第61回 朝日広告賞 一般公募の部

「一般公募の部」の応募総数は約1,200点。厳正な審査を重ねた末、候補作品は34点に絞られた。これらを当ウェブサイトで5日間公開。その後、最終審査を実施、受賞作品が決定した。

[朝日広告賞]

画像は拡大表示します。 大日本除虫菊による課題

大日本除虫菊
〈金鳥の渦巻(うずまき)〉
土屋 誠、春原伸也、佐野円香、太田青里

 「コピーにある“美容”という着眼点に共感できた。ただ、『美容の会社かもしれない』ではなく、『美容の会社です』と言い切ってほしかった。そうすれば、生々しい女性の写真が生きたかなと思う」(原研哉氏)

 「面白い表現が許される感じがする広告主なので、その範囲内でこういう表現は、いいと思った。テレビである女優さんが、『最近不愉快なこと』として『1年前にヤブ蚊に刺された跡がまだ取れない』と言っているのを見たばかりだったので、なおさらいいと思った」(佐々木宏氏)

 「キンチョーの課題には、毎年多くの力作が寄せられるが、そのほとんどが、『虫を殺す』『渦巻き』といったことを、いかに言い換えるかで勝負している。でもこの作品は、『若い人に訴求したい』というキンチョーのマーケティング的な意図をくんで作っている気がする。蚊取り線香が美容商品であるという切り口は、大日本除虫菊の社長さんが見たら『そうかもしれない』と、参考になることだし、私も蚊に刺されると跡が真っ赤に残ってしまう方なので、見た瞬間に『ああ、そうそう』と思った。キンチョーらしいビジュアルで表現しているところもいい。もし紙面に掲載されるとなったら、『下着姿だからダメ』という議論も出るかもしれないが、肌を守るということで必然性はあると思う」(児島令子氏)

 「自分は写真家なので、写真を意識して審査したが、これはすばらしいと思った。この生々しさは、なかなか撮れない。それでいて、あまり嫌悪感もなく見られる。広告的にもすばらしいと思う」(上田義彦氏)

 「応募作品の中でいちばんいいと思った。自分は、『美容の会社です』というよりも『美容の会社かもしれない』というコピーのほうが、目線が下がって伝わりやすいかなという気がした」(岡田直也氏)

[準朝日広告賞]

アストラゼネカ
〈医薬品企業が、がん治療において目指す姿を伝える〉
太田江理子

[準朝日広告賞]アストラゼネカによる課題 アストラゼネカによる課題

 「あまりこの会社のことを知らないでコピーを読んでいったら、ドキッとした。最後の『日本国民であり、赤の他人であり、がん患者である。』というコピーがいろいろなことを考えさせる。イラストレーションも秀逸で、単純化した切り絵のような絵が、コピーと非常に合っていた」(タナカノリユキ氏)

 「小さい字のコピーやロゴを画面の端に配して広告っぽく見せようとする作品がとても多い中、これはちゃんと人の気持ちをつかむような構えができていて、コピーを読んでいって最後にウワッと思った。絵と言葉とデザインがきちんと合っており、必要最小限で大きいことを言っている」(葛西薫氏)

 「マスクをして帽子を被っていることで、多分病気なんだということがわかる。暗くなりそうなストイックなテーマを、イラストがシンプルに伝えている。最後の『がん患者である』というコピーにドキッとさせられた」(佐々木氏)

 「コピーを読んで、気づきがある。今までは、がんになったら生きられないのが当然と思って治療する人が多かったと思うが、普通に生きたい、何かをしたいという希望に対して、アストラゼネカが応える企業広告になっている。アンジェリーナ・ジョリーががん予防のために乳腺を切除した後、『それでも私はすてきなドレスを着ているのよ』と言っている。そういう“今の時代のがん”ということも表現できている。ビジュアルがコピーに合っていて、抗がん剤で髪の毛が抜けてしまって帽子を被っていることを想起させつつ、悲しさを感じさせない強さがある」(児島氏)

