「デジタル・ネイティブ・ブランド(DNB)」

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デジタル・ネイティブ世代を中心としたユーザーを対象に、デジタルやテクノロジーを駆使した手法でストーリーテリングや販売を行うブランドのこと。D2C(Direct to Consumer)から派生した「D2Cブランド」という”ビジネスモデルを示す用語”に対して、「DNB」はオンラインとオフラインの様々なチャネルを垂直統合してストーリーテリングやブランディングを展開するブランドを指す”ブランドのあり方を示す用語”である。

商品を直接顧客に届ける「D2C」ブランドの急成長と、「DNB」という概念の登場

 デジタル・ネイティブ・ブランド(DNB)とは、「熱狂的に顧客体験にフォーカスして、デジタルテクノロジーを軸として、顧客とインタラクションを行い、トランザクション(取引)して、ストーリーを語るブランド」を表す言葉だ。DNBという概念を広めたアンディ・ダン氏は、Bonobos(ボノボス)というショールーム型メンズウェアブランドの創業者であり、2017年の著書『The Book of DNVB』『The DNVB Encyclopedia』で上記のように定義している。

 このDNBという概念は、数年前からアメリカを中心としたD2Cブランドが新たなステージに進化を遂げる過程で登場した。まず簡単にD2Cブランドをおさらいすると、リアル店舗やECプラットフォームではなく、アプリやウェブサービスなどを立ち上げて消費者とつながることで独自の商流を持ち、ダイレクトに販売する手法・ビジネスモデルを採用したブランドである。特に海外では近年、アパレル、シャンプー、食品、飲料、耐久財、サービスなどを扱うスタートアップが数多く登場して大きく成長した。

 このように、D2Cやサブスクリプションなどの手法が一般化して「D2Cブランド」が大きく発展したことで、新しく登場した概念が「DNB」である。

急成長したDNBは、D2C(直販モデル)だけではなく量販店での販売まで手を広げる

 D2Cという⾔葉が話題になっている昨今、D2Cブランドの成功には「よい商品をD2Cモデルで販売して、インフルエンサーマーケティングを⾏えばよい」と一面的に捉えられてしまっている側面がある。ここに、DNBという概念が登場した背景がある。グレート・オークス・ベンチャー・キャピタルのヘンリー・マクナマラ氏は2019年のインタビュー記事でDNBに関連して「D2C という用語は時代遅れであり、いわゆるD2C戦略を放棄してほしい」という趣旨の発言を行った。彼はAway、Allbirds、Dirty Lemon、Recessなどの著名なDNBブランドに投資してきた人物だ。マクナマラ氏は「『一貫性のあるブランディング、カスタマー・インサイトを基本にする流通戦略』を重視すべきであり、商品を直接ユーザーに届けるD2Cモデルやデジタルネイティブをターゲットにしたオンライン手法に縛られず、従来型の小売店販売も含めて『ブランド体験』を提供すべきだ」と語っている。

 では、D2Cモデルという手法に縛られないDNBとは何なのか、3つのポイントで見ていこう。

1.ECにこだわるD2Cモデルから、直営店の⼤量出店や小売店活用などの複数のチャネルを統合している。

Allbirdsの店舗にはブランドストーリーの一環として、ユーカリやサトウキビを原料としたサステイナブル素材の説明が掲げられている。

 日本でD2Cというとまだまだオンライン中心であるが、Green Street Advisorsの調査によると全米でDNBがオープンしたリアル店舗数は全米で600店舗以上。2010年創業のWarby Parkerは、リアル店舗を100店舗近く展開している。Warby Parkerは店舗のロケーション決定のために高度な市場調査を実施し、実店舗が提供する体験により自社のデジタルアイデンティティーを補完されることを重視し、実店舗小売への移行を成功させている。

 さらに、DNBのD2Cモデル離れも起きている。たとえばCasperは売上が約400億円となり、テレビCMを全米で積極的に流している。さらにECや直営店へのこだわりも捨て、AmazonやTargetなどの小売大手でも商品を販売しており、ブランドの核はD2Cモデルではなくなってきている。

2.ブランド価値を向上させるストーリーや体験により、SNSなどを中心に桁違いの熱狂的ファンを獲得している。

 急成⻑しているDNBブランドは、D2Cという手法に縛られたブランドと比較して、熱狂的ファンの指標となるSNSフォロワー数が桁違いに大きく、右肩上がりの急成⻑を遂げている。たとえば⽶国のDNBで、ニッチ商品でもある男性⽤のひげ剃り刃を流通させる「Dollar Shave Club」(ユニリーバが買収)はリアル店舗も構えており、Facebookフォロワーは327万⼈だ。D2Cモデルに縛られずに、ブランドの核を支えるブランドストーリーに集中して、熱狂的なファンを増やすためにあらゆるマーケティング手法を駆使していることが伺える。

3.直接販売(D2Cモデル)による利益ではなく、ストーリーや体験によるブランド価値の向上を志向している。

 たとえば、日本のD2Cブランドは、オンラインによるECサイトとショールーム的リアル店舗をベースとした「直販形態」によるPLの利益に意識が向いている。一方のアメリカのDNBが目指すゴールは「ブランド価値の創造」であり、ゴールはBSにおけるブランド価値の向上(高値売却)である。欧米でDNBが成長しているのは、ブランドとしての「メディア」発信に魅了される人々が増え続けているからだ。メディアを通じて発信するブランドストーリーが熱狂的なファンを生んでいる源泉であり、D2CモデルかどうかがDNBの核ではなくなってきているということだ。

いまやリアル店舗を100以上展開するWarbyPeakerは「見る権利は全ての人にある」というミッションを掲げて「Buy a pair, Give a pair」(メガネを購入するごとに慈善団体を通じて発展途上国に寄付)というソーシャルグッドなプログラムなどで、ブランド価値の向上を図ってきた。

 このように、代表的なD2Cブランドと従来言われてきたブランドは、D2Cという手法に拘(こだわ)らずにブランドストーリーを発信して、ブランド価値の向上を実現している。D2Cという枠を超えて、DNBという概念にシフトしていると言えるだろう。

D2CからDNBへ概念のシフトが、ブランド価値向上のためのストーリーづくりへのフォーカスを促す

 いわゆるD2Cブランドの中でも成功している企業は、上記のような「DNB」のブランドのあり方を体現している場合が多いだろう。日本語でD2Cブランドという言葉は「デジタルを中心に直販を行う」という「販売手法」を想起させるため、ブランド体験価値の向上という本質が見落とされがちな部分がある。海外でのD2CからDNBへのシフトという流れを踏まえて、本来マーケティング担当者が取り組むべきブランド価値の向上やブランドストーリーの構築にフォーカスして、ブランドのあり方をDNBに進化させることが、これからのマーケターに求められている。

<参考文献>
小塚仁篤(こづか・よしひろ)
小塚仁篤氏

ADKクリエイティブ・ワン SCHEMA クリエイティブ・テクノロジスト

2009年ADK入社。デジタル領域の企画開発を経て、2013年よりプランナー・テクノロジスト。統合型コミュニケーションをはじめ、AR・IoT・AI・ロボットなどのテクノロジーを活用したプロダクト開発・サービス開発などを手がける。