ヤンマガらしさを広め、雑誌と作品の乖離を防ぐ
この新聞広告は、ヤングマガジンのブランディングの一環として企画されたものだ。これまで作品単体の広告は掲載してきたが、ヤングマガジン単体のブランディング広告は講談社として初の試みだという。
狙いは「ヤンマガらしさ」をあらためて周知し、ひいてはヤンマガファンを増やしていくことだ。企画の背景について、講談社 ヤングマガジン編集部 副編集長の横山俊介氏は、次のように話す。
「たとえば、新人作家さんがヤンマガに作品を投稿するとき、ヤンマガのことを知っているほうが応募しようと考えると思います。書店の店員さんがヤンマガの棚をつくるときも、ヤンマガの作品を知っているほうが思いを込めてつくってくれるはずです。ブランディングを通じて雑誌の部数が伸びたら、もちろん喜ばしいことですが、それが目的ではありません。あくまでも、知られていないより知られているほうが色々な面で強いので、それを念頭にヤンマガらしさを広めていくことを目指しています」
今年で44周年を迎えるヤングマガジンは、これまで個性的な作品を数多く輩出してきた歴史がありヤングマガジン自体の知名度は高い。また、現在ヤングマガジンには人気作品が数多く掲載されており、総合的には読者も減ってはいない。だが、自分の好きな作品がヤングマガジンで連載されていることを知らない人は少なくないという。
たとえば、ヤングマガジンの作品が「ヤングジャンプ」で掲載していると思われていたり、ヤングマガジンに作品を持ち込んでくれた作家に、知っているヤングマガジンの作品を聞くと「マガジン」で連載しているものを挙げたりすることは珍しくないそうだ。
「間違われることは、ぜんぜん問題ないんです。ヤンマガとヤンマガから生まれた作品のつながりが薄くなりつつあることは課題の一つ」
漫画との出会い方の変化が影響しているようだ。
いろいろな媒体のマンガを配信する電子書籍サイトが増えた。そこでのランキングをはじめ、SNSで話題になっていることや、好みの絵のタッチ、ストーリーなど、漫画を読み始める動機はさまざまだ。
「若い作家さんや新入社員と話していると、雑誌への関心が薄い層も増えている印象があります。まずは、ヤンマガには面白い作品がたくさん掲載されていることを知ってもらいたい。ヤンマガの媒体力を維持、かつ強化していくため、2024年からヤンマガ自体のブランディングに取り組むことになりました」
新聞広告の信頼性の高さをブランディングに活用
新社会人に向けた応援広告というテーマについては、コアな読者層が10代から20代であることと、4月からブランディングを開始するというタイミングに合わせて考えた。広告掲載媒体として朝日新聞を選んだ理由を、次のように説明する。
「まず、信頼できるメジャーな媒体で本腰を入れて取り組んでいきたいと考えています。朝日新聞を選んだのは、漫画の造詣が深いと考えているからです。朝日新聞社は『手塚治虫文化賞』を主催されています。
報道の使命に基づいて、一次取材を時間とお金をかけてされている圧倒的な信頼性でしょうか。私たち雑誌の作り手が、読者の方の期待を裏切らないように心がけていることと共通していますし、新聞への広告掲載を通じて、多くの読者の方に安心感を持っていただけると思います。
2023年7月には、朝日新聞デジタルのコンテンツ「満州 アヘンでできた"理想郷"」では、ヤンマガで連載中の人気漫画『満州アヘンスクワッド』と連携し話題となりました。そうした取り組みからも、漫画界を応援してくれている印象があります。これまでもヤンマガの人気連載『パリピ孔明』をはじめ、作品単体の広告も朝日新聞に掲載してきました」
SNSが浸透した近年は、中高生の頃から自分が描いた絵や漫画を自ら発信することができるようになった。そのため、才能や可能性のある人たちは色々な媒体の編集者から声がかかり、何社も担当がついているケースもあるという。
「どの媒体でデビューするか検討するとき、親に相談したという作家さんもいました。選べるなら、有名な雑誌にしたほうがいいと助言されたという話も聞いたことがあります。今回の広告は新社会人に向けた広告ではありますが、新聞に掲載することで若い作家志望の親世代にも届けられるのではないかと考えました」
「ヤンマガらしさ」とはマイナスも肯定できる強い生命力
新社会人向けの応援広告を、ヤンマガらしくどう表現するか。そもそも「ヤンマガらしさ」とは何か。
横山さんは、次のように説明する。
