若きクリエーターの才能の発掘を目的とする朝日広告賞「一般公募の部」。60回の歴史で数々の著名クリエーターが輩出してきた。現在、同賞の審査委員を務めるアートディレクターの副田高行氏、コピーライターの前田知巳氏、アートディレクターの佐藤可士和氏に、近年の応募作品に対する感想や、応募者に期待すること、「一般公募の部」の在り方などについて、縦横無尽に語ってもらった。
受賞者にチャンスが増える賞であってほしい
副田高行氏(以下、副田) 最初に聞くけど、2人は「一般公募の部」に応募したことはあるの。
佐藤可士和氏(以下、佐藤) ありますけど、賞にかすりもしませんでした(笑)。
前田知巳氏(以下、前田) 僕もです(笑)。
副田 僕は1976年にグランプリをいただいたんだけれど、それが人生の転機になったと言っても大げさではないんです。業界誌で取り上げられた受賞作が仲畑貴志さんの目に留まったことをきっかけにサン・アドに入れたわけだから。
前田 葛西薫さんも、自分がサン・アドに入ったきっかけは「一般公募の部」で受賞したことが大きかったんじゃないか、とおっしゃっていました。
副田 今は、僕や葛西さんみたいな幸運はあるのかな。昨年度の「ルンバ」の作品や2009年度の「キヤノン」の作品などはすばらしかったけれど、受賞を機に受賞者がいい仕事をするチャンスが増えていたらいいなと思う。
前田 副田さんがグランプリを取ったのはいくつの時ですか。
副田 26歳。朝日広告賞は、他の広告賞と比べて社会性のある作品が評価されるイメージがあって、そういう新聞広告を作りたくて挑戦したんです。選んだ課題はカゴメのトマトジュース。当時、青果店に出回っていたトマトは、流通の都合で青いうちに収穫したものが多かったんだけど、カゴメのトマトジュースは完熟トマトを収穫して24時間以内に工場に移して搾るので、生のトマトよりも栄養価が高い。資料を調べたらそういうことがわかったので作品にしました。そのころ、環境問題や流通問題を扱った有吉佐和子さんの『複合汚染』という小説が朝日新聞で連載されていて、そういうことが世の中の関心事でもあったんです。実は、「真っ赤な真実。」というキャッチコピーも僕が作ったの。
前田 そうなんですか。受賞作の写真がここにありますが、副田さんみたいなテーマの見つけ方をしている応募者は、今は少ない気がします。
制作者は新聞広告の距離感や質感をよく知ること 新聞社はもっと魅力を高める努力を
副田 今は、ポスター的な作品が増えているよね。新聞広告というのは、デザインの力だけでなく、メッセージの力で訴えることができる媒体のはずだけど。
前田 副田さんは、若い頃から新聞を毎日読んでいたんですか?
副田 読んでいた。というか見ていた。それで、20歳のときに「男は黙ってサッポロビール」というあの名作を見て、こういう広告が作りたいと思ったの。デザイン事務所に入って2年目の時だった。だから、僕にとって新聞広告は原点なんだ。やがて可士和君みたいな人が新風を吹き込むことになるわけだけど。SMAPの広告(2000年度朝日広告賞・広告主の部グランプリ)とか、びっくりしたもんね。新世紀の新聞広告だなって。
佐藤 ポスター的な表現が増えたのは、僕のせいだと言う人もいるんですよ(笑)。
前田 確かにビジュアル重視の広告が増えたけど、表面的に可士和のまねをしているだけのものも多いと思う。SMAPのあの広告は、新聞じゃないと体験できない距離感や質感を提供してくれた。
副田 そうだね。ビルボードも見たけど、それとは違う驚きがあった。メッセージの本質をきちんと捉えているからこそ、的確なメディアの使い方ができたんだと思う。しかも、朝日新聞を選んであのビジュアルを打ち出したんでしょう?
佐藤 そうです。他紙には別のビジュアルを出しました。あのビジュアルは朝日だと思ったんです。筑紫哲也さんの番組をはじめニュースでも取り上げられたんですが、それも当初から狙っていました。
前田 ニュースで取り上げられた時の波及効果は僕も経験がある。YMOが再結成した際に作った「私は反対でした。矢野顕子」という東芝EMI(現・EMIミュージック・ジャパン)の全15段広告(93年に準朝日広告賞)もその夜のニュースで取り上げられて、ものすごい二次効果があったんです。
副田 ニュース性は、新聞広告の大きな強み。応募者はそこも十分に考慮してほしいよね。
前田 ただ、最近の若いクリエーターの中には新聞を読まない人もいて、副田さんが「男は黙ってサッポロビール」を見た時のような感動や、制作した広告が大きな反響を呼ぶだいご味を知らない人が増えている気がします。
副田 それはあるかもしれない。
前田 実際の仕事におけるメディアプランの中で、新聞メディアを使わないという選択肢はあっていいと思いますが、メディアの特性を知った上で使わないのか、よく知らないで使わないのか。この差は大きい。
副田 後者は由々しき問題だけど、新聞というメディアそのものの魅力を高めないと、そういう企業が増えてしまうかもしれないね。
前田 そう思います。
【後編】はこちらから>>