第60回 朝日広告賞 一般公募の部

 一般公募の部の応募総数は1,429点。候補作品が28点に絞られた段階で講評が行われ、活発に意見が交わされた。

 「新聞広告はこうあるべき、という視点と、旧来の殻を破ってほしい、という両方の視点で審査したい」(岡田直也氏)「広告制作者の目線ではなく、一般生活者の目線で、評価したい」(副田高行氏)といった審査基準が述べられた中、最高賞に輝いたのは、セールス・オンデマンドの課題を扱った作品。

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【朝日広告賞】

セールス・オンデマンド 〈アイロボット社が開発したロボット掃除機『ルンバ』〉3点シリーズ 前田彩

「新しい機能を持った提案性の高い商品と表裏一体の企画ができている。楽しい仕上がり」(児島令子氏)
「シリーズで展開する意味がある」(佐々木宏氏)
「家庭に新しいものがやってきた、という感じが表現できている。スペースの使い方、写真の仕上げ方など、難しいことをうまくやっている」(佐藤可士和氏)
「5段見開きの表現が新鮮。実際に掲載されたら、読者の興味を引くのでは」(副田氏)
「スペースの使い方が、商品特性に合っている。端っこにいる犬や猫が、あまりにも床がきれいで気が引けているような感じも深読みできてよかった」(タナカノリユキ氏)
「広告の魅力というのは、新しい製品が出てきたときに、それにどんな表現がついて、世の中をどう明るくしてくれるかというところに本質があるような気がする。この作品は、ロボット掃除機という先進的な商品がもたらす『かつてなかった清潔感』というようなものを見事に表現している。『広告の気持ちよさ』を思い出させてくれた」(原研哉氏)
「5段見開きという着想が新鮮で、現実性もある。受賞作品のアイデアがクライアントに気に入られ、実際に出稿される可能性を持った広告賞であってほしいので、そういう視点においても評価できた」(前田知巳氏)
「新聞広告ならではのスペース使いとビジュアルに引かれた。実際に掲載されてもいい表現」(森本千絵氏)

【準朝日広告賞】

大日本除虫菊〈キンチョール〉 今井祐介、佐藤舞葉、辻本浩太郎、八野田翔

「30段でなくてもいい気はしたが、一発芸的なセンスがキンチョールらしくていい」(佐々木氏)
「一人だけ蚊をたたいているということがわかった瞬間に吹き出してしまう楽しさがある」(副田氏)

大日本除虫菊〈キンチョール〉 中山智裕、大西英也、青松正芳

「30段作品が多い中で、15段一点で勝負してきたこの作品は目を引いた。新聞広告らしいという印象を持った」(副田氏)

 

【梶祐輔記念賞】

角川グループパブリッシング〈発見!角川文庫〉
 鈴木悠平、小野勇樹、味村真一

 

【入選】

セールス・オンデマンド〈アイロボット社が開発したロボット掃除機『ルンバ』〉 山口広輝、武山範洋

「商品の機能をきちんとふまえたアイデアで、新聞広告に適した表現。派手ではないけれど、よくできている」(葛西薫氏)
「家の間取りに描かれた赤い線だけで、『ルンバ』の軌跡だということを想像させてくれる。コピーとビジュアルの一体感もある」(タナカ氏)
「30段広告の必然性がある。『自分の家の間取りで使えるかどうか』という消費者の関心に応える表現になっている」(前田氏)

 

JTB〈感動のそばに、いつも。〉 4点シリーズ 宇野元基、竹上淳志、矢木重治

「旅に行きたくなるビジュアル。シリーズ展開の意味がある。旅を『トイレ』にフォーカスした切り口が面白いし、トイレなのに汚い感じもしない。コンセプチュアルな表現」(佐藤氏)
「ソーシャルネットワークで日々飛び交っているような表現。それを、言葉や写真のトーンを含め、広告にきれいに反映していくと、こういったクリエーティブになるのかなと感じた。広告というフレームの中でどう見えるかということを、問われたような気もした」(原氏)

 

新潮社〈新潮文庫〉 小林智拡、東克美、中村光男

「一人と孤独は、ちがうんだ。」というコピーと、新潮文庫の取り合わせは、古典的な表現ではあるが、絵の質感もともなって気持ちよく見ることができた」(葛西氏)
「難解なビジュアルのアプローチだが、文学的な雰囲気に引かれた。実際の広告では実現しにくそうな、コンペならではの表現というところも面白かった」(佐藤氏)
「コピーにハッとさせられた。イラストの質感が新聞の肌触りとあいまったら面白いのではないかと感じた」(タナカ氏)

 

旭化成〈サランラップ〉2点シリーズ 北本浩之、山本麗貴、青木猛

「手練手管を使った作品が多い中で、とてもシンプルなこういう表現に出会って、のどかな気持ち、うれしい気持ちになれた」(葛西氏)

 

旭化成〈サランラップ〉 川田琢磨、岸田麻理、高木カヨ、小川直之

「見た瞬間に笑いがこぼれた。サランラップの課題については、食事の残り物の保存に注目した作品が多かったが、この作品は、完璧なごちそうの保存に注目して商品特性を伝えている。変にエコを語っていないところがよかった」(児島氏)
「コピーを考えたのがコピーライターなのかデザイナーなのかわからないが、『この絵にコピーがついたら面白いよね』というようなシンプルなアイデアを出してきていて、しかも残飯をどう処理するか、ということではなく、おいしいそうな食事だけれど今日は必要がない、というオチが効いていて、面白いと思った」(佐々木氏)

