カンヌライオンズ2023受賞から考える、ポッドキャストの可能性

 朝日新聞ポッドキャストのプロジェクト「Journa-Rhythm」が、世界で最も権威ある広告賞の1つであるカンヌライオンズ2023で銅賞を受賞しました。他にも、Spikes Asia 2023でのグランプリなど、国内外6つのクリエイティブアワードで合計9つの賞※を獲得した同プロジェクト。その評価の核心は、ポッドキャスト固有の強みを生かした点にあるといいます。ポッドキャストという音声メディアの可能性について、事業推進を担当する中島晋也に聞きました。

※「Journa-Rhythm」は、これまで国内外の6つのクリエイティブアワードで、グランプリ1件、金賞1件、銀賞2件、銅賞5件を獲得しています。
カンヌライオンズ 2023:銅賞(ENTERTAINMENT LIONS FOR MUSIC - A. Branded Content for Music部門)
CLIO AWARDS 2023:銅賞(AUDIO / Streaming/Downloadable Content)銅賞(Branded Entertainment & Content / music)
Spikes Asia 2023:グランプリ(Music - Excellence in Music部門)・金賞(Radio & Audio部門)
LONDON INTERNATIONAL AWARD 2022:銀賞(Radio & Audio部門)・銅賞(podcast部門)
アジア太平洋広告祭(ADFEST)2023:銀賞(Radio & Audio Lotus)
ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 2022:銅賞(ラジオ&オーディオ広告部門 Bカテゴリー)

 「Journa-Rhythm」は、日本を代表するヒップホップのカリスマ・Zeebraさんをオーガナイザーに迎え、Z世代当事者の人気ヒップホップアーティスト5人と朝日新聞ポッドキャストがコラボレーションした企画です。各アーティストが報道(Journalism)からインスピレーションを得て、「移民」「未来への閉塞感」といった社会に対するそれぞれの思いをラップ(Rhythm)でぶつけた楽曲を制作し、ミュージックビデオを撮影しました。ポッドキャストでは、各楽曲の背景となった社会課題をテーマに、アーティストとZeebraさん、朝日新聞ポッドキャストチーフMC神田大介が鼎談。フラットな対話を通じて、「報道をもっと届く言葉にしよう」という試みでした。

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 Journa-Rhythm」のクリエイティブディレクターを務めたTBWA\HAKUHODOの荒井信洋氏は数々の受賞について「ポッドキャストとヒップホップミュージック、この異なるオーディオメディアの共創で強いナラティブの力を生んだ点が評価された」と分析しています。

 「ナラティブ」は非常に重要なキーワードになります。「ナラティブ」を用語として簡単にまとめると、「個人や企業が経験・事象を時間軸で並べ、意味づけした物語を、他者や社会と共に語り紡ぐこと」と捉えられます。

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 そしてナラティブは、映像よりも、音声のみの方が伝わりやすいことが、オーストラリアのオーディオ配信会社ARNの研究機関からのレポートで明らかになっています。この調査では、キング牧師の有名な演説を「映像+音声」で見せた場合と、「音声だけ」で聴かせた場合の神経反応の差を調べました。すると意外なことに音声だけの方が、波形が大きく表れています。調査レポートによると、映像の場合はビジュアルに気を取られてメッセージへの注意が減る方向にあり、音声のみの場合は、メッセージ自体に集中できたためより伝わったのではと推測しています。

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 もう1点ご紹介すると、ロンドン大学の研究者が科学誌「Scientific Reports」に発表した調査があります。調査では映像作品を見せて、次にその原作本の朗読を聞かせました。その後、物語への没入感などの評価を質問したところ、音声よりも映像の方が平均約15%高い評価になりました。一方でその人たちの皮膚の電気信号や心拍数、体温といった生理的な値は自己申告の回答とは逆に、音声の方が高いレベルを示しました。

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Engagement in video and audio narratives: contrasting self-report and physiological measures

 映像は受け身でも楽しむことができるが、音声は聴く中で「これはどういうシーンなのだろう」と、脳内でイメージする必要があり、ナラティブにより積極的にコミットすることが、生理学的な大きな反応に繋がったのでは、と分析しています。
 音声のみで定期的にナラティブを伝えるポッドキャスターは、リスナーに大きな影響力を持ちます。MagnaVoxがアメリカで行った共同調査で、ポッドキャストを毎週聞く人に​、「SNSのインフルエンサー」「テレビ/映画の著名人」「ポッドキャスター」​のうち自身にとって最も影響力のある人物を選んでもらったところ、​75%がポッドキャスターと答えたそうです。

