作成することで顧客を深く理解し、施策を実行できるメリットがあります。
しかし、「名前は聞いたことがあっても仕組みがよくわからない」「どうやって作ったらいいのかわからない」という方も多いでしょう。
この記事では、カスタマージャーニーマップの基本や作成までを初心者向けに詳しく解説します。
カスタマージャーニーマップとは何か
カスタマージャーニーマップとは、ターゲットが商品やサービスを認知して購入して利用するまでのプロセスをまとめたものです。
カスタマージャーニーマップの定義と要素
カスタマージャーニーマップは、直訳すると「顧客の旅」です。
ユーザビリティ研究の第一人者であるニールセン・ノーマン・グループでは、カスタマージャーニーマップを以下のように定義しています。
A journey map is a visualization of the process that a person goes through in order to accomplish a goal.「ジャーニー マップは、人が目標を達成するために通過するプロセスを視覚化したもの」
マーケティング領域で利用されることが多いですが、本来はサービスや商品を利用することで得られる体験(ユーザーエクスペリエンス)を改善する手法です。
ここでいう顧客の旅とは、マーケティングにおける「態度変容プロセス」のことです。顧客が自社製品やサービスを購入するまでに通る「知りたい」、「興味がある」といった心理状態を表わしています。
顧客への理解を深めたり心理状態を把握することで、商品やサービスの改善を図り、商品開発に活かすことが目的です。
◆カスタマージャーニーの要素
ニールセン・ノーマン・グループは、カスタマージャーニーに以下の5つの要素を取り入れることを提唱しています。
- 人物:ターゲットとなる顧客
- シナリオ:顧客が目的のために取る行動のシナリオ
- フェーズ:シナリオをプロセスに分割
- 思考と感情:フェーズごとの顧客のアクション
- 洞察:1~4から課題点を抜きだして施策を立案して実行
これらの要素から顧客を理解すると、その立場で商品やサービスのニーズが分かるようになります。ターゲットが明確でないとシナリオやフェーズの取り入れが難しくなるため、ペルソナの設定も重要です。
カスタマージャーニーマップの作成手順
カスタマージャーニーマップの定義や要素を把握したら、大まかな作成手順について理解しましょう。ここでは、5つのステップに分けて解説します。
ステップ①目的を明確にする
まずは、カスタマージャーニーマップを作成する目的を設定する必要があります。「他社も作っているから」という理由で作っても効果は得られません。以下の項目ごとに目標を立てましょう。
- 短期目標
- 中長期的目標
- ブランド価値の向上
- 競合戦略
ステップ②ペルソナを設定する
カスタマージャーニーマップの作成目的を明確にしたら、ペルソナを設定しましょう。
ペルソナとは、商品やサービスを提供した顧客モデルのことです。インタービューやフィールド調査、アンケートなどの定性調査を行って具体化していきます。
また、ペルソナはできるだけ実在する顧客と近い人物像を設定することが重要です。
ステップ③顧客の体験を書き出す
ペルソナが具体的になったら、顧客の行動や体験を複数人で書き出しましょう。
商品やサービスの利用について時系列を分けて、それぞれにどんな体験があるのかを複数人で意見を出し合いながらまとめます。
意見を出し合ったら、時系列に並べてフェーズ事に分解しましょう。
ステップ④ペルソナの行動や心理、思考をまとめる
顧客の体験をもとに、フェーズごとの顧客の思考や感情を書き出しましょう。例えば、「これなら他社の〇〇の方が安くてコスパが良い」のように、顧客の立場になって考えるのがコツです。
ある程度書き出すことができたら、顧客の感情起伏を示す「感情曲線」を描きましょう。これによって、感情曲線が高いときと低いときの課題やアプローチを考えられます。
ここでポイントになるのは、設定したゴールにより期間や行動ステージが変化することです。例えば、リピート購入がゴールならスタートは最初の購入となります。ペルソナの感情を整理するときも、目的に軸を置くことが重要です。
ステップ⑤課題や対策を検討する
カスタマージャーニーマップをまとめられたら、次はそれをもとに自社の課題や対策を検討しましょう。検討人数が少ないと偏りが出やすいため、他部署も交えながら複数人で意見を出し合うのが理想です。ペルソナが複数ある場合は、同じ手法で他のカスタマージャーニーマップも作りましょう。
カスタマージャーニーマップの効果とメリット
カスタマージャーニーマップにはさまざまなメリットがあり、マーケティングにも高い効果が期待できます。具体的な効果やメリットを詳しく見ていきましょう。
カスタマージャーニーマップが提供する情報の価値
