ながら族とは1958年の流行語であり、当時の受験生がラジオを聴きながら勉強していたことから「メディア接触と並行して別の生活行動を行う」さまを揶揄(やゆ)したのが起源だった。しかし、今日の「ながら」行為は、多くの情報を短時間に処理する能力として、むしろ肯定的にとらえることができる。
「メディア・バトルロイヤル」とは、わが国のリビングにおいて繰り広げられている、各メディアの視聴状況を指す造語である。「ながら族」の今日版と言い換えてもよい。
今年度の電通総研「10,000人調査」によると、一週間以内にテレビを見ながら何かをした行為数は、平均3.83に達した(表1)。今の生活者は、テレビの他に3.83個のメディアと「ながら」接触しているのだ。「ながら」の筆頭はPCであったが、同じ調査で「テレビと同じ部屋にPCがある世帯」が74.5%であることを考えると、実にその8割以上でテレビとPCの「ながら」が行われていることになる。
また、世代によって「ながら」メディアに特徴が見られ、男女とも40代以上は新聞のスコアが高いのに対し、それ以下の層では携帯でのメールが高くなっている。
このように、同時に複数のメディアから情報を得るスタイルは常態となってきている。メディアは目的をもって摂取される対象から、あって当たり前の「環境」へと変化しつつあるのだ。結果、生活者の関心・注意を獲得し、選択されるための力をどれほど持つかが、メディアには常に試されている。それが、リビングをリングとした「メディア・バトルロイヤル」と表現した所以(ゆえん)である。
ただし、メディア間で常に戦いが行われているわけではなく、共闘・共犯関係も存在する。テレビと一緒にPCや携帯電話で行っていることを聞いたところ、テレビと連動した行為を行っている人は全体の約6割に至る(表2)。
また、生活者がどのような情報をどこから得ているかとの問いには(表3)、政治経済から流行トレンドまで、すべての項目でテレビ(民放)が情報入手元としてトップであり、一次情報ソースとしてはテレビが圧倒的な存在感を誇っている。ネットで増幅するネタの大もとはテレビであることが少なくないのだ。これは、普段ブログや動画投稿サイトを閲覧したり、検索ワードランキングを見たりするときの感覚とも一致している。テレビから流れる情報が、一部のアクティブなユーザーによりネットへとアップされ、そのコンテンツに対して、好意や悪意が付加されながら、エコーのようにネット上に響き渡る。時にはエコーがエコーを呼び、無限にループし続ける「祭り」となることもある。
この間の事情についての詳細は、電通総研「情報メディア白書2008」を参照されたい。