「一般公募の部」の応募総数は1117点。候補作品が30点余りに絞られた段階で中間講評を実施。各審査委員から注目した作品への感想や推薦理由が述べられた。上位の決定においては、「こなれて安定した作品よりも新しさがある作品を最高賞にすべき」「新しさがあっても、難解すぎる作品を最高賞にしてよいものか」などと、審査委員の意見がまっ二つに分かれ、議論が白熱した。その結果、KADOKAWAの課題を扱った作品が最高賞に輝いた。
朝日広告賞
KADOKAWA 「角川文庫」
時田侑季
「何がいいとはっきり言えないのだが、目を留めてしまう」(前田知巳氏)
「深読みさせることが応募者の意図だろう。だが、実際この広告が新聞に掲載されたときに、果たして読者が深読みしてくれるだろうかという気もする。審査委員でなかったら素通りする表現かもしれない」(タナカノリユキ氏)
「『わからない』という強さが相当あって、ひきつけられる」(上田義彦氏)
「パッと見たときにかなり引っかかって、何かすごくザワザワした。理屈はわからないが、ほかの作品と並べて見たときに、一つ抜けているなと思った。“ザワザワ”の正体を突き詰めると、おそらく写真の不可思議さで、目に見えること以外の何かがあると感じさせる。審査委員たちも、写っていないことを探そうとした。この写真の不可思議さが、自分を日常とは違う世界に連れて行ってくれるという『本を読む』行為にどこかつながっていて、KADOKAWAの広告として成り立っていると思う」(児島氏)
準朝日広告賞
キッコーマン 企業広告「おいしい記憶をつくりたい。」
増田光宏、タルボット才門、平田正和、服部伸崇、水澤覚之介、太田幾織
「ビジュアルが秀逸。世界的に認められているしょうゆビンのデザインの美しさが訴求できている。デザインが『記憶』という課題に沿って機能していると思う」(佐藤氏)
「栄久庵憲司さんがデザインしたしょうゆビンが、化粧ビンと並んでも堂々としていて、かついい違和感が出ていてすばらしい」(浅葉克己氏)
「パッと見た時の印象が美しく、キッコーマンの企業広告として機能している」(副田高行氏)
「化粧ビンとしょうゆビンを一緒に見せるということは、食品が薬品っぽく見えてしまうので、実際の広告ではやれないだろう。そこを堂々とやっているところがいい。男の人は、しょうゆの焦げた匂いなどが大好き。『男をつかむ香り。』というコピーが化粧品ではなくちゃんとしょうゆに落ちている」(児島氏)
はとバス 「はとバス」
上原恵太、谷川瑛一
「『HATOBUS』と『親孝行してますか?』というシンプルな組み合わせは見た印象としてとてもスピード感がある。デザインとしてもなかなかいい」(葛西薫氏)
「好きだった作品のひとつ。ただ、『親孝行してますか?』というコピーは少し安易に感じた」(佐藤氏)
「実際に新聞に載ったらとても目立つと思う。はとバスのブランディングをしながらマーケティングもしている。自分は『親孝行してますか?』というコピーはいいと思った。母の日などに掲載したら、効果がありそう」(児島氏)
えひめ飲料 ロングセラー商品「ポンジュース」
萩原陽平、井上みすず、中山 大
「見ていると、ぽんジュースを飲みたくなる」(川口清勝氏)
「イラストレーションが印象に残った」(タナカ氏)
「思いつきそうで、何で思いつかなかったんだろう……と感じさせる。見ていてうれしくなる、とても気持ちのいい表現。つい触りたくなるほどイラストレーションの精度が高い」(葛西氏)
梶祐輔記念賞
新潮社 「新潮文庫」
鈴木純平、majocco
「全国の書店員が自分の店にポスター代わりに貼ったら効果がありそう」(小山氏)
「コピーとイラストの関係が絶妙で、気持ちにグッとくる。女性の折れた薬指、触れていそうで触れていなさそうな二つの手、そうしたイラストの雰囲気に、文学や文章に漂う時間のようなものを感じさせる」(タナカ氏)
「何か昭和の匂いがする絵の雰囲気が独特で、目に留まった作品」(葛西氏)
「『好きと言えたら、文学なんていらない。』というコピーは王道だが、不思議な雰囲気の絵と合わさることでいい作品に仕上がっている」(副田氏)
入選
新潮社 「新潮文庫」
鈴木純平、majocco
「食器が変わると和食が洋食に見えるということは確かにあるだろう。お皿と食の価値観の変化をうまく表現している。視点はシンプルだが奥行きを感じる」(タナカ氏)
「ノリタケのショールームに貼ったらよさそうなビジュアル。ポスター的だが朝日新聞に掲載されたら企業が誇りを感じられるだろう」(小山氏)
「商品の良さや食事の楽しさを伝えている。細かいところまで神経が行き届いている」(葛西氏)
「ある種の実証広告。レベルの高い玄人技の表現だが、昔からある手法なので、ビックリはしなかった」(川口氏)
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告」
永松りょうこ、山口 舞、古川泰子
「トンボ鉛筆の課題を扱った作品は例年数が寄せられるので、よほどの表現でないと驚かなくなっている。香りに着目したこの作品は目新しかった。鉛筆独特の香りは、誰もがかいだことのある記憶。『畳』『田んぼ』『線香』などの香りと一緒に並べてあることで、『文明的に忘れ去られてしまいそうなものたち』という深い見方ができて、いい作品だと思った(前田知巳氏)