カスタマージャーニーマップには、顧客の購買行動や感情など、マーケティングで重要な情報が凝縮されています。
特に近年は消費者にインターネットが普及したことで、購買行動や支払い手段が大幅に変化しており、さらに商品やサービスの情報も細かく調べられるようになっています。
購入を判断する材料や機会が増えている分、リピーターを増やすためには顧客の心理を深く理解しなければなりません。
その点において、顧客の心理が可視化できるカスタマージャーニーマップの情報価値は高いといえるでしょう。
カスタマージャーニーマップの利用例
カスタマージャーニーマップは、さまざまなシーンで役立ちます。カスタマージャーニーマップの効果やメリットを活用した利用例は、以下の通りです。
顧客満足度の向上
カスタマージャーニーマップは、顧客満足度を高めるためにも活用されています。
マップから顧客の行動を事前に予測して対応することで、顧客が望む商品やサービス、情報の提供ができるようになるためです。
顧客の要望に応えられる環境を構築することにより、「この企業は信頼できる」と判断されて顧客満足度の向上につながります。顧客満足度は売り上げにも直結する要素となるため、利益を上げるためにも重要な要素です。
ユーザーニーズの把握
カスタマージャーニーマップを作成して顧客の行動や思考、感情を可視化することで、ユーザーニーズを把握できます。
それによって「顧客が自社に何を求めているか」、「自社に何が足りていないか」などが理解できるため、具体的な対策や強化する施策のポイントを明確にすることが可能です。
マーケティングは具体的な数字で指標を設定しますが、顧客の行動や思考などの根拠がなければ数値に信頼性がありません。指標を設定するためにも、ユーザーニーズの把握が大切です。
ブランド価値の向上
カスタマージャーニーマップに沿ってマーケティングを行うことで、顧客は企業に対しての信頼度が高まり、商品やサービスの好感度向上によりブランド価値を高めます。
顧客の感情や行動を先回りした対応ができるため、「品質に魅力を感じて購入を決めたものの、接客が悪くサポートに不満を感じたので他社に乗り換える」などの事態を防ぐことにもつながるでしょう。
施策を繰り返すことで「品質もサポートも満足できるので次回もリピートしよう」と感じてもらい、同じような顧客を増やすことで企業の評価を高められます。
このように、ブランディングを目的としてカスタマージャーニーマップが利用されるケースも多くあります。
新規コンテンツ製作の指針
カスタマージャーニーマップは、新規コンテンツ製作の指針に使われることもあります。
コンテンツを製作する際に、顧客と従業員の間で認識にズレが生じてしまい、方向性の異なるものを作って失敗するケースは少なくありません。
認識のズレをなくし、同じベクトルでコンテンツを制作するためにも顧客の心理が反映されているカスタマージャーニーマップが役立ちます。
社内の意識共有を図る
カスタマージャーニーマップは、社内の意識共有を図るために利用されるケースもあります。その目的は、顧客の悩みや感情を可視化して共有し、一貫性を持った施策の展開を行うためです。
コンテンツ制作やサービス改善では複数の関係者や部署との連携が必要ですが、それぞれの意識が統一できていないとプロジェクトの全体像が把握できません。
属性が異なる従業員の意識をまとめるためには、顧客の心理が反映されているカスタマージャーニーマップが役立ちます。
カスタマージャーニーマップの作成方法
カスタマージャーニーマップは顧客の検討フェーズや行動、心理を整理してマップに反映していきます。ここでは、カスタマージャーニーマップの作成方法やポイントを解説します。
カスタマージャーニーマップに必要なデータと情報
カスタマージャーニーマップでは、顧客のプロセスごとの行動や感情を明確にする必要があるため、これらの根拠となるデータや情報を収集する必要があります。
必要なデータや情報は、主に「顧客の行動に関するもの」と「顧客の感情に関するもの」です。顧客データは、以下のような方法で集めるのが一般的です。
- Webサイトの訪問ページや訪問順序
- 商品やサービスのリピート率
- 消費者の満足度
- 評価
- 口コミ
- コールセンターの意見
行動に関するデータは、Webサイトの行動履歴や購入率、リピート率などが挙げられます。マップの精度を高めるためには、アクセス解析や顧客管理システムの活用も有効です。
一方で、感情に関するデータは、口コミやコールセンターの意見、満足度などが挙げられます。マップの精度を高めるためには、インタビューやショッピングサイトの口コミ評価、Googleの口コミなどが有効です。
膨大な顧客データや情報を収集する必要があるため、ITツールを駆使できる環境や人材も必要となります。また、顧客調査できる余裕が十分にない場合は、専門業者に依頼して市場調査してもらうのもよいでしょう。
カスタマージャーニーマップの可視化手法