新潮社
〈新潮文庫〉 3点シリーズ
新井奈生、柴谷麻以

新潮社による課題  新潮社による課題
「君のメロスは、ソース顔。僕のメロスは、しょうゆ顔。」

 「この作品が示す通り、小説から受けるイメージは見る人によって違い、それが文字のだいご味だったりする。文庫本の広告というと、“頭良さげ”に作ったり、格好をつけたりしがちだが、この作品は、文庫の本質を、居丈高になるわけでもなく上手に伝えている」(前田知巳氏)

 「人間の想像力を伝えるなら、もう少し表現の幅というか、イラストの違いがあったほうよかったのではないか。ただ、考え方やアプローチの仕方はよかったと思う」(タナカ氏)

 「読み手によって本の登場人物のイメージが変わるというのは、当たり前のことを言っているし、定番中の定番のような気もするが、表紙にいたずら書きをしてちゃかす感じや漫画っぽさが、文庫を読みたいという気持ちをくすぐると思う」(佐々木氏)

 「考え方に共感できた。ただ、タナカさんが言われたように、イラストのバリエーションがもう少し明確にあったほうがよかった」(児島氏)

出版共通課題
〈読書のかたち〉
大木陽平、小栗誠詞

出版共通課題「読む子も育つ」 出版共通課題 「読む子も育つ」

 「『寝る子は育つ』を『読む子も育つ』にしただけで、誰にでもわかる簡単なギミックだが、イラストレーションがとてもかわいくて好感が持てた。新聞には出版広告も多いので、こういうものが掲載されれば説得力があると思う」(佐々木氏)

 「『読む子も育つ』というただ一言で、『本っていいよね』と、日本中の人がわかると思う。イラストの色合いもいいし、寝ている子のポーズがみんな違っていたり、ひとり眠れなくて怒っている子がいたり、その中で一生懸命本を読んでいる子がいたり、細かい描写に愛を感じて、ほほ笑ましくて、大好きな作品だった」(児島氏)

[梶祐輔記念賞]

新潮社
〈新潮文庫〉 2点シリーズ
山形孝将、山本友理、伊藤裕平、宮下めぐみ、芦葉貴史

新潮社による課題「本のなかを検索しよう。」 新潮社による課題
「本のなかを検索しよう。」

 「『なんで、人生に必要ないことも勉強しなきゃいけないんですか』などのコピーはありがちだが、『本のなかを検索しよう。』という言葉は新鮮だった。ふつう検索というのはネット上のことで、『本のなか』に落とし込んでいるところに、言葉の技術としてなるほどと思わせるものがあった」(原氏)

 「デジタル端末で本を買ったり読んだりする人が増えている一方で、おしゃれな本屋でカッコいい人たちが紙の本を立ち読みしていたりする。本屋で本を探し、買うという行為は、デジタル検索とは違った喜びがあるが、それすらも若い人は『検索』と呼んでいるのではないかと感じて、秀逸なコピーだと思った」(佐々木氏)

[入選]

ヤマト運輸
〈宅急便〉 4点シリーズ
相馬翔、坂本奈緒、高下麻耶

ヤマト運輸による課題「想いを届ける宅急便。」 ヤマト運輸による課題
「想いを届ける宅急便。」

 「チャーミングで、見ていて気持ちよかった」(前田氏)

 「普通に広告として機能しそう。人の『思い』を届ける会社というイメージが伝われば、競合との違いも出ると思う」(佐々木氏)

 「たった5段だが、一目でクロネコヤマトらしさが感じられ、引き込まれた」(葛西氏)

大日本除虫菊
〈金鳥の渦巻〉
榎本弐輝、竹田佐和

大日本除虫菊による課題 大日本除虫菊による課題

 「写真の場所がアフリカかどこかわからないが、地域によっては蚊に刺されて死んでしまう人もいる。そういうことが伝わってくるし、表現の抜け具合も心に残った」(副田高行氏)

 「一行のコピーで広いところまで連れてってくれるような作品。ビジュアルとコピーの妙では“王道”という感じ。大日本除虫菊の応募作は多かったが、自分の中では一番評価が高かった」(タナカ氏)

 「途上国では、刺されたら死んでしまう蚊もいるそうなので、社会的な視点がいいと思った」(児島氏)

 「最初はわざとらしいかと思ったが、見ているうちに引き込まれて、大きいものを感じた」(葛西氏)

