第62回(2013年度)朝日広告賞「広告主参加の部」は、JVCケンウッド・ビクターエンターテインメントによる、歌手・髙橋真梨子のレコードデビュー40周年記念アルバム「髙橋40年」のシリーズ広告がグランプリに輝いた。審査委員を務めた副田高行氏に、審査会の印象や上位作品について感想を聞いた。
「髙橋真梨子は、ウイスキーである。」というコピーが光った
──歌手の髙橋真梨子さんのレコードデビュー40周年を記念したベストアルバム「髙橋40年」の発売を告知した広告がグランプリを獲得しました。
審査途中の講評でも好意的な意見が相次ぎ、票が集まりました。音楽アルバムの広告というと、発売日を目立たせるだけのものが多い中、この広告はとてもしゃれていました。高級ウイスキーかと思わせる「髙橋40年」というアルバム名、山崎ナオコーラさんの小説、「何の広告だろう?」と目を留めさせるビジュアルが見事にかみ合っていました。何といっても「髙橋真梨子は、ウイスキーである。」というコピーが秀逸でした。円熟したベテラン歌手をうまく表現しているし、その余裕がこういう表現を選んだのかもしれませんね。
広告主の部 朝日広告賞 グランプリ JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント 全7点シリーズ
2013年5月29日付 夕刊 (全2段×5回シリーズより抜粋)
(6ページ)より抜粋
──準朝日広告賞のシャネルの広告について。
ビジュアルの勝利、この一言に尽きます。講評ではあまりこの作品に触れた推薦の声はありませんでしたが、にもかかわらず堂々と準朝日広告賞を獲得。見るからに秀作で、あえて推薦の弁を述べるまでもなかったのでしょう。ただ、モデルたちのポーズが腕時計の針とシンクロしていることが一目ではわからず、審査会でも「じっくり眺めて初めて気がついた」という声が多かったです。それを差し引いても、見る者を引きつける広告でした。メジャーな企業が紙面をぜいたくに使った、こうしたいわゆる「王道」の広告が、新聞紙面をもっとにぎわせてほしいと思います。
──ノース・スターズ・ピクチャーズの広告について。
子どもの頃に『北斗の拳』を読んでいた、現在の働きざかりの新聞読者層に向けて「エラそうに新聞なんて読みやがって!!!」というコピーをぶつけたユーモアがさえていました。二連版・全30段を最大限に生かしたモノクロのビジュアルもインパクトがありました。今の時代は話題性のあることがツイッターなどソーシャルメディアを通じてあっという間に広がりますが、そうした効果もあったと思います。
──ヒガシマル醤油の広告について。
新聞らしい体裁、新聞小説らしくない余白の多さ、プッと吹き出してしまう短文の構成が絶妙でユニークでした。審査委員の応援演説も多かったです。小さいスペースでもアイデアのあるこうした広告が評価されたのを見て、地域の企業などが「よし、うちの会社も」と奮い立ってくれたらうれしいですね。
2013年10月15日付 ヒガシマル醤油(全1段×3回シリーズより抜粋)
多様性のある表現が見られた部門賞
──部門賞の中で印象的だった広告についても聞かせてください。
は、パパスの服を愛用していた俳優の三國連太郎さんが亡くなった折に「ありがとうございました、三國さん」とメッセージを打ち出しました。生き残りの厳しいファッション界でブランドイメージを維持するのは容易じゃありません。パパスは商品においても広告においても流行に左右されない姿勢を貫き、ブランドイメージを維持しているところがすばらしい。ブランドを愛用してくれた人へのやさしい目線に共感しました。
は、全1段というスペースをこのように有効に使えるんだという手本を見せてくれました。蚊取り線香が活躍する夏の風物詩が横長のスペースに効果的に展開されていました。
は、ビジュアルとコピーが非常によくマッチしていて、久方ぶりの王道表現。一読者として紙面を開いた時に引き込まれたのを覚えています。
はビジュアルがチャーミングでした。また、「子どものようにワクワクした気持ちで車を楽しもう」というメッセージの中に、「若者のクルマ離れ」と言われる現代にムーブメントを起こしたいという意気込みも感じられました。
は、派手さはありませんが、大学の「品質」を実直に伝え続けているところに好感を持ちました。この他、、、、などが心に残りました。
表現力を追求した良い広告が増えてきた
──今年初めて広告主参加の部の審査を担当しましたが、審査会はどのような様子だったのでしょう。
朝日広告賞は、審査委員のディスカッションが活発なところがいいなと思います。今年は、僕も含めて現役の広告クリエーター数名が、広告主参加と一般公募の2部門とも審査に加わりました。上位作品を見て、昨年までとは少し趣が変わったと思われるかもしれません。どちらかといえば、今年は玄人好みの広告が評価されました。「粋な」「小技がきいた」といった形容がふさわしい広告です。グランプリの広告や、準朝日広告賞のヒガシマル醤油の広告などは、その最たるものではなかったかと思います。
──今回の作品の特徴や傾向について、何か感じたことはありますか。
広告の基本は、コピーとデザインの調和です。今回は、いいコピーといいデザインがうまく調和した広告が多かったと思います。
僕は朝日広告賞の一般公募の部でグランプリを受賞したことをきっかけに、広告の世界でキャリアを積むチャンスに恵まれました。ですから朝日広告賞には特別な思い入れがあります。審査を通して「本当に価値のある広告とは」ということを世に示したいし、その責任を感じています。
読者は、新聞のページを開いてその広告が自分にとってベネフィット(利益)がある内容かどうかを一瞬で選別するそうです。ほんのコンマ何秒かで、よく読むべきか、次のページに移るかを判断する。そんな瞬間の勝負だからこそ、表現の力が問われるわけです。どんなにいい商品、いい企業でも、表現力がなければ人々の心に価値を届けることはできません。今回、その自覚をもって表現を追求している企業が増えている印象を持ちました。新聞広告は、企業の元気や意識の高さをはかるリトマス試験紙。明るい兆しが感じられた審査会でした。
アートディレクター / 副田デザイン製作所主宰
1950年福岡県生まれ、東京育ち。東京都立工芸高校デザイン科卒。スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、現在副田デザイン制作所主宰。東京ADC会員。JAGDA会員。2008年度から朝日広告賞審査委員。主な仕事は、サントリー「ナマ樽」「モルツ」、ANA「ニューヨークへ行こう」、トヨタ「エコ・プロジェクト」「REBORN」キャンペーン、シャープ「アクオス」など。76年朝日広告賞。81年・83年・84年東京ADC賞。84年TCC特別賞。85年毎日広告デザイン賞。87年読売広告大賞。88年フジサンケイグループ広告大賞制作者賞。98年日経広告賞。2006年日本宣伝賞山名賞ほか受賞多数。著書『副田高行の仕事と周辺』(六耀社)。作品集『SOEDA DESIGN FACTORY THEREAFTER』。