個性的な力作が並んだ第62回(2013年度)朝日広告賞「一般公募の部」。審査委員のタナカノリユキ氏に、上位作品の感想や、審査に携わった印象、これから応募しようというクリエーターへのメッセージなどを聞いた。
新しい時代への深い洞察が感じられたグランプリ作品
──一般公募の部の審査に際しての、独自の審査基準について聞かせてください。
実際に世に出る広告には、マーケティング効果の明確化が求められ、その傾向はますます顕著になっています。だからこそ、そうした制約がない一般公募の部では、現実の広告ではできそうにないなと思っても、アイデアや表現のユニークさ、大胆さ、クリエーティブ、メッセージのスケールの大きさが際立っていれば票を投じています。
──グランプリに選ばれた作品について。
日の丸の中心がよく見ると紙風船で、出光興産の企業ロゴ「アポロマーク」がそれをフーッと息で持ち上げているビジュアルは、いろんなことを想像させ、余韻を残します。石油から出発した同社が風力など自然エネルギーにも視野を広げて日本の未来に貢献している……。そんな風にも考えられ、新しい時代への深い洞察が感じられました。見ている滞留時間が長かった作品です。視覚言語としてグローバルに通用する可能性も感じました。
審査会では、企業のスローガンをそのまま使ったコピーに賛否両論ありましたが、自分はマイナスのイメージを持ちませんでした。例えばナイキが長年使っている「JUST DO IT」というキャッチフレーズは、企業活動の広がりとともにいろんな意味を含む言葉へと進化しています。この作品もそういう捉え方ができるのではないかと思いました。
──準朝日広告賞の3作品について。
資生堂の課題を扱った作品は、最後までグランプリと票を競いました。「この表現を認める化粧品会社は果たしてあるだろうか」ということも含めて審査委員たちの目に新鮮に映りました。「怒っても白いママ。」というコピーとインパクトのあるイラストによって母親の色の白さ、ひいては美白化粧品の効果を表現するアイデアはよかったと思います。ただ、みずみずしい白さ、透明感のある白さなど、生身の人間が醸す美しさがいまひとつ感じられないのが残念でした。ある会社の美白化粧品による「白班問題」がなお社会的関心事である中、単なる「白さ」ではない何かがほしかったです。美白の本質をもう少し深めたり、子どもの目線の中に愛情が感じられたりすれば、さらに評価が高まったと思います。
旭化成の課題を扱った作品は、よく見るとグロテスクでシュールなシーンですが、日本画に見られる構図、色彩、質感が、絵の「毒っぽさ」をちょうどいい具合に薄めていて、面白く眺めることができました。サランラップの特性も表現できていたと思います。
大日本除虫菊の課題を扱った作品は、表現と全5段のスペースがよく合っていました。また、一見、ゆるくてダサい感じを保ちつつ、スリッパの色彩とキンチョールのスプレー缶の色相を合わせるなど、さりげなくビジュアルのクオリティーを上げているところに作者の配慮を感じました。思わずクスッと笑ってしまう愛すべき作品でしたが、スケール感や大胆さという点では物足りなさを感じました。
バラエティーに富む入選作品
──その他、気になった作品について。
梶祐輔賞に輝いた出版共通課題を扱った作品は、この賞にふさわしくコピーがすばらしかったです。視覚言語としても成り立っていると思います。
同じく入選でカメヤマの課題を扱った作品は、ろうそくをともして故人を思う気持ちが電波(話)以上にしみじみと伝わってきました。コピーとビジュアルがよく合っていて、とても好感を持ちました。
旭化成の課題を扱った作品は、紙面を大胆に使う、一般公募の部でしかなかなかできないユニークな提案です。もし現実に出稿されたら、企業の“余裕”を感じたでしょう。読者の生活や気持ちに寄り添うアイデアでした。
ユーススキン製薬の課題を扱った作品は、表現にアイデアがあり、写真が秀逸でした。
サントリーホールディングスの課題を扱った作品は、日常の風景とペプシのブランドカラーを結びつけた発想が面白かったと思います。ただ、コピーとビジュアルにズレを感じたのと、あえてドレスダウンした面白さを狙うなら、もっと笑えるシーンをチョイスするなど、イメージの広がるような写真だったらよかったと思います。
大関の課題を扱った作品は、封を切ったワンカップに人のたたずまいが感じられ、商品の世界観もよく出ていました。
一般公募の部 入選
イラスト表現をはじめ、個性的な作品がそろった年
──全体の印象について聞かせてください。
イラスト表現がたくさんあり、秀作も多かったです。準朝日広告賞を獲得した作品など、もし実際に出稿されたら、新聞の紙の質感とあいまって、ウェブでは再現できない味わいが出たと思います。現実の広告ではイラスト表現はあまり見られなくなっていますが、手描きの痕跡が残る表現はやはりいいものだなと思いました。
全体的には、個性的でクオリティーの高い作品が集まり、バラエティーに富んでいました。その一方で、圧倒的に票が集まる作品がなく、審査は難航しました。難航した分、上位の絞り込みに際しては、審査委員の中で有意義な議論ができたと思います。
──これから賞に応募しようと考えている若いクリエーターにメッセージをお願いします。
「こんなこと新聞でやっていいの?」というくらいの表現に挑戦してほしいと思います。ただ、それが単なる思いつきのアイデアだけだと、インパクトだけで終わってしまいます。大胆な発想に加えて重要なのは、扱うテーマに対する深い洞察です。新聞ならではの社会性やメッセージ性も大切だと思います。既成概念を覆すようなクリエーティブジャンプ(創造的な飛躍)を待っています。
クリエーティブディレクタ−/アートディレクター/映像ディレクター
1985年東京藝術大学院美術研究科修了。アートやデザインといった枠組みを越え、ビジュアルコミュニケーションデザインに関わる領域で幅広く活躍。自身のアートワークと共にMUSIC VIDEO、CMの演出、広告、CI、ブランディングのクリエーティブディレクターとして国際的に活動している。2007年までユニクロのクリエーティブディレクター。時代を牽引したクリエーティブで、ブランドを確立させ、ユニクロの急成長、発展に貢献。 最近の仕事に、XPERIA、資生堂などのクリエーティブディレクションがある。アジアンパシフィック広告賞金賞、東京ADC賞ほか受賞多数。主な著書に「タナカノリユキの仕事と周辺」(六耀社)、「ggg Books」(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)、「100+1 ERIKAS」(朝日出版社)、「サバイバル・マインド」(筑摩書房)など。