えひめ飲料
〈こんな時にはポンジュース〉 3点シリーズ
甘利真紀、赤星薫

えひめ飲料による課題 えひめ飲料による課題

 「若い人が書いた下手な詩を読まされているような……。そういう気恥ずかしさみたいなものが作品に生きている。コピーとイラストのタッチも合っていて、抜けのよさがある」(原氏)

 「全体のたたずまいがノスタルジックで、独特の気配を漂わせている」(前田氏)

 「ノスタルジックなものを感じさせてくれる。ぎこちない感じもよかった。実際に新聞に掲載されたら、紙質と絵のトーンが合うと思う。商品ビジュアルはないが、商品を想起させる」(タナカ氏)

小学館
〈小学一年生〉
新井奈生、柴谷麻以、森嶋夕貴、村上彰

小学館による課題 小学館による課題

 「パッと見て共感できる。ミニマムなところにこだわっているところがいい」(岡田直也氏)

 「自分なりの色に対する感覚というのは誰しも持っていると思う。そういうものを個性的に表し、小学生のイマジネーションや感受性にうまく重ねている。立ち止まらせ、見入らせる力を持っていた」(タナカ氏)

大日本除虫菊
〈金鳥の渦巻〉
椎名由依、新ヶ江明代

大日本除虫菊による課題 大日本除虫菊による課題

 「人間と蚊の闘いを『蚊系図』で表現しているが、蚊が死んでおしまいではなく、to be continued にしたところがよかった。よく見ると、細かいところにすごく凝っている。作る人が楽しんでいる印象を受けた。大量のボウフラが生まれているあたりの表現もかわいい。好感が持てた」(岡田氏)

 「金鳥の蚊取り線香と蚊の闘いの歴史がよく表現できていて、面白かった」(児島氏)

岩波書店
〈岩波書店創業百年〉 2点シリーズ
岡崎由佳

岩波書店による課題 岩波書店による課題

 「古くさいようで、今こういう世界観を見せられると、新鮮な気持ちになれる。昔、自分が子どもの頃に岩波書店の本について、『難しそうだな』と思いつつも、知らないところに連れて行ってくれるような気がしていた。そういう現実離れした、ちょっとSFっぽさも感じる世界観にひかれた」(葛西氏)

 「アニメーションのワンシーンのよう。見る側のイマジネーションがリンクすると、すごく感動的にも見える作品」(原氏)

カメヤマ
〈現代社会におけるローソク(キャンドル)の灯(あか)りの価値を説いてください〉 2点シリーズ
山田茜、増田総成、富取正明

カメヤマによる課題  カメヤマによる課題
「ぼくは消えます。君をちょっとオトナにして。」

 「ろうそくがしゃべっている感じがいいなと思った」(副田氏)

資生堂
〈アネッサ サンスクリーンシリーズ〉 2点シリーズ
竹上淳志、見市 沖、矢木重治

資生堂による課題 資生堂による課題

 「新聞広告がポスター化している中で、新聞ならではのスペースの取り方に挑戦している。実際に掲載されたら、いろんな記事の間で、ある種の清涼感や“気分”を伝えてくれるのではないか。記事のモノトーンと合うような写真のトーンになっているのもいい。商品写真はないが、商品を感じせる」(タナカ氏)

 「このスペース取りは実際にはできない。でも、インパクトが狙えるのであれば、朝日新聞社として紙面構成の可能性を検討していく必要がある。一般公募の部の目的は、既存の枠にとらわれない提案を若いクリエーターの皆さんにしていただくこと。問題提起という意味で面白い作品だった」(和氣靖)

新潮社
〈新潮文庫〉 8点シリーズ
植田麗子

新潮社による課題 新潮社による課題

 「書籍の広告はへりくつをこねがちだが、これはバーンとビジュアルでさわやかに訴えかけてくる力があった。従来の広告のコピーとビジュアルの関係ではないところを微妙に突いてきている感じがした」(原氏)

日本ハム
〈いのちの恵みを大切にする日本ハムを身近に感じてもらえる広告〉 3点シリーズ
上遠野茜、神永恵実

日本ハムによる課題 日本ハムによる課題
「アタマ使うと、ハラ減るなぁ。」

 「くだらないけれど、思わず吹いてしまう。今どきこういうノリの表現があってもいいかも。他の作品とはひと味違った作り方に好感が持てた」(前田氏)