「一言で伝えるのは難しい。まだきちんと言語化できていないのですが、人間本来の生命力や強さのようなものだと思っています。たとえば、うまくいくこともあれば、いかないこともある。うれしいこともあれば、汚いことやダサイこともある。いろんな感情を抱えながら、面白がりながら頑張って生きている。マイナスを肯定できる強い生命力のあるキャラクターたちが懸命に暴れまわっている。そんなイメージがヤンマガらしさであると考えています」
全30段の新聞広告は「講談社としてもおそらく初めてのこと」と横山氏。
くすみのある黄色と黒を基調としたデザインで、見開き全面に歴代の人気作品のコマで構成されたインパクトのある広告だ。
新社会人向けの応援広告は4月の風物詩でもあり、毎年さまざまな企業が各メディアで発信している。他社と同じようなメッセージでは埋もれてしまうため、ヤンマガだからこそできるアドバイスとして考えたのが、ヤングマガジンの歴代キャラクターからのひねりを効かせたメッセージだ。
ユニークなのは、リード文で「みんなへの応援メッセージを考えたけど、そういうのはもっとちゃんとしてる会社にまかせることにした。」と、ストレートに本音を伝えていることだ。人間味があり、これもヤンマガらしさと言えるだろう。
「未熟さもカッコ悪さも受け入れて、キミのままで社会を生きるアドバイス」として、計40種類を考案。広告に登場するキャラクターは、レジェンド作品だけでなく、今、連載中の人気キャラクターを中心に選定。作品のシーンはそのまま使用し、吹き出しのセリフを新社会人向けのアドバイスに差し替えた。新聞広告には、厳選した22のアドバイスを掲載した。
「当初は博報堂のクリエイティブチームからの提案で、最初はもう少しきちんとしたアドバイスでした。だけど、自分たちが新人の頃を思い出すと、先輩たちからの真っ当なアドバイスは逆にプレッシャーでもあったよね、という話になり、最終的に気持ちを楽にするような、等身大のアドバイスという方向性が決まりました」
博報堂のクリエイティブチームが新社会人に刺さる言葉を考え、各作品担当と作家はキャラとアドバイスの台詞が合っているかを見極め、校閲担当は広告としてのリテラシーをチェックしたという。
「そこまで言っていいのか、広告として成立するのか、などさまざまな意見が入り交じる中、妥協したこともたくさんありましたが、なんとか調整して着地させることができました」
若い作家志望の親世代にも深く刺さった新聞広告
今回のブランディング広告は、新聞のほか、JR品川駅にある自由通路内のビジョンとSNSで展開した。
JR品川駅のビジョンとSNSには、「もし●●が先輩だったら」という作品名とキャラクターの名前も加えて、計40種類のアドバイスを全て掲載。
セオリー通りではないアドバイスをどう受け止められるかという不安もあったが、SNSでは面白がったり共感してくれたりする人は多く、ネガティブな反応は特になかったという。
「新聞広告を掲載して一番驚いたのは、ヤンマガで連載中の作家さんから『新聞広告を見たと実家の親から連絡があった』と聞いたことです。喜んでくれたらしく、新聞広告の写真をスマホで撮影して送ってくれたそうです。特に地方で暮らす親世代には、私たちが想像しているよりも新聞広告は深く刺さることを実感しました。新聞のメジャー感と格式の高さによるもので、それがヤンマガの信頼にもつながるのだと思いました」
今回の広告を対象にした「J-MONITOR」(新聞広告共通調査)では、特に30代から50代の女性読者の反応が良く、コア読者とは異なる層からの好感度も高めだった。
「自分の子どもが社会に出るタイミングでも、こんな広告が掲載されたらいいと思った」(40代女性)
「ユーモアと現実味がかけあわされていて、わかりやすく面白い。気負いすぎている新社会人にとって良いメッセージ」(40代男性)
「新入社員のときに知っておきたかった」(50代女性)
といった声が寄せられた。
ヤングマガジンでは次のブランディング広告も企画している。
雑誌のイメージは、掲載されている人気漫画の内容とも連動する傾向があるため、世界観を統一することは簡単ではない。
そこで、まずは今回の広告のキーカラー「くすみのある黄色」を「ヤンマガイエロー」と称し、ブランディングに活用していく計画だという。
「ヤンマガのグラビアでは、赤や黄色など原色の水着を着用することが多く、なじみのある色でした。今回のブランディング広告で採用したこともあり、今後、電子メディアで配信されるヤンマガの漫画のサムネイルに、ヤンマガイエローの帯をつけていこうと思っています」
理想のブランディング広告の形をこう語った。
「たとえばグラビアの撮影のとき、『あの広告みたいにしたい』というと、スタッフみんなが『青い空と白い雲、あのさわやかな感じね』といった同じイメージを抱ける広告。ヤンマガの広告も、10年後も20年後も変わらないイメージがつくれたらいいなと思っています」