サブスクリプション(Subscription)とは、近年注目されているビジネスモデル。元々は雑誌の月額購読モデルを意味していたが、次第にApple MusicやSpotify、NetflixやAmazon Primeなど音楽や映像ソフトにも広がった。最近では家電や自動車などハードウェアでも同様のビジネスが行われている。
2011年、AdobeがCreative Suiteに加えてCreative Cloudという⽉額制サービスを始めた。本来箱売りであったパッケージサービスを⽉額オンラインサービスにすることで、消費者は必要な時に必要なものだけ⽉額で利⽤することができるようになった。当時の私はWEBバナーの編集が多かったため、Flash ProとPhotoshopの利⽤をしていたが、Illustratorの活⽤も含めた⽅がよいと、⽉額制サービスの中で内容をアップグレードした記憶がある。消費者の好みによってアップグレード&ダウングレードできるサービス、それがAdobeのとった新たな戦略だった。
「サブスクリプション」と「定額制」について整理したい。定額制、または定額課⾦は毎⽉同じ⾦額でサービスを利⽤できる制度だ。それに加えて、サブスクリプションは顧客ニーズを考え、その利⽤データを元に適切なサービスや商品を提供し、⽉額モデルをアップグレードやダウングレード、時には休⽌することも含め顧客関係を築いていくモデルだ。適切な顧客データをもとに1on1マーケティングを⾏うこと、これがサブスクリプションサービスを一般的な定額制と分ける大きな違いである。
マーケティングの観点では、現在のサブスクリプションモデルには二つのタイプで考えられる。一つは製品自体にこのモデルを適用するタイプである。前述のAdobeはソフトウェアの例だが、個人的に注目しているのはモノ(ハードウェア)のモデルである。ダイソンの「Dyson Technology+」は、ユーザーが自分の好みにあった製品の利用プランを選べる。そのプランを継続して利用すれば、新しい機種へのアップデートや、プランの構成上横展開も想像できる仕組みになっている。他にも分割購入に近い形ではあるが、パナソニックの「安心バリュープラン」や、トヨタの「KINTO」などがある。
もう一つは、購入のフックをつくるタイプ。これはギターのフェンダー社が行った「Fender Play」に代表される。「Fender Play」はギターそのもののサブスクリプションではなく、ギターのオンライン教育動画サービスである。同社のギターを購入する人の半数が初心者で、かつ、その中の90%が1年以内にギターを弾くことを止めてしまう現状を回避する施策として始めたものだ。他社製のギターを使う人も閲覧可能で、この動画で弾き方を学ぶうちに、気がつけばフェンダー社のファンになって同社のギターを買うこともあるそうだ。まずは経験させるところから入り、信頼を得て、自社の製品のファンになってもらう。情報過多な時代において改めて見直すべきトラストビルディング型のマーケティングだと言える。これを進化させ、コミュニティ+リアルタイム性を混ぜたのが、最近アメリカで話題のエアロバイクブランド「Peloton」。自宅利用のエアロバイクを購入し、カリスマ化したインストラクターのエクササイズをリアルタイムでオンライン受講するサブスクリプションサービス。購入型とサブスク型を組み合わせた"SaaS + a Box"と呼ばれている。
また、サブスクリプションがマーケティングに及ぼす影響として、マーケッターが⾃ら、これまで規定していた殻を破らなくてはならないという点がある。繰り返すが、サブスクリプションビジネスは、データを元に1on1マーケティングを⾏うことである。つまり縦割り組織においては機能しないのである。営業部、マーケティング部、広告宣伝部、財務部、そしてIT部⾨も含めて同じデータをあらゆる点から検証して、⼀丸となって顧客のニーズに取り組まなければならない。そのため広告会社の立場としても、クライアントに対して広告宣伝活動を支援するだけではなく、その企業理念や経営方針を理解しながら、その顧客中⼼の姿勢を保ち続けながらサポートしていくことがさらに重要になっていくだろう。
- 『サブスクリプション』 ティエン・ツォ(2018) ダイヤモンド社
- 『サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり⽅』 アン・H・ジャンザー(2017) 英治出版
ADKマーケティング・ソリューションズ SCHEMA プロジェクト マネジャー
日本、グローバル企業の国内外のマーケティング活動を担当。ラグジュアリーブランド8年、ロボティックスプロジェクトにも携わり、2017年より新規事業開発に従事。日本のスタートアップと大企業のエコシステムを成長させるべく、ブランディング×テクノロジーの目線で事業開発を担う。
講師:亜細亜大学経営学部、理化学研究所、ADFEST Young Lotus
主な受賞歴:Cannes Lions、SPIKES ASIA、ADFEST、コードアワード、他