「メタヴァース」

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メタヴァースは、大量のユーザーが同時に接続してコミュニケーションや能動的なアクティビティを楽しめるインターネット上の仮想空間。新しい広告プロモーションの場として再び注目期を迎えている。

メタヴァースとはなにか?―新しいソーシャルネットワークの場としての注目―

 バズワードは、あるとき一気に注目され、そして失望とともに忘れ去られる運命だが、メタヴァースほど、バズワードらしさをまとった言葉はないだろう。2007年前後に「Second Life」で注目されそのブームは「終わった」ことになったが、2021年現在また再び言及されるようになっている。
 この不思議な言葉は、アメリカのSF小説『スノウ・クラッシュ』(1992年)が出典元で、超越を表す接頭辞「meta」と宇宙を表す「universe」とを組み合わせた造語である。インターネット上に存在する仮想世界を指すが、実際には使用される意味の幅がかなりある。
 ベンチャー・キャピタリストのMatthew Ball氏による定義を筆者なりに要約すると「ライブな同時接続が大量の人数で行われ、相互にコミュニケーションしたり何らかの能動的なアクティビティを協業したり、コンテンツ体験をともにすること。デジタル財を制作・保有・売買するかたちでの経済活動が可能になっている点も挙げられる」となる。
【出典】https://www.matthewball.vc/all/themetaverse
 かつてメタヴァースと現実の社会的ネットワークは隔たれていたが、いまではリアルなネットワークも巻き込んで広がっている。有名ベンチャーキャピタルも、メタヴァースこそが次のソーシャルネットワークであると熱い視線を注いでいるのだ。

各社の取り組み

 「メタヴァース」の注目度を再度引き上げた立役者がFortniteやRobloxのようなtoC向けのゲーム・エンターテインメント領域だ。そして、2021年7月にFacebookのCEOザッカーバーグ氏も「数年内に当社はSNSの企業からメタヴァースの企業へ変わる」と表明した。
 FacebookはVRヘッドセット「Oculus Quest2」を発売し、そこで「Horizon」というメタヴァースサービスを提供しているが(図表1)、ここでの狙いはコロナ禍でも人々がプレゼンスを感じながらコミュケーションできる機会だ。例えばビジネスミーティングも行えるといった活用訴求をしており、まだ黎明期であるtoB向けを視野に入れていることがわかる。マイクロソフトなどいくつかの企業もこの領域に参入してくるだろう。

Facebook Horizon 公式サイトより引用  © Facebook Technologies, LLC

「人々が集う場」としてのメディア・コンテンツの主戦場へ

 Netflixのリード・ヘイスティングスCEOは、かつて業績発表の場で投資家に向けてFortniteもまたNetflixの競合なのだと説明した。AmazonやApple、Disneyやケーブルテレビ事業者だけでなく、デジタルスクリーンで時間を使うものすべてが、コンテンツビジネスにおける競合に他ならないという認識だ。こうした「競合」の捉え方は、これからのメディア・コンテンツ市場を考えるうえで大切な示唆を提供する。
 Fortniteでは、Steve Aokiのような世界的DJ、アリアナ・グランデ(図表2)やBTSのようなグローバルアイコン、日本人では米津玄師のような若年層に人気のアーティストがライブパフォーマンスを行っている。ユーザーもアバターで集って盛り上がるわけだ。また『TENET』のような話題作の先行上映や、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のプロモーションでFortnite内でライトセイバーを使えるようにするなど、Fortniteエクスクルーシブな打ち手も増えてきた。思えば、カンヌライオンズ2019のSocial & Influencer部門でグランプリを獲得したウェンディーズの「Keeping Fortnite Fresh」施策も舞台はFortniteだった。

Epic Games公式サイトより引用  © 2021, Epic Games, Inc

 現代的メタヴァースは、いまや若年層にコンテンツを届け、ブランドコミュニケーションを成立させるための重要な「メディア」の位置を確実に占めつつある。ただしそれも奇異なことではない。なぜなら広告コミュニケーションは、いつの時代においても新しく人々が集いアテンションが集中する場において進化してきたのだから。

天野 彬(あまの・あきら)

電通メディアイノベーションラボ 主任研究員


天野 彬氏

1986年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。 若年層の消費行動やSNSの動向に関するリサーチ/執筆/コンサルティングが専門分野。近著に『ビジネスはスマホの中にある―ショートムービー時代のSNSマーケティング―』。その他、『シェアしたがる心理』、『SNS変遷史』、『情報メディア白書』(共著)等。セミナー登壇やメディア出演の経験多数。