「モノからコトへ」と消費のあり方が変わる中で、ヒット商品よりもヒット習慣を生み出すことを目的としたプランニング手法。習慣トレンドに合わせて、短期的な売りをつくるのではなく、中期的に「売れつづける仕組みづくり」を行う。
チャールズ・デュヒッグ著『習慣の力』によると、人間の行動の約40パーセントが「習慣」だという。「習慣」とは判断を必要とせず無意識で行う行動のこと。歯磨きをする、シャワーを浴びる、いつもの経路で通勤する、掃除をする、SNSをながめる、ジムに通う、コンビニで毎日同じ飲料を買うなど、あらためて振り返ると、実に多くの習慣によって暮らしが成り立っていることに気がつく。習慣によって、すべての行動に頭を使う必要がなくなり、結果的に、脳の省エネにつながっているのだ。
「習慣プランニング」は、自社の商品によって新たな習慣をつくる、もしくは既にある習慣に組み込むことで、定期的に使いつづけてもらうことを狙ったプランニング手法だ。『習慣の力』によると、習慣は下の左図のように、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のループによって成り立っている。それに加えて、博報堂「ヒット習慣メーカーズ」では、より報酬を実感しやすくなる「触媒」の存在が習慣化の隠し味として大事だと考えている。例えば、歯磨きをする習慣の場合、右図のようなループが描ける。
博報堂「ヒット習慣メーカーズ」は、企業の商品特長を活(い)かして、独自性、競合優位性のあるループを描き、浸透させていくことを通じて習慣化を促すプロジェクトである。そのようなループをつくる上で重要なヒントとなるのは、世の中の習慣トレンドがどうなっているかを把握し、その流れに乗った習慣づくりを行うこと。ヒット習慣メーカーズでは、習慣トレンドを把握すべく、定期的にメディア論調分析、ソーシャルメディア分析、検索キーワード分析などを⾏っている。その中から、最近の二つの潮流をご紹介したい。
- ◆潮流①「あえてひと手間」
京都大学デザイン学ユニット 川上浩司特定教授が、一見すると不便だけど、結果的によかったなと感じることを「不便益」と名付けている。習慣の潮流にもそれを是とする傾向が見られた。例えば、急須でお茶をいれて飲むことが再注目されたり、現像が必要なアナログカメラで写真を撮る若者が増えていたり、主婦雑誌では雑貨や収納グッズをハンドメイドで自分好みにつくる特集が毎月のように見られるようになった。合理効率化が進む中で、あえてひと手間加えることで美味しく感じたり、ちょっとした個性を出せたり、愛着が湧くなど新たな報酬が生み出されているようだ。
- ◆潮流②「体の乱れを正常化する」
2018年3月にヒット習慣メーカーズが行った「第一回 全国習慣実態調査」の1年以内に始めた習慣ランキングの上位を見ると、「歩くことを心がけるようになった」「サプリメントを活用するようになった」「しっかり朝食を食べるようになった」「糖質をおさえる食生活をするようになった」など、体の乱れを正常化する習慣が多くみられた。これら以外にも、快眠フードを食べたり、寝る前用のフレグランスが発売されたり、音楽サブスクリプションサービスでおやすみ前の優しい音楽というプレイリストが登場したりするなど、「おやすみ前のひと手間」により睡眠の質を高めることも注目されている。
【第一回 全国習慣実態調査概要】
・調査地域 全国、47都道府県
・調査手法 インターネット調査
・調査対象 15~59歳の男女、8,273人(有効回答数)
・調査時期 2018年3月24日(土)~30日(金)
ひとたび習慣化されると行動が自動化されてしまうので、あらたな習慣にスイッチさせるのは容易ではない。逆に言うと、商品が習慣に組み込まれてしまえば、使いつづけてもらう可能性が高まり、持続的な収益が期待できる。今後は、短期的な成果を求める仕掛けだけではなく、中期的な成果につながる「売れつづける仕組みづくり」を狙った「習慣プランニング」に注目が集まるのではないだろうか。
博報堂 統合プラニング局 チームリーダー/ヒット習慣メーカーズ・リーダー
メーカーの商品開発職を経て、2008年に博報堂中途入社。入社以来、マーケティング職として、トイレタリ―、自動車、通信会社、食品メーカー、新興企業、官公庁など幅広い業界の戦略立案を行っている。15年より統合プラニング局にて、戦略と戦術を越えて、新たな価値創造を目指した統合ディレクションを行っている。