「Y2K」

Keyword

Y2Kとは、主に1990年代後半~2000年代に流行したファッションやカルチャーなどのコンテンツのこと。西暦2000年を指す「Year2000」の略称。Z世代を中心に再流行しており、再解釈やアレンジが加わりながらInstagramやTikTokなどのSNSでトレンドが広がっている。体験したことがなく新鮮なのに、どこか懐かしくてエモいコンテンツとして、さまざまなレトロブームとともに注目されている。

Y2Kと呼ばれる2000年前後のカルチャーが、Z世代を中心に再流行中

▲パリス・ヒルトン、ブリトニー・スピアーズなど2000年代のポップスターやハリウッドセレブがY2Kの代表格。

 Y2K(ワイツーケイ)とは、1900年代から2000年代のファッションやカルチャーなどのコンテンツのことで、いまZ世代を中心に再流行している。西暦2000年を指す「Year2000」の略称で、YがYearを指し、KはKgやKmと同じ1000の単位を表している。特に2000年前後のファッションを指して「Y2Kファッション」などといわれることもある。もともとY2Kという呼称は2000年1月1日にコンピューターが誤作動するリスクを示す「2000年問題」が別名「Y2K問題」と呼ばれたのが起源のようだが、いまはカルチャー用語として使われることが多い。
 Y2Kに明確な定義はないが、2000年代を想起させるデザインやカルチャー、ファッションなどのコンテンツ全般を指すことが多い。たとえばパリス・ヒルトン、ブリトニー・スピアーズ、ジェニファー・ロペスなどのポップスターやハリウッドセレブが好んだ、パワフルでポジティブなムードに満ちたカラフルでポップなスタイルが代表例だ。具体的には、お腹の見えるクロップトップ、ミニスカート、ショートパンツ、ローライズデニム、ミニバッグ、オーバル型サングラス、プラスチックやラメ素材などのチープでキッチュなアイテム、ネオンカラーやケミカルな色使いなどが、Y2Kファッションの特徴といわれる。また日本の平成ギャルファッション、たとえば1990年代後半~2000年代に流行った厚底ブーツやルーズソックス、ロングブーツ、ミニスカートなどのスタイルもY2Kといわれる。浜崎あゆみや安室奈美恵、個性派の篠原ともえなどがブームになり、ギャルやコギャル、ガングロ、ヤマンバなどが渋谷や原宿に出現したり、ギャル系ファッション雑誌が話題になったりしていた時代のスタイルだ。

▲K-POPガールズグループBLACKPINKの「How You Like That」のMVでは、
衣装にY2Kのテイストが取り入れられて話題になった。

 このようなカラフルでポップなカルチャーが、約20年の時を越えてTikTokやInstagramなどのSNSでハッシュタグとともに広がり、Z世代を中心とした若者のトレンドになっている。Y2Kファッションを牽引するアイコンとして、歌手でモデルのデュア・リパ、映画『スパイダーマン』や『DUNE デューン砂の惑星』などで活躍する女優で歌手のゼンデイヤなどが注目されている。また、韓国や中国を発信源としたY2Kトレンドも存在感が大きい。K-POPガールズグループのBLACKPINKやaespaなどのファッションやMVにY2Kのテイストが取り入れられたり、K-POPがきっかけでアームカバーやチェック柄のスカートなどのY2Kコーディネートが流行したりしている。

新鮮なのに懐かしくてエモいレトロ文化としてTiktokやInstagramなどで拡散

 約20年前のY2KがZ世代の若者から新鮮に見えている点が、ブームの理由のひとつだ。特にY2Kファッションは、異性にモテたり大人にウケるというより、自分のための自由でポップなファッションという側面があり、自分の好きなスタイルで自己を積極的に表現しようというパワフルさがある。いまのZ世代はSNSが当たり前の環境で生きており、友人や大人など周囲の反応を気にしたり、試行錯誤や失敗を回避したりする傾向があるともいわれる。彼らにとって自由に自己表現を行うY2Kのスタイルは新鮮であり、憧れに近い感情を抱くようだ。そしてそれをアレンジした投稿がInstagramやTiktokで拡散してブームになっている。たとえばTiktokではY2Kファッションで当時のポップスターになりきり、リハーサル、サイン会、パパラッチを避ける、お忍びなどシーンごとのコーディネートを投稿するのが流行っている。