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 さまざまな調査から、音声はより人を物事にコミットさせやすいということが分かってきました。ポッドキャストは、そんな音声を配信できるメディアです。ポッドキャストは音声という意味でラジオと同じフォーマットだと思われがちですが、ラジオと違ってアーカイブされていて、いつでも聴くことができます。また誰もが配信できるところが大きなポイントで、個人の方でもSNSのように自由な形で配信することができます。
 朝日新聞社が運営するポッドキャストの愛称“朝ポキ”は、リスナーさんに名づけていただきました。現在7つの番組を配信していて、肉声のエピソードは累計3,100本、合成音声を合わせて2.4万本のコンテンツがあります(202312月現在)。ながら聴きが可能なため、40分以上の話も完聴率が7~8割。他方、動画は10分の視聴維持率が40%あれば優れていると言われます。音声は、動画よりも長い聴取時間と再生維持率で、メッセージの文脈を丸ごと届けられているという実感があります。

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 リスナーは情報感度が高い30代以下が中心。7割くらいが東京をはじめとする大都市圏にお住まいで、1割は海外。また経営層や管理職といった意思決定する方がリスナーの20%いらっしゃいます。そういう方々はポッドキャストをきっかけにした検索行動や購入行動にも積極的で、広告の効果にも結び付くと推測できます。
 そういったリスナーを、朝ポキはどのように増やし、ファン化したのでしょうか。ここでもナラティブがポイントになったと考えています。先ほどご紹介した、ナラティブの力を引き出す音声の特性を生かしたコンテンツ制作とコミュニケーションをしています。
 たとえば、アルコール依存症当事者になった記者の話など、朝ポキでしか聴けないような話、何十年にもわたるマイナンバー問題の深層など、1からじっくりと聞いて全貌が理解できる話、リスナーから募集した子育てのもやもやエピソードをもとに記者同士が答えを性急に求めずに思案を重ねる話など、数十分から時には3時間以上の音源を配信。「テキストでは温度感が伝わりにくい」「動画では全部見て理解してもらえない」内容を、音声によってリスナーの心まで届けています。

2312_podcast_066 交流イベントPocast Meeting

 音声のナラティブを紡いでいくなかで、リスナーのお便りを読み上げるコンテンツをシリーズ化したり、X(旧Twitter)コミュニティーなどで交流したりもしています。リアルでもオンラインでもイベントを開催し、参加したリスナーからは「本当に朝ポキが大好きです。みんなに宣伝します」といった声を聞くことができました。お便りは累計4,000通も届いており、「紙の新聞では感じられなかった親しみを覚えている」などという嬉しい声を聞くことができました。こうした交流を通じ、朝ポキ編集者もリスナーから学び、双方向にナラティブを紡いでいます。

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 ナラティブは、朝ポキで広告を出す場合にも、ポイントになります。広告ではリスナーとのエンゲージメントを軸に、音声報道と音声広告のコンテキスト(文脈)を地続きにすることで、リスナーもコミットできるメッセージをつくっていくことが大事になるわけですが、前述のイベントなどを通して、朝ポキはその土壌ができていると考えています。

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朝日新聞ポッドキャストメディアガイド

朝日新聞ポッドキャストの番組紹介やメディアデータの他、広告視聴態度やポッドキャストの国内利用実態調査レポートを含む72ページに及ぶ資料集です。

  2024年末にはインターネットの80%のブラウザで3rd Party Cookieが使えなくなることから、現在デジタル広告の業界では「Cookieレス」が話題になっています。具体的にはリターゲティング広告ができなくなるかもしれませんし、3rd Partyデータを活用したオーディエンスターゲティングができなくなる可能性も高いです。Cookieを利用して効果検証を行うアトリビューション分析でも正しい数値が出なくなるでしょう。
 「3rd Party Cookieによるターゲティングが可能な時代」が終わることで、もう1度、メディアの広告出稿は、コンテンツから紡ぎ出される文脈が重視される世界になるだろうと考えています。

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 メディアの純広告や、コンテクストを考慮したターゲティングが最重要となるなか、注目を集めている広告手法がデジタル音声広告なのです。アメリカではすでに「デジタル音声広告」は、「検索連動広告」「バナー広告」「動画広告」「SNS広告」に続く第5のデジタル広告として定義されています。それを裏付けるよう、市場規模はどんどん増加。2022年で59億ドル(7,965億円)の市場規模になっています。

