企業広告の中でも強いインパクトを与える新聞広告
正月広告への注目は元日の周辺期間にも拡大
企業プロモーションの多様化が進む中で、そのひとつ「企業広告」も、媒体(となりうるもの)、広告手法、ターゲットの関心領域、それぞれが増えたことで多様化しており、テレビCMから動画広告、インフルエンサー広告、行動ターゲティング広告、アプリ広告、SNS広告まで、予算や目的に適したものはどの広告なのか、どこまでを狙うべきか、企業にとって選択肢が増えています。
その中でも、「新聞広告」は、全面広告ともなるとテレビCMと並ぶラグジュアリー感のある広告となることから、活用機会や検討できる体力を持った企業は限られます。しかしその分、インパクトは強く、とりわけ正月広告は毎年、生活者目線の反応に加えて、広告プランナーなどの関心層によるまとめ投稿も多数拡散されます。写真や情報認知の拡散を通じて非購読者にもリーチしてSNS上で話題が広がりやすく、反響の大きさや要因、どのようなイメージが醸成されたかなど、SNSを使って反響を図りやすい企業広告のブランドのひとつ、と言うことができます。
新聞広告はデジタルの広告と比べて、「広告意図をもって選択されていると分かること」「注力ぶりが伝わりやすいこと」「紙の保存性・コレクション性(配布物としての公式性)」などもあってインパクト・メッセージ性が強く、10年後にもずっと語られる広告となりうるロングテールな特性・ポテンシャルを持っています。
8月30日の朝日新聞朝刊(1都6県+静岡)に #としまえん の広告が掲載されました。#Thanks #新聞広告 pic.twitter.com/Qgg249lpk1
— 「広告朝日」編集部 (@adv_asahi) August 29, 2020
「としまえん」「宝島社」などは企業広告として有名ですが、特定の商品の広告においても、手法やクリエーティブの魅力から、ファンの間で記憶に残り続けるケースも多いのが、新聞広告です。
なかでも「正月広告」は大きな話題が集まりやすく、昨今では、大晦日や三が日以降を含めた、元日ではない周辺期間にも大型の広告が掲載され、注目が高まっています。そこで本記事では、年末年始期間の掲載までを「正月広告」として、対象を広げて傾向を考察していきます。
反響ボリュームの傾向を把握するために、直近3年間の年末年始の2週間(14日間)を、それぞれ以下の3期間に分けて、1日あたりの話題量を比較してみます。
Ⓐ年末(12月25日-30日)
Ⓑ元日周辺(12月31日-1月3日)
Ⓒ正月明け~仕事始め(1月4日-7日)
「元日周辺」(大晦日から正月三が日まで、期間Ⓑ)の反響量はどの年も突出しています。前後の期間との1日あたりのボリュームの違いを比較するだけでも、いかに関心を持たれているか、元日周辺の新聞広告が特別であるのかを理解できる結果が示されています(21-22年は年末(期間Ⓐ)の18.3倍、正月明け~仕事始め(期間Ⓒの8.9倍))。一方、三が日以降も反響は多い状態です(期間Ⓑの話題継続に加えて、期間Ⓒに新たに掲載された広告も、高い反響を獲得できる傾向がみられます)。したがって多くの反響を得やすい期間、という視点では、現状は「大晦日から仕事始め過ぎまで」ということができます。
反響量では他の期間と比べて少ない「期間Ⓐ」も、正月広告への期待やこの1年間の広告を振り返る投稿の増加など、話題の内容には変化がみられます。つまり潜在的には、クリスマスが明けた26日から仕事始め頃までが、1年間の中でも新聞広告そのものに多く目を向けられている期間と考えられ、正月広告のティザー(予告)を組み合わせたり、年末に共感を得やすいテーマを盛り込むといった広告戦略に、関心を引く訴求内容・メッセージ、クリエーティブを組み込むことができれば、大晦日前からも大きな話題化が見込まれると言えるでしょう。
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直近3年間の正月広告のヒットは? 話題化の傾向を読み解く
では実際にどのような広告が高い反響を獲得しているのでしょうか。
反響の内容が良い、ボリュームが多いなどの「注目を集めた」といえる正月広告には、いくつかの共通した傾向がみられます。以前から変わらない傾向、ここ数年に変化がみられたトレンドなどについて、直近3回の年末年始に話題となった広告の反響要因をもとに、要素を整理して紹介していきたいと思います。
