第59回 朝日広告賞(第2部 広告主参加の部)

【朝日広告賞】

東芝

2010年3月31日付 朝刊 東芝 2010年3月31日付 朝刊 東芝

〈一般白熱電球製造中止広告〉
企画/東芝 制作/電通
企画/松本健一郎、関根優一、高橋洋一、波多野吾紅
クリエーティブディレクター/中澤真純
コピーライター/岩田純平
アートディレクター/宮坂佳克
クリエーティブプロデューサー/松本和久
デザイナー/河内貴春
フォトグラファー/渡会審二

 第2部の最高賞は、一般白熱電球の製造を中止し、省エネタイプのLED電球に切り替えることを宣言した東芝の広告。1890年の実用化以来、人々の暮らしを照らしてきた一般白熱電球と、電球を製造し続けてきた工場に対し、「120年間、おつかれさまでした。そして、ありがとうございました。」と頭を下げる工員たちの後ろ姿をとらえたビジュアル、歴史的決断を伝えたコピーが審査委員たちの心を打った。

 「伝統に裏打ちされた商品がどう変化するのかというテーマを数年前から訴求し続けている姿勢に感心」(嶋村和恵氏)

 「工員たちを背中から撮ったところがうまい」(弘兼憲史氏)

 「一般白熱電球の光が消えているのに対し、LED電球が光って見えるところも秀逸。文句のつけようのない広告」(松永真理氏)

【準朝日広告賞】

宝島社

2010年9月2日付 朝刊 宝島社 2010年9月2日付 朝刊 宝島社

〈宝島社・企業広告〉
企画/同社、アサツー ディ・ケイ
制作/アサツー ディ・ケイ、ADK アーツ

 準朝日広告賞は合計3点。「日本の犬とアメリカの犬は会話できるのか。」というコピーの裏に、外交問題や政治、経済の問題など、いま日本が抱えている課題の根本にはコミュニケーションの問題があるのではないか、というテーマを潜ませた宝島社の広告。

 「アメリカ・ニューヨークタイムズ紙、ワシントンポスト紙に同日掲載したことも一つのニュース。新聞広告ならではの企画」(岡田直也氏)

 「コピー表現の中に日米関係がメタファーとして入っていて面白い」(弘兼氏)

味の素

2010年3月19日付 夕刊 味の素 2010年3月19日付 夕刊 味の素

〈味の素・100周年〉
企画・制作/電通

 味の素は、戦時中の貧しい食生活、世界中の食が日本で食べられるようになったバブル時代、ヘルシー食で体を気づかう現代と、食の変遷を「婚活」をテーマにビジュアル化し、いつの時代も味の素が「嫁入り道具」として重宝されていることを伝えた。 「とても凝っていて、時代時代のメイクや髪型やウェディングドレスを見事に再現している。創業100周年ということだが、不況期にこうした大きな広告をドーンと出す企業の底力を感じた」(林真理子氏)

 「読まされた広告。ビジュアル的に歴史をひも解いていて、花嫁衣裳の変遷に発見もあり、興味深かった」(弘兼氏)

AirAsia X Sdn Bhd

2010年12月11日付 朝刊 AirAsia X Sdn Bhd 2010年12月11日付 朝刊
AirAsia X Sdn Bhd

〈AirAsia X 日本就航キャンペーン〉
企画/電通 制作/WOOD

 AirAsia Xは、初めて日本へ就航するにあたり、安かろう、悪かろうという「格安」のイメージを先行させないため、安さの背景をコピーで伝えた。

 「航空運賃が安いということをレシートタイプのボーディングパスで表しているが、これはまさしく事実。商品の強さをいかに面白く伝えるかという工夫が見られた」(嶋村氏)

 「LCC(ローコストキャリア)が日本にいよいよ上陸するというのは大変なニュースだったが、まさかLCCが広告をするとは思っていなかった。きちんと広告してくれると『乗れるな』という安心感が生まれる」(松永氏)

【部門賞】

生活関連部門

2010年8月20日付 パイロットコーポレーション 2010年8月20日付
パイロットコーポレーション

パイロットコーポレーション
〈企業広告「書く、を支える」シリーズ・3点シリーズ〉
企画/電通 制作/アドブレーン

 

食品・飲料部門

2010年3月20日付 夕刊 味の素 2010年3月20日付 夕刊
味の素

味の素
〈味の素・100周年〉
企画・制作/電通

 

出版部門

2010年5月29日付 朝刊 講談社 2010年5月29日付 朝刊
講談社

講談社
〈講談社 青年マンガ〉
企画/博報堂 制作/博報堂&KOJIMA-DESIGN

 

情報・通信・家電部門

2010年12月22日付 朝刊 パナソニック 2010年12月22日付 朝刊
パナソニック

パナソニック
〈ロボティックベッド〉
企画/同社 制作/キュービック

 