2312_podcast08 IAB internet Advertising Revenue Report

 デジタル音声広告に注目が集まる理由に、大手プラットフォーマーが続々とポッドキャストに参入している状況があります。AppleAmazonSpotify、そしてYouTube2023年に日本を含めた全世界でポッドキャストサービスに本格参入しました。
 アメリカ市場で伸びているデジタル音声広告、そのなかでも特に伸びているのがこのポッドキャストです。2022年で18億ドル(2,464億円)、2025年には39億ドルを超えると予想されるほど、急成長しています。

2312_podcast09 IAB internet Advertising Revenue Report

 おもしろいデータとして、ポッドキャストに広告出稿している業種カテゴリーがあります。これはポッドキャストの「多様性」という文化をよく表していて、アメリカ市場では出稿業種カテゴリーでは「Other」がトップ。「Other」は「その他」として末尾に出ることが多いと思いますが、ポッドキャストにはニッチなものも含めてさまざまな業種が出稿するので、1位が「Other」になるわけです。ただそのなかでも得意な業種はあって、2位に金融、3位にエンタテイメントと続いています。

2312_podcast_10 PwC | IAB FY 2022 Podcast Ad Revenue Study

 ところで、消費者の商品ブランドに対する態度は、認知的態度と感情的態度に大別できます。消費者の第一想起ブランドになるためには、商品の機能的に良いところを知ってもらうことと、好きになってもらうことが必要になります。前述のARNの研究機関のレポートによると、ポッドキャスト広告の効果は、SNSYouTube広告と比較して、エンゲージメントが1.54倍、認知は2.35倍、理解は2.13倍、想起は2.25倍あるとのことです。これほどの広告効果があるからこそ、アメリカ市場でポッドキャスト広告が伸び続けているわけです。

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 3つの事例を通じて、ポッドキャストのメリットをご紹介したいと思います。1つ目の事例は海外のGoogle Pixelの広告キャンペーンです。スポーツコンテンツをローンチする際の広告を、スポーツ系ポッドキャストに出稿しています。聴いている人はスポーツが好きな人ですから、コンテンツとの親和性があり、聴いた広告はノイズと感じられず、価値ある情報として受け止められます。ここが大きなポイントです。
 次の事例は、朝日新聞ポッドキャストの番組「ニュースの現場から」に出稿された岩波書店の雑誌『世界』の音声広告です。これも複雑化する現代社会を読みとく「ポッドキャスト番組」と「雑誌『世界』」という文脈が一致するように意識したクリエイティブにすることで、リスナーが自然に聴けて共感できるようになっています。

 3つ目の事例は、森ビルの六本木ヒルズ開業20年についてのスポンサードコーナーです。本コーナーは、再開発が続く東京について考える報道エピソードの後半に挿入。その報道コンテンツから連なる文脈の中で、森ビルの「都市を創り、都市を育む」というメッセージを語ることで、企業と生活者が共に紡ぐ現在進行形のナラティブを生み出しました。

※スポンサードコーナーは26分10秒から開始

 これらの事例から分かるように、番組コンテンツと広告コンテンツの文脈を意識することで、リスナーに刺さるナラティブを届けることが出来るのがポッドキャスト広告の長所と言えると思います。
これから日本でも増加していくと考えられているポッドキャスト広告。コンテンツを提供する新聞社として、どうすれば文脈にあったクリエイティブになるのかをともに考え、提案できるよう、取り組みを強化していきたいと考えています。

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朝日新聞ポッドキャストメディアガイド

朝日新聞ポッドキャストの番組紹介やメディアデータの他、広告視聴態度やポッドキャストの国内利用実態調査レポートを含む72ページに及ぶ資料集です。

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中島晋也(なかじま・しんや)

朝日新聞社 メディア事業本部 プランニング3部 朝日新聞ポッドキャスト プランナー


2004年入社。東京本社と西部本社の広告局で広告営業を担当後、メディアラボで新規事業に取り組む。2018年から合成音声によるニュースサービス「朝日新聞アルキキ」の事業責任者に。朝ポキでは、2020年の立ち上げ検討当初から関わり、現在までビジネス面(マネタイズとマーケティング)の責任者を担う。