カスタマージャーニーマップは一度作成すると長く活用できるツールであるため、従業員が見たときに課題がわかりやすいように作成するのがおすすめです。
作成はPCでも可能ですが、複数人でアイデアを出しながら大きめの模造紙やホワイトボードを使って作成していくと、より可視化しやすくなります。
また、模造紙で作成する場合は複数色の大きめの付箋も合わせて用意しておきましょう。作成時はさまざまなテンプレートが公開されているため、活用するとスムーズにカスタマージャーニーマップを作成できます。基本的に横軸と縦軸を設定し、集めた顧客データから必要な情報を入力します。縦軸と横軸に厳格な決まりはありませんが、以下のように設定するのが一般的です。
横軸の設定
横軸では、認知・興味・関心・購入など利用に至るまでのプロセスを設定します。そのステップごとに顧客の行動や感情、体験などを記載するのが基本です。内容は商品やサービス、目的によって変わるため、自社の状況に応じて変更しましょう。
縦軸の設定
縦軸では、行動・接点・思考・感情・課題などを設定します。「行動する際に顧客がどんなことを考えるか」、「その結果がどんな不満を感じたか」などの課題を洗い出します。横軸と同様に明確な決まりはないため、自社の環境や状況に応じて内容も変更しましょう。
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カスタマージャーニーマップの活用事例
作成したカスタマージャーニーマップは、どのように活用できるのでしょうか。ここでは、企業や商品開発における活用事例を紹介します。
企業におけるカスタマージャーニーマップの活用
カスタマージャーニーマップを活用している企業は多く、顧客満足度やリピート率の向上、ブランド価値を高めるなど、目的はさまざまです。
ここでは、化粧品メーカーのA社と人材エージェントのB社の取り組み事例を紹介します。
化粧品メーカー
化粧品ブランドを展開するA社では、顧客が商品を知ってからGoogleで情報を収集し、購入するまでのステップがまとめられたカスタマージャーニーマップを作成しています。
ブランド向上を目的としており、顧客の売買プロセスを以下の3つで定義していることも特徴です。
- ブランドへたどり着く途中
- ブランドを知る
- 経験の共有
各ステージにおける顧客の悩みや不安をはじめ、無料サンプルやキャンペーンなどがタッチポイントとして機能するメディアがマッピングされています。
商品購入に関する悩みや疑問を細かく分析することで、円滑な体験を提供できるようにしており、顧客の満足度を高めて企業の価値を向上することが目的です。
人材エージェント
人材エージェントのB社では、新卒者をペルソナに設定したカスタマージャーニーマップを作成しています。
最小限の時間と高い品質を目指すために、ターゲットとなる学生に協力を依頼してワークショップ形式で進めているのが特徴です。作成は以下のような手順で行われています。
- ペルソナの行動データを収集
- ペルソナの思考や感情データを収集
- ワークショップを通して課題を抽出
就活が始まってから入社が決まるまでをフェーズ分けして作成を行った結果、「入社したい企業の情報を十分に得られない」という課題が浮き彫りとなっています。
問題改善のために新卒者と企業が交流できるイベント開催につながるなど、カスタマージャーニーマップの結果に基づいた対策ができた事例です。
商品開発におけるカスタマージャーニーマップの活用
商品開発やコンテンツ製作を目的に、カスタマージャーニーマップを活用している事例もあります。ここでは、2つの事例を紹介します。
コスメブランド&メディア事業
C社は、コスメブランドと美容メディア事業を展開している企業です。
創業当初から顧客の声が資産であると捉え、カスタマージャーニーマップを実施し、その結果を商品開発につなげているのが特徴です。
例えば、受け取りレビューや評価から、顧客の悩みや声を集めて商品開発や商品改良を進めたり、SNSを活用してコミュニケーションを取るなどの取り組みも行っています。
食品会社
食品メーカーのD社では、外部協力企業と連携してカスタマージャーニーマップの作成やコーポレートサイトのリニューアルを行いました。
まずは社内でアンケートの実施を行い、自社商品に興味がある属性を調査して小さな子どもがいる親や、企業名を認識していないユーザーをペルソナに設定しています。次にペルソナがファンに変わるまでの行動や感情を理解するために、ワークショップを繰り返し実施します。
その結果、「安全性や栄養面で信頼できて、家族だんらんが楽しくなる」という体験を通してファンになることがわかりました。
カスタマージャーニーマップの内容をリニューアルしたサイトに反映させて、さらにペルソナのニーズを満たす商品開発につなげています。
カスタマージャーニーマップの保守と改善
