしまうだろう。