2019年2月に電通が発表した「2018年 日本の広告費」のうち、「インターネット広告費」は1兆7,589億円とされ、5年連続で二けた成長となり、最大の広告メディアであるテレビ広告費に迫る勢いである。一方でインターネット広告は、いわゆる「黎明(れいめい)期/急成長期」から「成熟期」を迎えつつあり、それに伴い様々な課題がクローズアップされている。その代表格といえるのが「アドベリフィケーション」だ。
ネット広告の安全性
JIAA(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会)では、アドベリフィケーションを狭義では「広告掲載先の内容の品質確認」と定義している。その名の通りアド(広告)をベリフィケーション(検証)するという事であり、その検証の対象として大手広告主が課題視している項目は大きく以下の3点がある。
●ブランドセーフティ
広告主にとって不適切なサイト上に、広告が表示されていないか?(ブランド毀損(きそん)の恐れがあるサイトに広告が掲載されていないか?)
●アドフラウド
その広告インプレッションやクリックは、BOTなどにより不正に水増しされたものでないか?
●ビューアビリティ
その広告枠は、ビューアブル(視認可能)な状態で表示されているか?
WFA(World Federation of Advertisers)が2017年にGlobal Media Charterを発表して以降、グローバル広告主を中心に上記検証項目が課題視されてきた。日本国内でも、インターネット広告費の8割を占める「運用型広告」という手法が成長するとともに、徐々にだが課題感が広まりつつある。
広告主には、様々な対応方法がある
あくまで筆者の考えだが、アドフラウドやビューアビリティについては、広告在庫を広告主に提供する立場である広告メディアやプラットフォーマーと呼ばれるテクノロジー企業などが留意すべき項目で、それらの立場にある企業が適切な広告在庫を広告主に届けるべきものだろう。
一方でブランドセーフティについては、上記定義にもあるが、何をもって「不適切」とするかは各広告主によって判断基準が異なる。そのため、広告主が自社の基準を定めたうえで、リスク回避するための各種手段を講じることも必要であろうと考える。
その回避手段には大きく以下があり、それぞれリスク回避の確実性と広告単価はトレードオフの関係にある。
図1:ブランドセーフティのリスク回避手段
PMP:Private Market Place の略称。媒体社と広告主を限定した、クローズドな広告の取引市場。媒体社は安定した広告枠の単価を担保し、広告主はブランドイメージを損なうことなく、プレミアム媒体社の在庫やPMPでしか展開されていないリッチフォーマットなどを確保できるといったメリットがある。
PMP2.0:WEBサイトのコンテンツ単位で広告インプレッションの分析をリアルタイムに行い、従来のPMPよりも細かい粒度でブランドセーフティおよび高度なアドフラウドブロック機能を提供するPMPで、CHEQ AI Technology社のソリューションにより実現可能な手法。
上記の通りブランド毀損(きそん)の懸念が低い手段ほど広告単価(インプレッション単価やクリック単価)は高くなる傾向にあり、また、より上段の手段ほど絶対的なリーチ数が減少する傾向にある。どのレベルが安全か(及びリスクなのか)の基準は各広告主によって異なってくると思われるため、在庫を提供する立場である企業は適切な手法を提案する必要があるだろう。
広告効果との相関性
前述の通り、国内マーケットにおいてもアドベリフィケーションへの意識は少しずつだが高まりつつある。ただその多くが、「ブランドセーフティのリスクを回避するためには高い広告単価で広告を出稿せざるを得ない。もしくは広告費とは別でリスクを回避もしくはモニタリングするためのソリューション費用が発生してしまう」という、いささかネガティブな考えが起点になっている印象だ。あくまでリスク回避のため、マイナス要素をゼロにするための策という考え方だ。だが本来、広告主が広告費を投じる目的は自社の売り上げを最大化させるためである。であれば、そこに至る各種KPIに寄与することは無いのだろうか?
図2:広告効果調査
2017年9月<CCI、国内インターネット広告における「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」についての広告評価を調査>
リリースより抜粋
上記はある外資系自動車メーカーが、同一キャンペーン/同一クリエーティブ/同時期に、それぞれブランドセーフティである手法とそうでは無い手法で広告掲載した後の調査結果だ。具体的な配信手法は以下の通り。
※ブランドセーフティに留意した手法:図1の「PMP」
※ブランドセーフティに留意しない手法:図1の「ブラックリスト」
図1の通り、ブランドセーフティに留意するほどに広告単価は高くなる傾向にあるが、一方でブランド好意度や興味・関心、来店意向などの定性面において、ブランドセーフティなサイトでの広告展開の方が大きな効果があった。また、サイト来訪を重視したキャンペーン時にはクリック単価(CPC)を指標とすることが多いが、ブランドセーフティな広告配信手法は、サイト訪問後に直帰せずに(2ページ以降サイトを閲覧した)新規訪問者の獲得単価が3分の1以下であった。純粋なクリック単価のみを指標とし、それがBOTからのアクセスであったり、すぐ直帰してしまう(誤クリックや、興味が無い層のサイト訪問など)のだったりでは本末転倒だが、ブランドセーフティに留意した広告展開は、いわゆる「質の良い」と捉えられる層へのアプローチが出来ていると言える。
とりわけステークホルダーが多いインターネット広告業界においては、アドベリフィケーションの問題は特定のプレーヤーのみで解決出来る問題ではない。業界全体で、これら課題に向き合い、解決していく必要があるのではないだろうか。
サイバー・コミュニケーションズ アドプラットフォームビジネス・ディビジョン
広告会社や印刷会社を経て2007年に入社。自社で展開するプレミアムアドネットワーク「ADJUST」の商品企画及び営業の現場マネージャーとして5年間従事の後、DSP・SSPを始めとするデマンド・サプライの両方のプログラマティック領域を経験。2017年「ADJUST」のリブランド責任者となった後「BEYONDX PMP」を立ち上げ、現職。