第62回(2013年度)朝日広告賞 一般公募の部

 「一般公募の部」の応募総数は1,111点。候補作品が30点あまりに絞られた段階で中間講評を実施。各審査委員から注目した作品への感想や推薦理由が述べられた。上位作品の決定においては審査委員の意見が分かれ、白熱した議論が繰り広げられた。

※画像は拡大します。

【朝日広告賞】

出光興産〈ニッポンに、エネルギーを。〉江口昌宏

「『日の丸』の丸の部分がよく見ると紙風船で、その素材感から風や森林といったイメージが湧いてくる。自然エネルギーのメタファーになっていると感じた」(タナカノリユキ氏)
「ビジュアルからいろんなことを考えさせられ、長く見ていられる」(葛西薫氏)
「2020年の東京五輪のマークにしてもいいのでは……」(浅葉克己氏)
「表現としてはいいと思うが、出光興産の活動とリンクしているかどうかという点については少し引っかかった」(川口清勝氏)

【準朝日広告賞】

資生堂〈HAKUメラノフォーカスCR〉 清水龍之介、根本悠生

「実際の化粧品の広告では作らない、作れない、あり得ない表現。だから評価しにくかったが、評価しにくいことに新しさやエネルギーも感じた」(児島令子氏)
「少々乱暴に見えるが、枠を壊そうとしている印象はある。説明を省いたところに作り手の意思を感じた」(佐藤尚之氏)
「資生堂は絶対にこういう広告は作らないだろう。一般公募の部から『こんな表現もありなのではないか』と示してみるのは面白い」(副田高行氏)
「応募作品の中でいちばん『とんがっている』感じがした。実際の広告にしたら物議をかもしそうだが、じっと見ているとなかなか深いものがある」(浅葉氏)

旭化成〈サランラップ〉工藤尚弥、谷本潤哉、瀬知エリカ

「記事の中にこのビジュアルを見つけたら引きつけられると思う。作り手の気持ちが伝わってくる。丁寧に仕上げているところに好感を持った」(森本千絵氏)
「イラストにもコピーにもユーモアがある」(小山薫堂氏)

大日本除虫菊の課題〈キンチョール〉藤崎周子、由井正太

「キンチョールという商品は、5段くらいのスペースがちょうどいい。スリッパとハエたたきと新聞という3大ライバルに対して商品が『こういう下品なやり方はやめましょう』と言っているよう」(佐々木宏氏)
「キンチョールの課題を扱った作品はたくさん見てきたが、この作品はとても品がよくて新鮮だった。自分は発想できないアイデア」(森本氏)
「ハエたたきやスリッパが虫退治に活躍していた時代が懐かしく思い出される。ネガティブなアプローチだが、久しぶりにこういうとぼけた表現を見てかわいらしいなと思った」(葛西氏)

【梶祐輔記念賞】

出版共通課題〈読書のかたち〉守谷直紀

「アニメ、ドラマ、映画といった世の中のコンテンツと比較して『出版とは何だろう』と考え、自分ごととして感情移入できる読書の魅力をシンプルに伝えている」(児島氏)
「この表現をもしウェブで展開したらつまらないだろう。しかし新聞で展開したら心に届くと思う」(佐藤尚之氏)

【入選】

旭化成〈サランラップ〉竹内一峰、島村朋子

「写真を見てサランラップを使いたいと思った。サランラップに針が刺さった拍子にワインがこぼれて画面がワイン色に染まっていく……というような見せ方をウェブ上でやっても面白そう」(小山氏)
「応募作品のなかで特に気に入った1点。シズル感がある」(佐々木氏)

カメヤマ〈ローソクの炎から発せられるメッセージを表現してください〉北川秀彦、三宅幸代

「ろうそくをともす行為は故人に対して『祈る』という意味合いがあると思うが、その習慣をケータイにからめたアイデアに好感。デザインはもう一歩。全30段の必然性はなく小型広告でもよかった」(佐々木氏)
「悲しくも、いい話」(葛西氏)

シャボン玉石けん〈無添加に切り替えて40周年を活用した企業広告〉5点シリーズ 関戸貴美子、銭谷 侑

「キャッチコピーはないが、子どもが触るものにたくさんの菌がついているということが一見してわかる。せっけんの広告というと手や泡から発想するものが多い中、新しさを感じた。『手を洗いましょう』という標語よりもよほど効果がある気がする」(児島氏)

「紙面に新聞の裏写りが出たら面白そう。文字がぎっしり詰まった新聞をめくってこのビジュアルに出合ったら、子どもと一緒に見たくなると思う」(森本氏)

パナソニック〈携帯用おしり洗浄機「ハンディトワレ・スリム」〉3点シリーズ 阿部 至

「ウェブで展開したらつまらない企画だが、新聞の大きさで展開したら面白いし新しい」(佐藤尚之氏)
「快適さの訴求ではなく『ないと困る』ということをユーモラスに表現していて共感もできる。今の世の中の気分をよく表している」(児島氏)

「3点シリーズでなく1点でもよかったと思う」(佐々木氏)