 

日本航空〈企業広告『明日の空へ、日本の翼』〉 船岡あずさ

「写真がいい」(上田義彦氏)

 

小学館〈小学一年生〉 中川紗佑里、八木澤純

「実際の掲載は難しい表現だと思うが、批評精神があって、上手に社会と遊んでいる感じが、コンペならではという感じがした」(岡田氏)

 

トンボ鉛筆〈TOMBOW文具のブランド広告〉2点シリーズ 
竹上淳志、田中幹、矢木重治、藤井佳奈子、森田伸

「鉛筆というもののポジションを上手に表現している。飛んでいるトンボの浮遊感が、寂しくもあり、自由でもあり、俳句を詠んでジンと感動するような良さがあった」(原氏)
「実際に出稿されたら、鉛筆で描き足したくなるだろうなと思った」(森本氏)

 

新潮社〈新潮文庫〉5点シリーズ 相楽賢太郎、田中菜摘、日下部佑太

 

カメヤマ〈ローソクの灯りを伴う供養の大切さ〉 高木俊貴、曽我貴裕

「ショートケーキのイチゴをろうそくのあかりに見立てたビジュアルと、『命日を、祝おう。』というポジティブなコピーに好感を持った。ただ、30段の必要はないと思った」(佐々木氏)
「ポジティブな印象が、理屈じゃなくスッと入ってきた」(前田氏)

 

【小型広告賞】

キッコーマン〈『おいしい記憶をつくりたい』をテーマにした企業広告〉10点シリーズ
 眞竹広嗣、竹内堅二、林健一

 

岩波書店〈岩波新書、岩波文庫『日本語 語感の辞典』〉12点シリーズ 長瀬克樹

 

【審査委員賞・写真賞】

カメヤマ〈ローソクの灯りを伴う供養の大切さ〉2点シリーズ 鈴木優花

 

【審査委員賞・イラストレーション賞】

チロルチョコ〈きなこもち10周年〉 伊藤孝成、河野正人、大河原健太

 

えひめ飲料〈こだわりは、まじめです。〉2点シリーズ 石原慎典、藤井善樹

【審査委員賞】

 

◎総評としては、

「コピーだけで突き抜けているような作品はなかなか探せなかった」(岡田氏)
「コピーの出来のいい作品を選びたいと思いながら審査していたが、近年の傾向ともいえるポスター的な表現が多かった。ビジュアルが言葉に代わる表現を十分に果たしている作品が目を引いたともいえる」(児島氏)
など、コピーの力作を期待する声のほか、複数の審査委員から、
「30段の応募作品がとても多いが、30段の必然性を感じさせる作品は少ない」
との意見が寄せられた。

一般公募の部 審査評/1,429の熱い表現が集まった

浅葉克己氏

 60回目の朝日広告賞、一般公募の部の受賞作が決定した。

 2012年3月31日の朝日新聞(夕刊)に2011年度、全課題がそろった全面広告が出た。一般公募の部「応募の手引き」の浅葉克己の文章の中から、事務局が選んでくれた「広告とは、終わりのない、人類の生き残りをかけた知恵の表現だ」のキャッチ。広告主74社の課題。一般公募の部担当審査員13名、広告主参加の部担当審査員13名の顔写真がずらーっと並んでいる。締め切りは2012年4月17日、制作日数は半月。よし出品するぞ、グランプリを取るぞと立ち上がった表現者は偉い。出品点数は1,429点。4月24日に浅葉克己、岡田直也、副田高行、前田知巳の4名で予選、436点が5月9日の本審査会場に並んだ。1次、2次、3次、と予選が続き、30点にしぼったところで、13名の審査員がひとりずつ応援演説。

 朝日広告賞は、前田彩さんのロボット掃除機ルンバ。2連版10段というスペース取りに感動。普段、視線をここまで落とすことはあまりない。犬と猫の視線。床、ジュータン、畳、の3部作。ひとりで全部やったところに感動。広告の切り口に新鮮さを与えた。30段見開きのシリーズはリアリティがないねとつぶやく佐々木宏さん。準朝日広告賞はキンチョール。読経が長時間続く空間。こんな時にも蚊は登場する。ユーモアをうまくとらえた。AD中山智裕さんのキンチョールでは、絶体絶命に追い込まれたゴキブリの姿に共感。今年からコピー賞として梶祐輔記念賞が新設された。鈴木悠平さんの発見!角川文庫、「国名に『本』がある国。」

 若い表現者がいっぱい登場し、熱い嬉しい60回朝日広告賞の審査であった。

(アートディレクター 浅葉克己氏)  

 ■過去の受賞作品はこちらからご覧いただけます(朝日広告賞ページ http://www.asahi-aaa.com/

おことわり
7月12日付け朝刊で発表した本社主催第60回朝日広告賞の受賞作品のうち、「一般公募の部」の準朝日広告賞に選出された作品-「【謝る】あやまる」について、発表後に、この作品と類似しているパフォーマンス映像が、ネット上で先行して公開されていることが確認されました。これを受けて、事実関係を調査しましたが、制作にあたって模倣の意図は認められませんでした。しかし、制作者本人も結果としての類似性は認めており、本賞の応募規定で不採用としている「独創性を重視する朝日広告賞の趣旨に合わない作品」にあたると判断して、本作品の受賞を取り消すことにしました。