最近「CO2排出権付き…」の商品が話題になっている。昨年末の「カーボンオフセット年賀状」をはじめ、旅行企画や宿泊パック、車や空調機などのリース商品、さらには宅配便など、枚挙に暇(いとま)がない。
我が国を含む先進諸国は、温室効果ガス(GHG)の排出量削減を国際的に公約しており、その削減努力の検証期間が今年から始まるうえ、先の洞爺湖サミットを契機に、民・官挙げてGHG削減や循環型社会などをテーマとした取り組みが活発化してきているのだ。GHGの中でも象徴的なものがCO2であり、その対策が組み込まれた形で商品化されているのが冒頭紹介した商品群である。
例えば「カーボンオフセット年賀状」では、年賀はがきの寄付金分をいわゆる京都メカニズムの一つである「クリーン開発メカニズム(CDM)」を通じてできた「排出権」の購入にあてることで、わが国のCO2削減目標である「-6%」に貢献する仕組みになっている(図参照)。
この動きは、広告周辺領域においても活発化しており、「CO2排出権付き広告」企画が実現している。例えば電通と北海道放送は、テレビ番組放送とカーボンオフセットを一体化した視聴率連動型実験番組として、去る4月25日に「Hanaテレビ(第1部)エコスペシャル」を放送した。これは、-6%を達成するための「一人一日1kg」削減目標に基づき、番組放送の1時間分に相当するカーボンオフセットを、視聴率から換算した視聴者数分実施するというもの。また、同様にイベント・商品開発・プロモーションなどが構想・開発されている。
ただし、「CO2排出権付き…」と称するものであれば、いずれも手放しで称賛すべきかというと、事態はそれほど単純ではない。
まず、それは「いったい何をオフセットしているのか?」に注意を払う必要があるだろう。そもそもカーボンオフセットとは、その商品やサービスなどの環境負荷計算を基にCO2の発生量を確認し、その分を打ち消す(相殺する)ために、植林をしたり排出権を購入したりするものである。オフセットに先立って、本来であれば発生量を最小限にする努力が必要だ。その上で、「どうしても出てしまった」分を相殺するのが筋と言えよう。むやみなオフセットや排出権の購入は、環境問題に対する安易な解決策ととらえられ、批判の対象になるリスクもある。
さらに、「どこからどこまでをオフセットすべきか」という問題もある。環境省の「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」によると、その範囲は「原則として、オフセットを行おうとする者が主体的に選ぶものである」となっており、明確な規定はない。
特に、社会インフラとも言える出版や放送といった媒体の上に出稿される「広告」の場合、出版や放送事業にともなって排出されるGHGを、その「メディア」か「広告」どちらにひも付けるのかが議論の分かれるところだ。また、放送であれば機器の製造時・廃棄時に排出されるGHGや、使用時の消費電力に伴うGHGに関しても、「どこにひも付けるのか」は専門家の間でも見解が分かれることがある。逆説的なようだが、「CO2排出権付き広告」を成立させている、媒体社・広告会社・広告主の、さらにはそれを受け取る一般消費者の見識が問われているのだ、と言ってもいい。
一方で、プラスの面ももちろんある。このような動き自体が、消費者の環境意識を高め、環境省の言う温暖化対策の「自分ごと」化に資するというスタンスだ。実際の削減効果もさることながら、消費者啓発に有用であるならば、積極的に進めることの意義は大きい。「CO2排出権付き…」の企画に当たっては、マーケティング上の目的と、温暖化対策の本義とのバランスを取り、その妥当性を見極める必要があるのだ。