「宇宙ビジネス」

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民間企業が宇宙をビジネスに活用する「宇宙ビジネス」が活況だ。NASAなどの官需に支えられた20世紀の「宇宙開発」の時代から、宇宙スタートアップや大企業が切磋琢磨して宇宙で稼ぐことを目指す「宇宙ビジネス」の時代へのシフトが鮮明になり、衛星データを活用したマーケティングから、宇宙旅行などのエンターテインメントまで盛り上がりを見せている。

 宇宙ビジネスカテゴリーの世界市場規模は2010年の約27兆円から2017年には約38兆円まで成長しており、このペースで進めば2030年代には約70兆円以上に達すると言われている。日本政府も「宇宙産業ビジョン2030」を策定して、官需と民需の双方から宇宙ビジネスを盛り上げ国際競争力を高めようとしており、宇宙利用の促進の先にはビッグデータ・AI・IoTなどと連携したイノベーションの創出を目指している。2017年からは内閣府が主催する宇宙関連ビジネスのアイデアコンテスト「S-Booster」も開催されており、盛り上がりを見せている。

宇宙産業ビジョン2030では、宇宙技術の革新とビッグデータ・AI・IoTによるイノベーションの統合が掲げられている。

出典:内閣府「宇宙産業ビジョン2030のポイント」(2017)

 ではなぜ、宇宙ビジネスがマーケティングキーワードなのか。それは宇宙ビジネスへの企業や世間の注目が高まっており、さらにマーケティング領域での宇宙ビジネスとの接点がこれから増えていくと予想されるからだ。「データ」「エンターテインメント」の2つの領域でみていこう。

マーケティングから商品開発・ブランディングまで広がる衛星データ活用

 たとえばアメリカのOrbital Insightは、人工衛星のカメラで捉えた上空画像とAI(人工知能)を組み合わせたデータ分析サービスを提供している。衛星写真でショッピングセンターなどの駐車場にある車の台数を数えて台数を把握することで、小売りチェーンなどの業績を把握したり予測するなどのサービスを展開している。このように衛星データをAIで解析することで、いままでと異次元のマーケティング分析を行うことが可能になりつつある。

米Orbital Insightは、大手スーパーマーケットチェーンの駐車場の衛星データ解析により業績予測を行う。

出典:Orbital Insight

 また、衛星データを活用した農地管理やブランディングなどの事例も増えつつある。たとえば、青森県の産業技術センターがプロデュースしているブランド米「青天の霹靂」だ。衛星画像のデータを基にイネの生育状況を把握、水田ごとに色分けした地図を作製して収穫適期マップとしてアプリ提供している。また、イネの色からたんぱく質含有量、土の色から土壌肥沃(ひよく)度もマップ化して、翌年からの土壌管理や肥料の量などの改善や、おいしいコメの生産に向いた肥沃な土壌の選定などに役立てている。このように衛星データを活⽤して、農地管理から商品開発・地域ブランディングにまで応用する事例は、今後さらに増えていくだろう。

 それと関連した動きとして、衛星データ活⽤を促進するために経済産業省などが推進する衛星データプラットフォーム「Tellus」が2019年2月に公開された。JAXAなどが保有する衛星データをオープンに活用できるプラットフォームとして幅広い活用が見込まれている。このような衛星データをはじめとする宇宙ビジネスのマーケティング活用は、今後裾野が広がっていくと予測される。

人工流れ星から宇宙旅行まで夢とロマンが溢れるエンターテインメント領域

 次に「エンターテインメント」の切り口だ。たとえば日本発スタートアップのALEは、人工流れ星衛星の開発ベンチャーとして注目を集めている。流れ星の元となる塵を再現する1cm大の「粒」を人工衛星に搭載し、宇宙空間から放出して流れ星を再現することで、エンターテインメント領域で活用することを目指している。また人工流れ星の観測データを解析することにより、これまでデータ計測が困難だった中層大気の大気組成や風速などのデータを取得。これらデータを解析することで、異常気象のメカニズム解明や気象予測の精度向上にも貢献するとしている。

ALEの人工流れ星は、その観測データを活用した異常気象のメカニズム解明などへの応用研究も期待される。

出典:ALE

 宇宙ビジネスのエンタメ領域でいうと宇宙旅行も注目されている。イーロン・マスクが率いるSpaceXや、ジェフ・ベゾスが設立したブルーオリジン、リチャード・ブランソン氏が設立したヴァージン・ギャラクティックなどが有力プレイヤーだ。日本でも、民間主導の宇宙機開発を目指すPDエアロスペースや、スペースシャトルのような有翼機による宇宙旅行を目指すSPACE WALKERなどが技術開発を進めている。宇宙旅行ではないが、堀江貴文氏が支援するインターステラテクノロジーズは、毎回ロケットの打ち上げ実験にスポンサーがつき、ニュースやSNSで話題を作っている。ロケット打上げという技術開発実験そのものがエンタメ的な文脈でPR・話題化されてスポンサー企業が集まるのも、宇宙ビジネスならではと言えるかもしれない。

今後は宇宙スタートアップのマーケティングも重要な要素に

 このように活況な宇宙ビジネスだが、データ活用にせよエンターテインメント利用にせよ、まだまだ発展途上であることも事実だ。世界的な盛り上がりを見せる宇宙ビジネスが、今後持続的な研究開発と実用化を経てきちんと社会実装されるためには、宇宙ビジネスを展開する宇宙スタートアップ自身のマーケティングやブランディングも重要になってくる。一見すると接点が少ないマーケティング業界と宇宙ビジネスだが、今後両者の距離が近づいていくことで宇宙ビジネスのマーケティング活用がより一層進んでいくだろう。

【 参考/引用文献 】
小塚仁篤(こづか・よしひろ)
小塚仁篤氏

ADKクリエイティブ・ワン SCHEMA クリエイティブ・テクノロジスト

2009年ADK入社。デジタル領域の企画開発を経て、2013年よりプランナー・テクノロジスト。統合型コミュニケーションをはじめ、AR・IoT・AI・ロボットなどのテクノロジーを活用したプロダクト開発・サービス開発などを手がける。