「紙媒体である新聞に、鉛筆や紙の香りを持ち込むことで、『想起させること』に成功している」(タナカ氏)
ハインツ日本 「ハインツ トマトケチャップ」
佐藤正人
「ハインツの味、おいしさ、ケチャップをつけて食べたいという気持ちをシズル感たっぷりに表現している」(タナカ氏)
ハインツ日本 「ハインツ トマトケチャップ」
江畑 潤、樋口舞子、中島順子、佐野夏記
「これからの時代の新聞広告は、商品を売るためというより、企業の誇りや記念のために額に入れて取っておけるような表現が適していると思う。この作品は役員室にアートとして飾ってもよさそう」(小山氏)
「絵がすばらしく、初見のインパクトが大きかった」(葛西氏)
新潮社 「新潮文庫」
田中圭一、吉村 亮
「『執筆期間12年9ヶ月 定価391円』というコピーが、“おトク感”や、創作の効率は悪いけれど読む価値がある、ということをうまく伝えている。テレビやネットではできない、新聞にしかできないコミュニケーションだと思った」(佐藤氏)
「コピーがいい」(川口氏)
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告 」
モリタクマ、富田美紀子
「この広告を見てトンボ鉛筆を買うかについては疑問だが、朝日新聞に30段で展開することで企業の誇りになると思う。この作品も役員室に飾るとよさそう」(小山氏)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ
「TSUTAYA」動画・音楽レンタルサービスの利用促進
窪田浩紀、宇良貴志
「TSUTAYA」動画・音楽レンタルサービスの利用促進
「映画タイトルのオリジナルロゴを使っていることが、作品の魅力を上げている。映画それぞれのシズルが感じられる上、タイプの違う映画を組み合わせたことで面白さが増している。小型広告のアイデアっぽいが、15段でやることで強さが出ると思う」(児島氏)
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告 」
大久保里美、松實良知、鈴木孝彰、黒田輝海、吉崎千佐子
「鉛筆に添えられた言葉を、つい一つひとつチェックした。鉛筆と持ち主の関係性がうかがえ、“トンボ採集”が、“人間採集”にもなっている。ただ、『ムシャクシャトンボ』『タイセツトンボ』などは良かったが、『イチネンセイトンボ』『ミンナのトンボ』などはわりと普通で、全部が個性的な“人間採集”になっていたらもっと良かった」(児島氏)
ハインツ日本 「ハインツ トマトケチャップ」
清水龍之介、葛西亜理沙
「ポップアートの巨匠・ロイ・リキテンスタインの作品をモチーフにする感覚はなかなかすごい。赤い網点は、よく見るとケチャップ。この広告が実際に掲載されたらある意味時代を変えるのではないかと思う」(浅葉氏)
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告」
豊田丈典、橋本 暦<
「素朴なタッチでコピーを書いたことで、コピーが生きた」(前田氏)
「『神様がフリーハンドで描いたから、世界は面白くなった』というコピーはいいが、“フリーハンド”を表現した絵がもう一歩」(浅葉氏)
小型広告賞
高橋酒造
「日本を代表する素材「米」を原料とした「しろ」の魅力を表現する」
姉崎真歩、遠藤生萌
「日本を代表する素材「米」を原料とした「しろ」の魅力を表現する」
カルチュア・コンビニエンス・クラブ
「TSUTAYA」動画・音楽レンタルサービスの利用促進
野中優介、橋本祥平、山本絵理香、加藤直人、篠崎舞子
「TSUTAYA」動画・音楽レンタルサービスの利用促進
審査委員賞(イラストレーション賞)
丸美屋食品工業 「のりたま」
北山和徳
資生堂 「HAKUメラノフォーカスCR」
白川温未
「朝日広告賞は新人クリエーターの登竜門的な意味合いがあると思うが、『とはいえ、この表現を出稿した結果、売れるか』という視点を持って審査した」(佐藤尚之氏)
「新聞広告を、『企業が誇りを持てる装置』と位置づけて審査した」(小山薫堂氏)
「次回応募する人たちが、『こういう考え方もアリなんだ』と思えるような、いい呼び水になるような表現に票を投じたい」(児島令子氏)
など、多様な意見が上がった。
「例年、プロにはできない大胆さや斬新さ、実際の広告ではできない表現のジャンプ力などを審査基準にしているが、今年はそれに該当するものがあまりなく、イラスト表現に少し見られた程度だった」(タナカ氏)
「飛び抜けた秀作はなかったが、イラストの力作やコピーの力作など、部分的にいいなと感じられるものがあった」(葛西氏)
「今年は昨年に比べてコピーに優れた作品が上位に残った印象。次回の応募者に『新しい表現の提示』を求めているが、どこか常軌を逸したものや、ブラックなものでないと、なかなかその域に飛べないのかなと、ここ数年の審査を通して感じている」(川口氏)
「最高賞の作品は、審査委員全員が気になって、これをどう評価したらいいだろうとかなり長く議論した。『気になって仕方がない作品』ということでは新しさがあったのではないか」(副田氏)
といった意見が聞かれた。