【審査委員座談会 後編】過去の作品群が一瞬にして古く見えてしまうようなクリエーティブを

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左から、前田知巳氏、副田高行氏、佐藤可士和氏

言葉が大きなパワーを生む、ということを信じているか

佐藤 過去のグランプリ受賞作を改めて見てみると、ここ10年くらいはビジュアル重視、コピーのない作品が多いですね。応募作品全体でもそういう作品が増えていると思います。

前田 コピーで目を引く作品は本当に少ない。コピーライターが萎縮しているというか、アートディレクターに譲ってしまっている感じがします。

副田 そうだね。アートディレクターが一人で作ったような表現がとても多い。コピーは重要なファクター(要素)なんだけどなぁ。

前田 いいコピーというのは、「ん?」と視線を留めさせ、想像させる力がある。でも今の時代は、想像力が必要な時点で「伝わらない」「わかりにくい」となってしまう。すぐにわかる言葉じゃないと許されない空気があって、そういうことも影響しているのかもしれません。

佐藤 スマートフォンでものすごいスピードで情報を読んで、面倒くさそうな内容はどんどん飛ばしちゃいますからね。でも、メールをはじめ、ツイッター、フェイスブック、ラインと、言葉そのものは使っている。ネットの情報も、画像を見ているようで実は圧倒的にテキストを読んでいる。だから、言葉の力はなくなっていないとは思うんですが……。

副田 でも、ネット上の言葉は「浅い」。

前田 言葉の怖さもあって、SNSだとすぐに「炎上」とかいう話になりますよね。だから、ネガティブな反響を恐れて萎縮してしまったり、テレビCMなどは、丁寧に語りすぎて逆に平板なものにしてしまったり。

副田 となると、なおさら「一般公募の部」で挑戦をしてほしい。昔は、仲畑貴志さんや糸井重里さんなど、時代を象徴する言葉を生むコピーライターがいました。糸井さんが作った「おいしい生活。」とか「不思議、大好き。」とか、今だったら流行語大賞になっていたと思う。今の時代にはやるのは、お笑い芸人の言葉だったりするもんね。わかりやすいけれど、本当の言葉の力というのはそういうものじゃないんだって、僕なんかは思っちゃう。

前田 優秀なデザイナーほど言葉の力や怖さを知っています。だから、より洗練された高度な表現を追究できる。

佐藤 何より重要なのは企業の考え方で、それを言葉でうまく規定できると、ものすごいエンジンになりますよね。

副田 核になる言葉ってことだよね。

佐藤 そうです。憲法のようなよりどころとなり、すべての判断基準となる言葉。ユニクロの「ヒートテック」のグローバル戦略において、前田さんが提案した言葉がその役目を果たしたように。

前田 「ジャパンテクノロジー」という柱になるコンセプトを打ち出して、それまでの「国内向けのあったか肌着」というイメージを一新させ、ニューヨークやパリやロンドンで売り出していくという……。

   ユニクロ「ヒートテック」ロゴ ユニクロ
「ヒートテック」ロゴ

佐藤 僕は、「ジャパンテクノロジー」という言葉をもとに、ロゴも銀色のパッケージも広告も作っていった。この仕事を単純に朝日広告賞に重ねることはできないけれど、言葉が大きなパワーを生む、ということを制作者が信じているかどうかは審査していてわかる。必ずしもコピーとして定着させなくてもいいけれど、応募者は核となるものを突き詰めてほしいですね。

副田 「コンセプト」が伝わってこないとね。

佐藤 そうです。

「どう思うか」ということから始めているか

前田知巳氏

前田 僕は、若い人と仕事をするときに「このクリエーターはクライアントにきちんと自分のコンセプトを説明できるタイプかどうか」ということを注意して見るようにしているんです。

佐藤 ああ、それは大きい。実際、人前でうまく話せない若いクリエーターもいます。グランプリを取ったクリエーターが、課題提供企業の前でプレゼンをするチャンスをもらえるとか、あってもいいですよね。すばらしいプレゼンができたら、広告を作らせてみたいとクライアントが思うかもしれないし。僕が審査をしながらいつも思うのは、実際の新聞広告として世に出すにはリアリティーを感じる作品が少ないなということです。

前田 文芸の世界では、賞を取った新人作家を出版社が総力を挙げて育てます。それと同じように、受賞後のステップが見えるようなシステムがあったらいいですね。「ワンカップ大関」の課題(07年度)でグランプリを取ったクリエーティブが、実際の広告に起用された例もあるけど、まだまれなケースです。

2007年度 大関による課題作品 2007年度 大関による課題作品

副田 「ワンカップ大関」は、クライアントの姿勢がすばらしかったね。03年度の「カップヌードル」の作品なども、実際の新聞広告で見てみたいと思った。広告主の日清食品にとってもすごくいいだろうなと。

