DtoCとは「商品、ブランドストーリーを通じて生活者と直接つながり、つながり続けるビジネス」。近年米国を中心に興隆している新たなビジネス・顧客体験モデルの総称。モノをつくる生産者がECを介して直接商品を届ける業態が中心的だ。顧客と直接、継続的につながり絆を深め、顧客1人あたりの長期的利益を最大化しようとするところに特徴がある。
DtoCは、Direct-to-Consumerの略。直訳すれば「顧客へ直接」という意味合いだ。いわば生産者(メーカー)が中間小売りを介さずに直接生活者に対して商品を販売し、届けることがその名称にもなっている一番の大きな特徴と言えるだろう。
近年米国では、このような業態の企業が数多く登場し、その中にはユニコーンと言われる創業10年以内で企業価値10億ドル(約1,100億円)以上の評価を受ける企業もあらわれた。一体何がこのビジネスモデルの優位性なのだろうか?
中間マージンを省くことによる価格優位性
まず最初に掲げられるのは、小売り等に対する中間マージンを省くことによる品質に対する価格優位性だ。例えばスーツケースを中心とした旅行用品のDtoCブランドで、企業評価14億ドルを達成したユニコーン企業であるAWAYは自社HPでその点を強く主張している。
「私たちの製品は、他のプレミアムのスーツケースブランドと同じ最高品質の素材で作られている。しかし、我々のオーバーヘッド(製品コストの上にかかる中間マージンなどの費用)ははるかに低い。」※https://www.awaytravel.com/our-story
社会課題、特定の顧客課題へのアプローチで強い共感をつくる
特徴的なのは価格優位性だけではない。多くのDtoC企業は創業を決意した「ストーリー」を非常に重視している。それは今まで見過ごされがちだった、社会課題や、特定の生活者が抱える不満やペイン(痛み)を解決するというものが多い。
例えば男性向けの薄毛やED(勃起障害)解決のための健康プロダクトを販売するhimsは、繊細な男性の問題をわざわざ医師に面と向かって相談することのハードルに注目。精神・肉体的に健やかに生きるために、スマートフォンで簡単に診断し、商品を購入できるビジネスを開始した。また、アパレルDtoCブランドのEverlaneは、環境汚染や、気候変動、途上国の労働者酷使の解決をブランドミッションにおいている。そのために「徹底的透明性」を宣言し1商品当たりの原価をすべて開示。東南アジアの工場の労働者にこのセーターを作るためにいくら支払ったかまで明示している。また米国最大の消費イベント「ブラックフライデー」でも彼らは値下げセールをしない。その代わり社会課題解決のための大義を掲げ、2019年は「1商品あたり10ドルを海洋プラスチック汚染対策団体に寄付する」と宣言し顧客を巻き込んだ。
顧客とつながり続け、長期的利益を最大化する
さらに、このような共感をベースとした顧客との強いつながりを、継続的に維持し、長期的利益を最大化しようとするところにも特徴がある。
例えば「フィットネス界のネットフリックス」の異名を持つフィットネス機器のDtoCブランドPeloton。彼らはエアロバイクを中心に販売をしているが、彼らのビジネスモデルは機器を売って終わり、ではない。エアロバイクには、動画視聴用のデバイスが付属しており、そこに日々フィットネス動画を配信している。ユーザーはその配信動画を見ながらトレーナーから運動意欲を刺激され、動画を同時に見ているユーザーと運動量を競い合うことでさらに運動意欲を高めることができる。この動画体験に対して、ユーザーは一人あたり月39ドルを継続的に支払っているのだ。
またミレニアル世代に支持を得る化粧品のDtoCブランドglossierは、日々発信するコンテンツを通して継続的に顧客とつながっている。もともとVogueのスタイリストをしていた創業者が、仕事の傍らに始めたビューティーWEBマガジンが創業の起点となったこのブランド。華美に飾るのではなく「ありのままの自分を輝かせる」ことの重要性をWEBマガジンやインスタグラムを通じて発信。顧客の「きれいになりたい」願望を後押しし続けている。いわばブランドそのものがメディア化し、日々生活者とつながり、継続的な購買を生み出しているのだ。このようなブランドからの継続的なコンテンツ発信は、前述したAWAY、himsなどの様々なブランドでも行われている。
こうした、「商品、ブランドストーリーを通じて生活者と直接つながり、つながり続けるビジネス」は米国だけでなく日本でも注目され始めた。世界的大手企業が顧客との直接的つながりを求め、小売店を絞り込むなどの動きも生まれており、この動きはますます加速していくだろう。
博報堂 買物研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして戦略企画やクラヤミ食堂など体験型コンテンツの企画、運営を担当。2011年より博報堂生活総合研究所。2015年より博報堂買物研究所。近未来の買物行動予測研究と、買物行動を起点としたマーケティングに従事。著書に、『なぜ「それ」が買われるのか?―情報爆発時代に「選ばれる」商品の法則』(朝日新聞出版)など。