「デュアルファネル」

Keyword

認知から購買までの新規顧客獲得のファネルと、一度購買した後の既存顧客を管理するファネル、その2つ(デュアル)を合わせたファネルのこと。

 広告領域と、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)領域は、取り扱う部署も違えば、システムも別々。そうした状況が、近年、変わろうとしている。

 契機となっているのは、データ統合だ。CRM領域で使われる既存顧客についてのファーストパーティデータと、広告領域で使われる外部ウェブサイトの回遊記録などのサードパーティデータ。この2つのデータの連携が進んできたことで、広告領域とCRM領域という、近くて遠かった2つの領域が、1つになろうとしている。

 認知から購買までの新規顧客獲得のファネルだけを見て、広告戦略を設計するのではなく、また既存顧客を管理するファネルだけを見て、CRMを最適化するのでもない。その両方を見渡す思想がデュアル(=2つの)ファネルだ。

 近年よく使われるようになってきた言葉に「フルファネル」がある。これは、認知を広げるトップファネルから、検討〜購買にあたるボトムファネルまでを包括する考え方として使われることが多い。デュアルファネルは、さらにその先の、購買した後のファネルまでを包括する考え方、いわば、一歩先の概念と言える。

 デュアルファネル型マーケティングでは、たとえば、以下のようなことが可能になる。 まず、ファーストパーティデータから、LTV(ライフタイムバリュー:生涯を通して顧客が企業にもたらす価値)が高いユーザーを洗い出す。その後、サードパーティデータによって、そうしたユーザーの嗜好(しこう)や特徴をできるだけ鮮明に分析する。

 そして将来、優良顧客化する可能性の高いターゲットに対して、高い精度で広告配信を実施し、一度購入した後には、継続的なコミュニケーションを通して、ロイヤルカスタマーに育成していく。

 デュアルファネル型マーケティングによって大きく変わることが2つある。それは、「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」と「顧客体験」だ。

 KPIは、短期的なクリック率やコンバージョン率に基づくCPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)ではなく、長期的なLTVを加味した、より本質的なROI(Return On Investment:投資収益率)の向上に変わっていくだろう。すぐに離れてしまう顧客を安いCPAで獲得するよりも、少し高いCPAだとしても、一生ブランドを愛してくれる顧客を獲得するほうが高い価値があるということが、デュアルファネルを見通すことにより正しく判断できるのだ。

 また、デュアルファネル型マーケティングの成功の鍵は、心を動かすシームレスな「顧客体験」をどう設計するかにかかっている。どう惹(ひ)きつけ、どう気持ちを動かし、どう手にとってもらい、どう繰り返し使ってもらい、どうファンになってもらうか。「HOW」の部分を、一貫して考えること。広告コミュニケーションから既存顧客に向けたコンテンツまで、クリエーティブの重要性は、ますます高まるだろう。

 デュアルファネル型マーケティングは、いま、まさに始まったばかりだ。これからの進化に注目していきたい。

並河 進(なみかわ・すすむ)

電通デジタル 執行役員 エグゼクティブクリエーティブディレクター
アドバンストクリエーティブセンター部門長

京都造形芸術大学 客員教授。2018年度グッドデザイン賞審査委員。東京コピーライターズクラブ会員。著書に、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他多数。