要素① 企業メッセージ(社会情勢の解釈と代弁)
「正月広告」といえば、「そごう・西武」(「百貨店が売っていたのは、希望でした。(21年)」「わたしは、私。(22年)」)「講談社」(「講談社の未来の年表」21年)などの企業広告にみられる、その年、あるいは未来を見据えた指針・企業姿勢を示すメッセージが大きく掲載された広告を思い浮かべることが多いと思います。
「集英社」(「今日から、進年。」21年)「小学館」(「信じてみよう。」23年)などの出版社、そして「時代遅れのRock’n’ Roll Band」(23年)のような企画ユニットも、作品の人気キャラクターやアーティストを起用しながら、その年ごとの、社会的に求められる空気感を力強いメッセージで表現していることから、同じ要素を含んでいます。
企業は前年一年間のトピックを振り返る中で、例えば近年では新型コロナウイルスの感染拡大が「終わりの見えない閉塞感を伴った、ぬぐえない不安」と捉えられていました。併せてリモートワークやメタバースの浸透など技術の進歩があって実現したもの、あるいは東京五輪など大きな注目を集めたイベントや流行したものごとを踏まえて、前年からの飛躍や新たな展開を伝えるメッセージを作成します。その際、「矢場とん」(「メダル齧るな、ブタ齧れ。(22年)」)や「WOWOW」(「正月やることなさすぎて草wwwww(23年)」)のような、社会的に大きな注目を集めた事象やトレンド、「あるある話」などの共通認識を「風刺」として、企業活動と絡めてウィットの効いたメッセージに変えた広告も、話題を多く集めています。
いずれのケースでも、企業が生活者の目線に立って共感や勇気を生みだし、時には的確な言葉で代弁をするなど、生活者とともにある味方、理解者と伝える広告として、捉えることができます。
要素② サプライズ(ワクワクする発表、情報)
社会情勢について、読み解いて解説をしたり風刺を用いることは、新聞本来の役割です。一方で新聞は、その日の新たな動向や意思決定の発表など、日々のトップニュースや情報をいち早く伝えるメディアです。そうした媒体の背景から、同じく新聞としての役割を持たせた広告として、「サプライズ発表」も大きな反響を集めています。
「GANG PARADE」(人気女性音楽グループの再始動、22年)や「SixTONES」(人気配信THE FIRST TAKEへの出演、22年)、「シン・仮面ライダー」(映画の公開時期発表、23年)、「うる星やつら」(秋の再アニメ化・放送予告、22年)、「#キンキ25円でCM出演」(Kinki Kidsの企画広告主募集、22年)などは、ワクワク感・期待感が醸成された様子に加えて、これらの情報を「正月広告」で発表したことで、「一大発表」として注力していることも伝わって大きな話題を集めていました。
特に正月広告での発表は、もともとのファンから喜びや祝福を受けるだけでなく、広告掲載をきっかけに関心を持たれたり、閲覧者の記憶に残って「あのとき」と後々まで語られることも少なくありません。
話題性のある新製品や作品の予告、人気のあった商品・サービスの復刻、魅力的なコラボレーションやイベントの実現などを正月広告で発表し、サプライズとして見てもらうことができれば、ファンからの顧客満足度向上はもちろん、正月広告やSNSでの話題化をきっかけに、これまで接点のなかった生活者にも、高い関心を持たれた状態でリーチできるかもしれません。
要素③ 人に教えたくなる広告手法のユニークさ(拡張性、意外性)
①②で整理した、新聞的な役割を持たせた広告を大きな主軸とする一方で、昨今では「メッセージ」「情報」を伝える為の広告にとどまらず、インターネットやSNS、ARなど、紙面の外側にある世界と連動できることを重視したり、あるいは新聞の常識を覆す紙面の使い方をする、一見新聞を否定するかのような広告など、「従来は新聞的ではなかった」手法も、取り入れられ始めています。