[小型広告賞]

河合塾
〈「東大・京大・医学部合格をめざすなら、河合塾。」〉 30点シリーズ
松永美春、高田麦

河合塾による課題 河合塾による課題

 「シリーズとして見ていくとリアリティーがある。日常の風景にある数字を見てふっと歴史の年号を思い浮かべてしまうという、受験生の気持ちがよく出ていた」(タナカ氏)

トンボ鉛筆
〈TOMBOWのブランド広告〉 12点シリーズ
岩井彩、西村幸泰、みやべほの

トンボ鉛筆による課題 トンボ鉛筆による課題

 「鉛筆があると、こういうことをしそうだなと思う。鉛筆のシズル感もあるし、小さいスペースで貧乏くさくなく表現できている」(佐々木氏)

[審査委員賞]

[審査委員賞・写真賞]

大日本除虫菊
〈金鳥の渦巻〉
塩見勝義、小畑茜、古川泰子

大日本除虫菊による課題 大日本除虫菊による課題
「バカな蚊に、待ち伏せ効果。」

[審査委員賞・イラスト賞]

カメヤマ
〈現代社会におけるローソク(キャンドル)の灯りの価値を説いてください〉 3点シリーズ
久保田絵美、川崎紗奈

カメヤマによる課題 「もっと近く、を叶えたい。」 カメヤマによる課題
「もっと近く、を叶えたい。」

 「ローソクがともす小さな世界を、『もっと近く、を叶えたい。』というコピーで表現していて、そのビジョンの小ささみたいなところに意外とシズル感があった」(原氏)

[審査委員賞・コピー賞]

大日本除虫菊
〈金鳥の渦巻〉
重泉祐也、苅田哲平、いとうともひろ、森口敦史、ヨシダダイスケ

大日本除虫菊による課題 大日本除虫菊による課題

◎応募者への期待としては、
 「表現技術的な巧さ、例えば『笑点』のように『うまく言いました』というようなアイデアは、ある程度上位までいく。ただ、新聞広告は、『うまいね』だけでなく、広告を見る前と見た後で、ふっと気持ちが動いたり、何かに気づいたり、ということが大事だと思う」(児島氏)という意見があった。また、グランプリ作品が決定した後に、「朝日広告賞らしからぬ提案に最高賞を与えることができた」と喜ぶ声も聞かれた。

思いもよらず、がグランプリ。

副田高行氏 副田高行氏

 こまったな、と私は思った。毎年審査の過程で、これはと思う作品が浮上してくるのだが。今年は、これぞという作品が現れないのだ。朝日広告賞の審査は、賞候補が絞られたところで、各審査委員が推薦の弁を述べる。名前の五十音順の逆から、おのおの推薦を始めた。「そ」の私は、早めに順番がまわってきた。これぞという作品が見当たらないので、他の審査委員の弁を参考にしたい、と逃げた。情けない物言いだが、その時の正直な感想だった。しかしそんな中で、意外な作品が浮上してきたのだ。思いもよらず、といったら失礼かな。艶めかしい下着姿の女性の写真。顔も仕草もチャーミングで、上品ともいえないが下品でもない。このキンチョーの広告を強く推す人が多くいたのだ。キンチョーのそれまでの表現と、これは違った。「キンチョーは、美容の会社かもしれない」という新しいアプローチだった。グランプリではないな、と思っていた他の審査委員も私も、次第に傾倒していった。

 というわけで、今年は異色作がグランプリに輝いた。準朝日広告賞のアストラゼネカは、がんの時代を反映させた秀逸な作品。新潮文庫のいたずら描きによる表現は、文学を身近なものにした。出版共通課題は、かわいい絵と共に「読む子も育つ」というメッセージが評価された。入賞作品全般に、この国の広告表現に乏しい、ウイットに富むユーモラスな作品が並んだ。既存の広告表現が低迷する状況で、今年のグランプリの作品はおおいに刺激になるだろう。一般公募部門に望むこと。それはプロらしい上手な表現ではなく、日常の広告にどれだけインパクトを与えられるか、なのだから。

(アートディレクター 副田高行氏)