2020年度、新聞広告を起点にTwitter上で話題が広がる事例がいくつも生まれた。そんなTwitter上での話題化にはポイントがあると話すのは、電通のクリエーティブプランナー花田礼氏。花田氏に2020年度の新聞広告を振り返りながら、話題化の流れや新聞広告とSNSとの相性について聞いた。
Twitterは広告が拡散する構造を持つ唯一のプラットフォーム
―SNSで話題化する新聞広告のポイントは。
以前から新聞広告起点の話題化については一定の法則があると考えていましたが、2020年度話題になった広告を振り返って見てみると、その法則はある程度、正しかったように感じています。新聞広告がSNS上で話題化するとき、突破口となるのはやはりTwitter。私はTwitterを「広告が拡散する構造を持っている唯一のSNS」と捉えています。Twitterでは、(場合によりますが)1,000リツイートを超えたあたりで、広告が広告ではなく「話題のコンテンツ」という見え方に変わる瞬間があり、ここまでくると拡散の流れは加速します。Twitterでの盛り上がりを見ていたWEBメディアのライターやテレビ番組のディレクターが、ネット記事やテレビなどで「話題の広告」として取り上げ、Twitterユーザー以外の人たちの目にもその広告が届くようになります。
話題化する広告には「異常値」が含まれている
―どのような新聞広告が話題化しやすいのか。
私が広告を作る際は、先輩の金言「人の印象に残るアウトプットを作るには“異常値”を戦略的に用意しておくこと」を意識しているのですが、Twitterで話題化するのは、まさにこの“異常値”が含まれた広告だと言えます。広告は「What(何を)」「How(どう言うか)」を基本構造として成り立っています。Twitterで話題化する広告には、このWhatかHowいずれか、もしくは両方に「普通ではない」と思わせる要素が含まれています。たとえば大王製紙「アテント」の「もっといいパンツになろう。」キャンペーン(2020年8月4日付朝日新聞全国版朝刊掲載)。これは本来、なかなか話題にしにくい大人用紙オムツがテーマですが、「オムツではなくパンツと呼ぼう」という提案が「What」の異常値で、それが草彅剛さんのタレントパワーとかけ合わさり話題になったと考えられます。「としまえん」の閉園を告知する新聞広告(同8月30日付東京本社版掲載)もTwitterで広く拡散されました。「これまでの豊島園の流れだとなんかトリッキーな閉園メッセージを打ってくるかも」という大衆の予測の真逆を行く「Thanks.」というシンプルすぎる「What」と、あえて余白をたっぷり使うという「How」が、異常値として機能し、清々しい粋な印象や寂しさを感じさせたのでしょう。
2020年8月30日付 東京本社版 朝刊722KB
人気漫画やアイドルと新聞広告の相性がいい理由
―2020年12月には全国紙5紙で掲載された『鬼滅の刃』広告が話題となりました。
「What」と「How」の異常値ともう一つ、話題化しやすい新聞広告の特徴として、ビッグコンテンツがあげられます。ビッグコンテンツとはアイドルやミュージシャン、人気アニメやゲームなど、コンテンツそのものにパワーがあり、多くのファンがついているもの。代表的なのが全国紙5紙の朝刊に掲載された『鬼滅の刃』の一億冊突破&完結巻発売広告(同12月4日掲載)です。掲載日には、朝から新聞を買いに走った人のツイートがあふれ、関連する言葉がいくつもTwitterトレンド入り。ソーシャルメディアやポータルメディアでも記事となり、まさに話題が話題を呼んだ結果、大きな社会現象となりました。
―ビッグコンテンツと新聞広告の相性が良い理由は。
新聞広告は、ファンの心をくすぐる仕掛けがつくりやすい点があるでしょう。まず新聞のその日にしか手に入らないのではと感じさせる「限定感」がファンの収集欲を掻き立てます。この事例として分かりやすいのが『転生したらスライムだった件』(同11月28日掲載)です。全国5つの地域で紙面デザインを変えることで希少性を高め、大きな話題に。広告が掲載された新聞をSNS上でやり取りするケースも見られました。
また新聞広告はクリエイティブとして完成されたひとつの作品。とくに若い世代にとって新聞のサイズ感、そして紙ならではの質感・保存性は特別なインパクトを与えるようです。なかには新聞広告を額装するファンの姿もあり、若い世代にとって新聞がいま改めて“新鮮なメディア”となっているのかもしれません。
新聞の持つオフィシャル感が拡散を後押し
―その他、新聞広告で注目しているポイントは。
最近あらためて注目しているのが、新聞が持つオフィシャル感です。新聞に掲載されるということは、いわば都内の一等地に看板広告を出すのと同じようなイメージで、見た人に“重み”を感じさせるように感じています。新聞には、大観衆が注目しているなかマイク1本で発言をしているかのような、真面目で、オフィシャルな雰囲気があります。だからこそ手に取った人は、「この情報を本気で伝えようとしているのだ」と受け止め、SNSなど他のメディアで発信したくなるのではないでしょうか。
また新聞特有のクレバーなイメージもプラスになります。新聞広告を投稿するということは、「自分は新聞を読んでいるスマートな人です」という表明にもなるため、投稿しやすいとも言えるでしょう。
企画を運任せにしないためには「起点」を考えることが大切
―話題化の再現性を高めるには。
異常値やビッグコンテンツなど表現のポイントを押さえた新聞広告が話題化しやすいのは事実。拡散の構造を理解するだけで、Twitterで話題化する確率は上がるでしょう。しかしそこからもう一歩踏み込み、企画の広がりを運任せにしないためには、「起点」をつくることが大切です。絶妙な第三者をあらかじめ仕込む、制作側しか知らない貴重な追加情報を掲載後にSNSで発信する、発信力のあるアカウントを巻き込むなど、企画段階から「どこを起点にするか」と出口戦略を考えておくことで、再現性はある程度、高められると思います。
「新聞×SNS」の時代はこれから加速する
―これからの新聞広告に期待すること。
花田礼氏
新聞というメディア自体は歴史が長いですが、「新聞×SNS」の時代は、まだ始まったばかりです。とくに若い世代にとって新聞は、いまあらためて“新鮮なメディア”。新聞広告をきっかけにしてソーシャル上での話題を広げる仕掛けは、広告クリエイターとしても取り組んでみたいと感じています。
電通 クリエーティブプランナー
電通入社後、デジタル制作・システム開発の部署を経て、現在のコミュニケーションプランナーに。会社員の傍らドローンフォトグラファーとしても活動。近年のお仕事→リポビタンD「ファイト不発」/USJ「SocialDisDance」「ユニ春」/セブンツーセブン化粧品「オコジョが大好き」/ウコンの力「いい感じの力のやつ」など