「新サムライマック -大人を、楽しめ-」(SNSプレゼントキャンペーン、23年)、「講談社」(ARみくじ、22年)「松任谷由実&JUJU」(ARオルゴール、22年)、「LOUIS VUITTON×草間彌生」(朝刊紙面ラッピング、23年)、そして直近3年以前の正月広告となりますが「NETFLIX -Netflixでも行く?-」(テレビ欄を破いたクリエーティブ、20年)などは、思わず人に教えたくなる拡張性・企画の魅力からも反響を集めた広告で、限定的ではあるものの、正月広告の新たなトレンドと捉えることができそうです。
手元のスマートフォンと連動したARによってよりリアルな世界観が体験できたり、SNSでの話題拡散を促すことで、広告の閲覧を通じて関心が深化することや、新聞読者(一次接触者)以外にも伝達できることを大事にしています。また「LOUIS VUITTON×草間彌生」では、別紙や裏面に広告を掲載するのではなく、朝刊を丸ごと広告紙面がラッピングする、という朝刊の概念を取り払った潔さが好意的に評価されました。後者は、新聞のフォーマットを逆手にとってクリエーティブに取り入れている点で、実は新聞をしっかりと意識した広告とも考察することができます。
要素④ 推し活(コレクション、応援消費)
そして、ファンを中心に大きな話題を獲得しやすいタレント広告には大きな変化が現れています。ここ数年はアニメやゲームの「推し活」「応援消費」の浸透を裏付けるように、魅力的な作品キャラクターを掲載した広告の反響が特に大きく、一部では有名タレントの広告を遥かに凌ぐほどの反響が確認されています。
「あんさんぶるスターズ!!」(22年)、「ONE PIECE FILM RED」(23年)、「東京卍リベンジャーズ」(「講談社」22年、「ディズニープラス」23年)、「ONE PIECE」(「集英社」21年)、「スパイファミリー」(「集英社」22年)、「本好きの下剋上」(23年)、さらに作品ではありませんが、所属VTuberの魅力と位置付けられる「ホロライブ」(22年)などの広告には、紙面閲覧からの反響はもちろん、SNSで広告掲載を認知したファンからも、驚きや賞賛、入手を希望する声を挙げる様子が、それぞれ多数確認されています。(もちろん、従来ながらの実在するタレントの広告にもファン起点の「推し活」はみられ、「SixTONES」(21、22、23年)」「BTS」(「韓国観光公社」23年)などがまとまった話題を集めている他、クラウドファンディングを活用した、ファン有志による広告出稿も検討が浸透しつつあります)
キャラクターを使ったなかで、特に反響の大きかった「あんさんぶるスターズ!!」(スマホアプリゲーム、21年12月31日)では、47都道府県のエリア別50種類で、キャラクターが異なるクリエーティブを採用しました。掲載当日(大晦日)の0時からSNSで掲載予告すると、深夜にも関わらずファンの間で瞬く間に拡散されて話題を独占しました。ゲームを知らなかった広告閲覧者からも、広告認知を示す声が挙げられた他、早朝から新聞を購入しようと出かけたり、保存意向を示す投稿や、他のエリア居住者との”トレーディング広告”として、企画や紙面広告の特性にともなう反響が挙げられています。
現在コンテンツを用いた広告では、作品の世界観以上に「キャラクターの人気や魅力」が重要なファクターとなっています。コンビニエンスストアの「一番くじ」や、外食チェーンとグッズ付きコラボメニューを展開しているコンテンツ(コミック、アニメ、ゲームなど)については、新聞広告でも新たな注目を集める可能性が高い、と考えて良さそうです。
さらにこれまでは多くがコンテンツそのものの広告でしたが、今後は一般企業の広告として、タレントの代わりに作品キャラクターが起用されるケースも増える可能性が考えられ、自社で独自のキャラクターなどを持たない場合にも、組み方や活用を検討することは有効と思われます。
要素⑤ 新聞掲載のステータス(急成長したアングラ作品、異質なサービス)
古くから支えるファンの反響が多いという背景から、要素4に内包されるケースも多い要素として、「あんさんぶるスターズ!!」「ホロライブ」「本好きの下剋上」さらに「鬼の花嫁(23年)」「THE FIRST TAKE(サービス自体の広告、21年)」などでは、主に無名だった頃から注目・応援していたファンから、マイノリティだったサービスが新聞広告を掲載できるまでに成長したことをひとつの「ステータス」と感じて喜ぶ反応も多く寄せられ、サービス側からファンに向けた節目の「御礼広告」としても、重要な役割を持ってくると言えそうです。