旭化成〈サランラップ〉5点シリーズ 上田太規、堀 崇将

「野菜の包装にお使いくださいといったん一歩引いてから、『でもきんぴらになったらサランラップ』などとアピールを忘れない、その落とし方がうまいと思った」(小山氏)

「実際に展開されたら読者が喜ぶと思う。30段活用など現実味がないところも含めて大胆さを感じる」(タナカ氏)

ユースキン製薬〈企業広告〉3点シリーズ 工藤大貴

「手のひらで乾いた砂漠をうまく表現していて、写真がすばらしい」(上田氏)
「アイデアがあり写真も秀逸」(タナカ氏)

サントリーホールディングス〈ペプシNEX ZERO〉3点シリーズ 間垣晋司、塚越友弘

「ペプシの色に目をつけたところがいい。リアリティーのない3点シリーズや全30段広告は好きではないが、この作品は3点あるから楽しく、見ていてワクワクした」(佐々木氏)
「コピーはなくてもよかったかも」(佐藤尚之氏)

大関〈いつの時代にも愛されるワンカップ〉2点シリーズ 岩下安博、大澤裕史、武藤貴俊、石原誠也、新見和美

「新しい感じはしないが、ほのぼのとしていてよかった」(児島氏)
「ワンカップに人のたたずまいが感じられて、商品の世界観もよく出ていた」(タナカ氏)

トンボ鉛筆〈TOMBOW文具のブランド広告〉 江波戸李生、森 悠哉

「デザインがきれい」(浅葉氏)

トンボ鉛筆〈TOMBOW文具のブランド広告〉3点シリーズ 竹之内洋平

「全10段というスペースがちょうどいい。思わず動物の柄を描き入れたくなる」(葛西氏)

【小型広告賞】

カメヤマ〈ローソクの炎から発せられるメッセージを表現してください〉5点シリーズ 雨海祐介、露木卓也

トンボ鉛筆〈TOMBOW文具のブランド広告〉15点シリーズ 佐藤茉央里、門井 舜

【審査委員賞(イラストレーション賞)】

旭化成〈サランラップ〉 坂本 航、林 佳明

◎ 審査のポイントについては、

  • 「技術的な完成度よりも、着眼点の良さや新規性を重視した」(川口氏)
  • 「世の中や時代を踏まえた上で課題をどう自分の視点で解釈し表現したかということに注目した」(児島氏)
  • 「広告を出す側の視点と、自分自身が『この表現を見て買うかな』という視点で選んだ」(小山氏)
  • 「ウェブでもできる表現は評価の対象にしなかった。また、紙面をカメラで撮影してソーシャルメディアでシェアしたくなるかどうか、ということに基準を置いた」(佐藤尚之氏)

といったことが語られた。また、審査の感想については、

  • 「今年の応募作品は粒ぞろいだった反面、レベルが同等で『これぞ』という作品が見つからず、選ぶのが難しかった」(葛西氏)
  • 「朝日広告賞は審査委員同士の意見交換が活発なので、自分と全く違う評価をしている審査委員の話を聞くと視界が広がる。特に今年は上位の絞り込みに際してとても有意義な議論ができたと思う」(副田氏)

といった意見が聞かれた。

侃々諤々、議論を尽くす

葛西 薫氏

 審査が大詰めに近づくと、全審査委員がそれぞれ注目した作品を挙げ、その理由を述べる。さらに何度かの投票を重ねて上位入賞作が決まる。そこからグランプリ1点の選出となるとガラッと意識が変わる。その投票の結果、出光興産と資生堂とで票が二つに割れた。

 出光の「ニッポンに、エネルギーを。」は赤一色の端正な画面。アポロンがフーッと息で紙風船を宙に浮かせ、それが日の丸にも見えてくる、静かで不思議な広告だ。資生堂の美白を題材にした作品は、子どもが描いたと思われるお母さんの白い顔の絵に「怒っても白いママ。」のコピーで笑わせる。このまったく対照的な作品を前に、侃々諤々(かんかんがくがく)、熱い議論となった。「出光は、混迷している今の日本のエネルギーの未来について、見る者に様々なことを思わせる。完成度も高い」「いや、グランプリに求められるのは、多少粗削りでも新鮮で大胆な提案だ。資生堂はこれまでの化粧品広告にはなかった表現。目を留めさせる力がある」「目立つことが目的ではない。長く見させるのはこちらだ」と意見が対立。完成度か型破りか・・・ 最終投票の結果、わずか1票の差で出光が勝(まさ)った。

 新聞広告は今のままでいいのか、変わらなくては、という審査委員各人の悩みと情熱が存分にぶつかりあい、僅差(きんさ)でありながら爽快な決定だった。この2作に続いて準朝日広告賞となった、サランラップの「新鮮事件。」と名付けた独特な空想世界、キンチョールのささやかなユーモア、梶祐輔記念賞となった出版共通課題の「アニメ化、ドラマ化、映画化、オレ化。」などなど、入選作にたくさんの個性が並び、来年につながると確信した。

(アートディレクター 葛西 薫氏)