▲Y2Kスタイルの発信源の1人といわれるエイドリアン・レオーを筆頭に、TiktokやInstagramではY2Kのスタイルを取り入れた投稿が相次ぐ。

 流行の背景には、レトロブームの影響もある。約20年前のY2Kカルチャーのノスタルジックな部分が「体験したことがなく新鮮なのに、どこか懐かしくてエモい」コンテンツとしてZ世代にウケているようだ。その根底には、デジタルへの反動でアナログに新しさを見出している部分と、不景気やコロナ禍より以前の「シンプルで生きやすかった時代」への憧れもあるといわれる。欧米のZ世代の間では、Y世代(ミレニアル世代)が牽引するインスタ映え、マインドフルネス、シンプルで丁寧な暮らし、ミニマリズムなどへの反動として、エネルギッシュでカラフルだったY2Kカルチャーが注目されているともいわれる。またY2Kに先駆けて2010年代後半から韓国ポップカルチャーの流行とともに「ニュートロ」という言葉も広がっている。これはニューとレトロを合わせた造語で、レトロな文化をいまの感覚で再解釈して現代的にアレンジするカルチャーのことで、Y2Kブームはこの延長線上にあるといえるだろう。
 レトロブームは、Y2Kを含めた大きなトレンドだ。たとえば音楽やアート分野では2010年代頃から、ヴェイパーウェイブ、フューチャーファンク、シティポップなどが流行している。これはレトロミュージックやポップアート、アニメ文化などが混ざりあったトレンドで、竹内まりやなどが再注目されたのも記憶に新しい。これらに加えて、レコード、カセットテープ、フィルムカメラ、写ルンです、純喫茶、メロンクリームソーダ、銭湯、昭和アニメなど、昭和の古き良きアナログ感のある「バブルブーム」や「昭和レトロ」ブームが先行した。さらに2000年代のカルチャーや平成ギャルマインドを楽しむ「Y2K」や「平成レトロ」、欧米や韓国などの海外トレンドを取り込んだ「輸入レトロ」、韓国を震源に流行している「ニュートロ」など、いわゆるエモいコンテンツにノスタルジーを見出すレトロブームは多様な広がりを見せる。

Y2KやレトロのトレンドがSNSで混ざり合い、多様な広がりを見せている

▲Z世代のゼンデイヤはValentinoのモデルとして、Y2K時代によく見られたビビットなピンクなど数々のY2Kスタイルを披露している。

 Y2Kは世界的にZ世代に人気があり、新しい流行に繋がりつつある。たとえばパリコレでY2Kがテーマになったり、Y2K時代がモチーフのスタイルが登場したりしている。ValentinoはY2Kを取り入れた「Valentino Pink PP Collection Fall/Winter 2022-2023」という多様性に溢れたコレクションを発表、Y2Kアイコンのゼンデイヤを起用している。COACHやイタリアのファッションブランドMSGMなどもY2Kを取り入れたコレクションを2022年に発表している。日本では青文字系雑誌『Zipper』が季刊誌として2022年3月に復活、夏号で「原宿的Y2Kコーデ LESSON」などのY2K特集を組むなど、ギャル系に留まらずY2Kが広がっていく次の流行への兆しにも見える。
 俗にトレンドは20年周期で巡るといわれる。いまのY2Kブームと20年前の違いは、欧米だけでなく韓国などのニュートロ文脈が融合したり、ダイバーシティやジェンダーレスなスタイルも取り込んで、SNSなどで世界的に多様な広がりを見せていることだ。そこには、Z世代が重視する多様性や、自分らしい個性を能動的にSNSで発信していくという価値観が反映されている。そして各国のY2Kやレトロ文化が混ざり合って多様なトレンドを形成しており、日々変化するこのトレンドを一言で表すのは難しい。広告マーケティングの担当者も、Y2Kやレトロブームなどのトレンドの変化をキャッチアップして、その多面性やZ世代の価値観をきちんと捉えて、マーケティングやブランディングに活かしていく視点が必要だろう。

<参考文献・引用文献>

小塚仁篤(こづか・よしひろ)

ADKクリエイティブ・ワン/SCHEMA
クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト


mk_koduka_2022

デジタルやテクノロジー分野での経験を武器に、未来志向のクリエイティブ開発やSFプロトタイピングを得意とする。
最近の仕事に、障害者の社会参画をテーマにした「分身ロボットカフェDAWN」、ブラックホール理論が導く”役に立たない未来のプロトタイプ"を空想した「Black Hole Recorder」など。Cannes Lions、D&AD、SPIKES ASIA、ADFEST、ACC、メディア芸術祭、グッドデザイン賞ほか受賞歴多数。クリエイター・オブ・ザ・イヤー2020メダリスト。