カスタマージャーニーマップは作って終わりではありません。効果を最大化させるためには、継続的な保守や改善が必要です。ここでは、カスタマージャーニーマップの保守や改善のポイントを紹介します。
カスタマージャーニーマップの継続的な更新と改善
カスタマージャーニーマップは、作り終えた後もユーザーの行動とマップの内容に乖離があれば、継続的に更新・改善が必要です。マップの内容が現実に近いほど施策の現実性が高まりますが、乖離が大きいと十分な効果を得られない可能性があります。
乖離させないためには、自社の都合ではなく現実を反映させることが重要です。「顧客がこんな風に動いてくれたら」、「顧客にはこんな風に感じて欲しい」など、自社に都合のいい解釈をしているとマップを作る意味がなくなります。
購買行動の多様化は圧倒的なスピードで進んでいるため、作成のタイミングで更新や改善のスケジュールも組んでおきましょう。
カスタマージャーニーマップの分析と改善策の立案
カスタマージャーニーマップを業務に活かすためには、分析を行って改善案を立案することも重要です。特に以下のポイントは、分析や改善案の立案に欠かせません。
問題点を探す
カスタマージャーニーマップの中には、顧客の期待が満たされていないポイントがあります。
顧客は商品やサービスに一定の期待を持ちながら購入しますが、期待に沿わない場合は何らかの問題があるということです。この問題を解決することが、顧客の満足度を高めることにつながります。
ここで注意すべきポイントは、他社の商品やサービスの期待がカスタマージャーニーマップに組み込まれているケースがあることです。
例えば、ホテルに宿泊するときに荷物を部屋まで運んでもらえると期待している顧客も多いでしょう。しかし、そのようなサービスがなければ、事前に膨らんだ期待によって失望感が大きくなることもあります。
問題点を探す場合は、他社との比較によって相対的に自社への評価が下がっていることも考慮しなければなりません。
不要なタッチポイントを特定
カスタマージャーニーマップを作成するときは、不要なタッチポイントを特定して削除したり、必要な情報を追加するなどの対応も必要です。タッチポイントとは、企業や商品と顧客をつなぐ接点のことで、公式SNSやホームページ、セミナーなどが該当します。
タッチポイントが多いほど商品やサービスに触れる機会が増えますが、一方で不要なタッチポイントはストレスの増加につながります。
例えば、ペルソナが自身に合った製品の購入を検討している場合に、一日のうちに何度もWebサイトやSNSにアクセスしても、お目当てのものや関連する情報がなければ負担を増やすだけです。
このケースだと、事前にペルソナが気軽に問い合わせできるチャットツールを取り入れることで、不要なタッチポイントを減らし顧客の負担を減らせます。
機会損失を生むチャネルを突き止める
カスタマージャーニーマップの分析では、機会損失につながるチャネルがないかを突き止めることも大切です。
例えば、企業から配信されるDMを見てサービスに興味を持ち、記載されているURLをクリックして詳細を確認する行動を取ったとします。
しかし、リンクをクリックした先がサービスの詳細ではなく、企業のトップページやお問い合わせフォームだったとしたら、顧客はそれ以上の追及が面倒になり、購入のチャンスを逃してしまうというわけです。
場合によっては機会損失だけでなく「対応ができていない企業」と判断されてしまい、コストをかけているにも関わらず、配信しているDMによって売り上げを落とす可能性もあります。
機会損失を生んでいるチャネルが見つかった場合は、改善や削除を行うことが大切です。
感情曲線が低いポイントを特定する
感情曲線が低いポイントを特定し、その原因を調べて対策する必要があります。
感情曲線が低いポイントを摩擦点といいますが、ペルソナがネガティブな感情やストレスを感じる部分です。
例えば、レストランに行こうとして大まかな価格や定休日が知りたいとします。タッチポイントとなる公式サイトやSNSに価格や定休日の記載がなければ、知りたい情報を得られずにストレスを感じるでしょう。
このケースであれば、公式サイトやSNSに必要な情報を掲載するだけで問題を解決できます。
まとめ
この記事では、カスタマージャーニーマップの仕組みや作り方などを解説しました。
顧客の行動やメディアは急速に多様化しており、タッチポイントや購買方法も大きく変化しています。一人ひとりに合ったマーケティングを実現し、顧客の満足度を高めてリピーターを増やしたり、業務の改善を図るためにもカスタマージャーニーマップは欠かせません。
また、マップは作って終わりではなく、継続的に改善や見直しが必要です。他部署とも連携をしながら、顧客視点を大切にして自社のマーケティングに活用しましょう。
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