2017年に実施した「コンテンツファン消費行動調査(※1)」の結果をみると、2017年の音楽リアルイベント(=ライブなどの音楽に関わるイベントでの支出)の推計市場規模は2,817億円と、最も存在感が大きなものになっている。それは従来のライブ・コンサートに加えて音楽フェスの流行による影響が大きく、音楽におけるライブイベントの定義や市場が変わりつつあるためだ。
音楽の消費の仕方の一つとしてのリアルイベントとは、例えば、ライブ・コンサートへの参加、音楽フェスへの参加、映画館などでのパブリックビューイングを指す。さらに、音楽以外のコンテンツ消費の仕方としてのリアルイベントの例を挙げると、スポーツの生観戦や、ミュージカルや演劇の生鑑賞、さらには映画やドラマのロケ地に赴く「聖地巡礼」も含むと、「コンテンツビジネスラボ」(博報堂DYメディアパートナーズと博報堂の共同研究プロジェクト)では定義している。
コンテンツビジネスラボが実施した2017年のコンテンツファン消費行動調査によると、音楽の推計市場規模は8,143億円と、全カテゴリ中1位となっている。
カテゴリ市場規模の推計
※15-69歳人口を8703.9万人で推計
(コンテンツファン消費行動調査2017より)
その中でも、リアルイベント市場は上り調子で、2016年以降はパッケージを上回り音楽の支出カテゴリでトップとなった。
音楽市場におけるカテゴリ別市場規模
(コンテンツファン消費行動調査2017より)
近年、若者を中心に、コンテンツそのものよりその場を人と共有することを重視するようになった。それに伴って、ライブやコンサートよりも仲間と盛り上がりやすいフェスの人気が上昇した。フェスの開催数がここ数年で激増したのは、そのためだと考えられる。実際、『ぴあエンタテインメント白書』のデータを見ても、音楽フェス動員数、市場規模は、共に拡大している。
音楽フェス動員数/市場規模
(ぴあ『ライブ・エンタテインメント白書』より)
また、CDからフェスへと注目すべき市場が変化したことで、カルチャーとしての音楽にも変化が起きている。音楽は、いかにみんなと盛り上がれるかがキーとなった。それによって、KANA-BOON、キュウソネコカミ、KEYTALKのような、いわゆる「踊れる音楽」を売っていくバンドが人気になった。
このように、音楽市場においてフェスが盛り上がりを見せる要因は、スマホ・タブレットの普及により、iTunesを始めとするサブスクリプションサービスや、YouTubeで音楽を楽しむことが習慣となり、いつでもどこでも音楽を楽しめるからこそ、「生=ライブ」の価値が相対的に上がったためであると考えられる。
さらに、リアルイベントにお金をかけるようになった人たちがマーケティング上二つの視点で重要なターゲットとなってきている。
一つは、ライブやフェスを楽しんでいる人たちは、音楽リアルイベントに限らず、映画や漫画、アニメなどの他コンテンツにもお金を使っているということだ。つまりリアルイベントに参加するファンは、他のジャンルコンテンツとのコラボレーションに新たな消費機会を作れるターゲットだといえるのかもしれない。
年間平均支出金額(全コンテンツ)
(コンテンツファン消費行動調査2017より)
もう一つは、コト消費に限らず、モノ消費に対しても積極的だということが言える。気になっている作品であれば、事前予約までして購入したり、ファンクラブに所属したり、ファングッズの購入をしたり、通常盤ではなく限定版の購入をする。
(コンテンツファン消費行動調査2017より)
音楽以外のコンテンツも楽しみ、コト消費に限らずモノ消費もしていく「リアルイベント利用者」は、コンテンツ市場全体を活性化してくれる非常に重要なターゲットと言えるだろう。
(※1)コンテンツファン消費行動調査
コンテンツビジネスラボが独自に実施する生活者調査。全国の15~69歳男女・計5,000名を対象に、エンタテインメントやスポーツなど計11カテゴリのコンテンツに対する消費行動の実態を把握したもので、業界団体別の出荷・売上データなど既存のコンテンツ関連調査では把握できなかった、生活者のコンテンツ消費実態に本格的に迫った調査として、2011年の発表以来、幅広い業種の企業やコンテンツホルダーにご活用頂いている。(博報堂コンテンツファン消費行動調査 ウェブサイト)
- 調査方法:インターネット調査
- 調査地区/対象者:全国 15~69 歳の男女 (全国7エリアを性年代別人口構成比で割付)
- 有効回収サンプル数: 5,000 サンプル
- 調査時期 毎年2月
- 全11カテゴリ(「ドラマ・バラエティ」「アニメ・特撮」「マンガ・ライトノベル」「小説」「映画」「音楽」「ゲーム」「美術展・博覧会」「スポーツ」「レジャー施設・イベント」 「特定のタレント・人物」
- 2014年度から個別のテレビ番組についても聴取
【 調査の特徴 】
- コンテンツファンの行動を、「興味」「利用」「支出」「ファン」の4行動に分類し把握
- 「誰が」「何に」「いくら」支出しているかを分析したリアルなデータ
- 全国7エリアを性年代別人口構成比で割付した調査設計により、市場規模の推計が可能
- 支出喚起力は各カテゴリのファン上位5コンテンツのカテゴリの計でファン推計人口30万人以上かつ支出N数10以上のみ掲載
- 既存の各業界団体別の出荷/売上データからは把握できなかった支出項目も捕捉
- シングルソースデータのためコンテンツのジャンルをまたいだファン行動の分析が明らかに
- どんな機器やサービスを使っているか等のコンテンツ利用環境とのクロスデータも算出可能
- コンテンツファンの行動だけでなく、意識・価値観、コンテンツ以外の財・サービス購入・関心も聴取
博報堂 研究開発局 研究員
2017年博報堂入社。研究開発局で研究員として、一般消費財の消費行動研究、タレントキャスティングと購買との関係性に関する研究などを行なっている。また、コンテンツビジネスラボのメンバーとして、エンタテインメント領域のコンテンツ消費動向研究を行なっており、音楽分野担当として音楽ヒット予測研究等にも従事。