佐藤 ちょっとした工夫をするだけで、リアリティーのある応募作品が増えてくるような気がします。あと、応募作品を見ていてもう一つ思うのが、「朝日広告賞っぽい」表現を意識しすぎているんじゃないかと。

副田 やっぱり、「傾向と対策」みたいなことをやっちゃうんだろうね。若いから。

2003年度グランプリ 日清食品による課題作品 2003年度グランプリ
日清食品による課題作品

佐藤 でも、我々はそれを求めていないですよね。ぶっちぎりのグランプリが出るとするなら、過去の作品群が一瞬にして古く見えてしまうようなものだと思う。そういうクリエーティブを期待したい。

前田 今の仕事の現場では、実は企業の具体的なオリエンが減ってきている。「この商品の特徴はこうで、こう伝えてください」という明快なリクエストがなくて、「どう思いますか?」と聞かれる。つまり、「どう思うか」ということから始めるトレーニングを積まないと、企業と会話ができないし、仕事が成立しない。今はそういう時代ですからね。

佐藤 広告のあり方がずいぶん変わってきていますよね。僕は、「いかに広告に見せないか」「ファクトをどう作るか」っていうことを常に考えて仕事しています。

副田 新聞広告の位置づけも変わってきていて、デジタルメディアが注目される中で、「本当に効いているのか」と感じている企業は少なくないと思う。「ちゃんと効く」ということを明快に示していかないと、いい新聞広告を作る若手のクリエーターも育たないんじゃないかな。

佐藤 新聞広告が効く可能性はいっぱいある。それを、メディアとしてもっとアピールしてほしいですよね。デジタルの世界に人々の関心が向くのは避けられないこと。100年に1度というメディアの変革期に対応していくには、今までにない働きかけが必要で、魅力的な使い方や仕組みを新聞社から提示してほしい。要するに「新しい商品」を示してほしい。「一般公募の部」も、クライアントと制作者が出会い、新しい何かを生む場になったら、より魅力的な賞になると思います。

副田 60周年の節目を迎えたことですし、応募者も朝日広告賞も「変革」に挑戦してほしいですね。

副田高行(そえだ・たかゆき)

アートディレクター

1950年福岡県生まれ、東京育ち。東京都立工芸高校デザイン科卒。スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、現在副田デザイン制作所主宰。東京ADC会員。JAGDA会員。2008年度から朝日広告賞審査委員。主な仕事は、サントリー「ナマ樽」「モルツ」、ANA「ニューヨークへ行こう」、トヨタ「エコ・プロジェクト」「REBORN」キャンペーン、シャープ「アクオス」など。76年朝日広告賞。81年・83年・84年東京ADC賞。84年TCC特別賞。85年毎日広告デザイン賞。87年読売広告大賞。88年フジサンケイグループ広告大賞制作者賞。98年日経広告賞。2006年日本宣伝賞山名賞ほか受賞多数。著書『副田高行の仕事と周辺』(六耀社)。作品集『SOEDA DESIGN FACTORY THEREAFTER』。

前田知巳(まえだ・ともみ)

コピーライター/クリエイティブディレクター

1965年生まれ。東京外国語大学卒。博報堂を経て99年からフリーに。2006年度から朝日広告賞審査委員。宝島社『おじいちゃんにも、セックスを。』『団塊は、資源です。』など一連の企業広告、トヨタ自動車の企業広告『REBORN』『86』、キリンビール『うれしいを、つぎつぎと。』などを手がける。広告を超えてユニクロのブランドビジョンや『ヒートテック』『ビックロ』などの商品コンセプト、森ビル『上海環球金融中心』、福岡市『福岡新都心構想』など、企業や商品のコンセプトワークも担当。受賞歴は、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、読売広告大賞読者大賞、東京コピーライターズクラブ最高賞、東京アートディレクターズクラブADC賞など。http://futuretext.co.jp/

佐藤可士和(さとう・かしわ)

アートディレクター/クリエイティブディレクター

博報堂を経て「SAMURAI」設立。多摩美術大学客員教授。2012年より慶応義塾大学環境情報学部特別招聘教授、東京ADC理事、JAGDA運営委員。03年度から朝日広告賞審査委員。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」、「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。東京ADCグランプリ、毎日デザイン賞など。著書に「佐藤可士和の超整理術」(20万部のベストセラー)「佐藤可士和のクリエイティブシンキング」(ともに日本経済新聞出版社)、「しょうちゃんとちきゅうくん〜ずっといっしょにいたいね」(ポプラ社)など。http://kashiwasato.com/

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