顕在化した要素はうまく組み合わせることで大きな関心を獲得
「推し活」「懐かしさ」のように、時代の変化に合わせて要素の本質を残した変異も起こる
正月広告に求められるポイントを考察する上で、本記事では近年反響を集めた正月広告を5つの要素に分けて整理しました。特徴を分類するなかで、「あんさんぶるスターズ!!」(要素③④⑤)、「#キンキ25円でCM出演します」(要素②③④)のように、良い反響がみられた広告には、複数の要素を併せ持つケースも少なくないことがわかります。
「講談社」のARみくじでは、要素③の広告手法のユニークさ(拡張性)を取り上げましたが、人気コンテンツ「東京卍リベンジャーズ」のキャラクターを採用していることで、④の推し活要素も、欠かすことのできない反響の要因です。また多くのコミック出版社の広告は、要素①の企業メッセージと、要素④の推し活がうまく掛け合わされている、という具合です。
例えばコンビニやスーパーで購入できるお菓子や飲料など(新商品、あるいはロングセラー商品)とコンテンツ(作品キャラクター、作中に登場する食品など)のコラボ予告をした広告などが実現すれば、要素④に加えて、要素②のサプライズが満たされた新聞広告となり、定番商品はもちろん、まだこれから知名度を上げていくブランド・サービスにとっても、なによりファンにとっても魅力的なプロモーション手法となりそうです。
また、「推し活」がタレントからキャラクターへとシフト(生活者の関心ごとのシフト)したり、あるいは有志のファンが自分たちで広告を掲載するケースが出てきたように、今後もトレンドや新聞の役割の変化に応じて、姿を変えていくことが見込まれます。例えば「懐かしさ」の訴求なども、昔から続く「新聞」というメディアを活かした広告です。①の生活者の目線を「代弁」するひとつの要素と捉えられ、ライフスタイルや価値観が大きく変わりつつある現代ではポイントとなるかも知れません。
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目の前の成果以上に「記憶に残る」こと
毎年期待や話題が集まる広告主となれば価値は大きい
改めてSNSで話題化したり拡散されやすいという視点に立つと、正月広告に求められる5つのポイントは、それぞれ①共感・代弁 ②ワクワク感 ③ユニークさ ④推し活 ⑤ファンの満足感 と言い換えることができます。
5つのポイントが起点となってSNSで話題化した広告は、閲覧者やファンの間で「記憶に残る広告」となることが多いはずです。22年の「あんさんぶるスターズ!!」「ホロライブ」などは、すでに前年の正月を振り返る話題の中で、楽しかったイベント、インパクトを受けた出来事として記憶に残っていることが確認されています。また、年末年始を含む正月広告では、テレビ番組やスポーツイベントなどの季節行事、アーティストの活動、企業広告などが一部恒例の広告と捉えられています。そうした広告では、閲覧や入手することが、広告を出す企業や広告に登場するコンテンツ自体からのファンに向けた年賀状的なイベントとして例年楽しみにされ、掲載が無ければ残念がる様子と併せて、過去の広告の認知、魅力を語る投稿がまとまってみられています。
どれだけ売れたか、サービスについて問合せがあったかという目の前の成果以上に、「広告の話題化」さらには「記憶に残ること」「何年か先の正月にも再び注目を集めること」が、正月広告で目指したい、一つの重要な指標となるでしょう。
季節イベントとしての分かりやすさやまとまった盛り上り、広告自体の高い注目度から本記事では正月広告を取り上げましたが、これらは正月に限定されるものではなく「新聞広告」にもそのまま当てはまる特性です。デジタル広告が溢れSNSが浸透した現代だからこそ、新聞広告は注視に値するインパクトのある魅力的な広告として、生活者の目に映っていると言えるはずです。
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マーケティング視点でのSNS分析の他、未来予測から目の前の課題解決までサポートする、未来共創コンサルティングパートナー「D4DR株式会社」のシニアアナリスト。
ソーシャルメディア分析を専門領域に、投稿をもとにした生活者のインサイト抽出・提案を得意とする。D4DR 札幌リサーチセンター室長。