住まい・不動産・金融部門

2010年10月21日付 朝刊 クレディセゾン 2010年10月21日付 朝刊
クレディセゾン

クレディセゾン
〈セゾン・アメリカン・エキスプレス・カード誕生〉
企画/I&S BBDO 制作/ドラゴン東京

 

車両・輸送部門

2010年6月10日付 朝刊 メルセデス・ベンツ日本 2010年6月10日付 朝刊
メルセデス・ベンツ日本

メルセデス・ベンツ日本
〈SLS AMG・5点シリーズ〉
企画/同社 制作/博報堂

 

教育・公共部門

2010年3月14日付 朝刊 日本眼科啓発会議 2010年3月14日付 朝刊
日本眼科啓発会議

日本眼科啓発会議
〈眼科検診啓発広告〉
企画/東急エージェンシー 制作/TIDE INC.

 

エネルギー・化学・諸工業部門

2010年8月14日付 朝刊 IHI 2010年8月14日付 朝刊
IHI

IHI、IHIエアロスペース
〈企業広告〉
企画/電通 制作/電通、近藤忠デザイン事務所

 

旅行・運輸・サービス部門

2010年1月1日付 別刷り 日本マクドナルド 2010年1月1日付 別刷り
日本マクドナルド

日本マクドナルド
〈企業広告〉
企画/電通 制作/たき工房

 

流通・エンターテインメント部門

2010年3月14日付 朝刊 良品計画 2010年3月14日付 朝刊
良品計画

良品計画
〈くりかえし原点、くりかえし未来。〉
企画・制作/日本デザインセンター 原デザイン研究所

 

【小型広告賞】

◇〈「トモダチ探しクイズ」キャンペーン・14点シリーズ〉
企画/同社 制作/電通、石川広告制作室

◇日常を彩る100円グッズ・69点シリーズ〉
企画/同社 制作/朝日アドテック名古屋営業所、アクサム AXHUM Consulting

【朝日新聞特別賞】

◇〈ソニーの「ECO」は、こんなかたち・6点シリーズ〉
企画・制作/朝日新聞社

◇〈企業広告〉
企画/電通 制作/たき工房

◇〈3Dプレ特集 キリンの健康プロジェクト〉
企画・制作/朝日新聞社

◎総評としては、

 「審査が楽しかった。ひと頃よりも前向きなメッセージが出てきた気がする。特に上位に共通するのは、“事実の強さ”。いわゆる“地球にやさしい”的な企業のきれいごとではダメなんだなと。事実を踏まえたメッセージほど伝わってくるものがあった」(岡田氏)

 「いま、いろいろな商品があふれ、『性能も機能もどれも同じ』と言われるが、実際は個性的な商品があって、それを印象強く見せる仕組みもちゃんとあると、昨年の新聞広告を見て実感した」(嶋村氏)
「毎年目を楽しませてくれる外資のファッション系の華やかな広告が消え、少し地味になった印象。一方で、ボディーコピーのすばらしい広告が多く目についた」(林氏)

 「ここ数年、広告の勢いがなかったが、随分元気が出てきた。今年の審査会で印象に残ったのは、やはり“ニュースの強さ”。ニュースの裏にこれだけいろいろな企業の活躍があったということを、広告を通して知ることができてよかった」(松永氏)

 「一般的にはトーンダウンをしているのではないかと思われている広告の世界だが、上位に残ったものは積極性が感じられる。その積極性は、事実やニュース性など新聞の特性に基づくもので、とてもすばらしいこと。一方で、“表現の面白さ” というものも評価されていくべきだと思う」(中島祥文氏)といった意見が聞かれた。広告主参加の部は、時代をけん引する企業の底力や事実に基づく強いメッセージに賞賛の声が寄せられ、それを新聞広告で伝える意義について確認し合う審査会となった。

第2部 審査評/「事実の力」を再確認

朝日広告賞審査員 コピーライター 岡田直也氏 岡田直也氏

 いきなり結論からいこう。

 今年の傾向を端的に表すならば「事実はつよい」。その一言に集約されるのではなかろうか。 新聞広告のあるべき姿とは何だろう、どうしたらこの厳しい現状を打破できるのだろう、とつねづね思う。その大きな拠り所が「事実」というキーワードにあることを再確認した、そんな審査だったように感じる。

 新聞広告はやはり、記事と地続きのものがいい。ドキュメンタリー性を軸において、しっかりと語ってくれるものがいい。そんな、本分というべきものはどんなに時代の状況が移ろうと不変であってほしい、と願うばかりである。 グランプリの東芝は、白熱電球の製造中止、LEDへの切り替えという事実を、素直に伝えたもの。工員さんたちを後ろ姿でとらえたことも奏功した。

 また準朝日広告賞の宝島社では左下の一行「この広告は本日付のニューヨークタイムズ及びワシントンポストにも同時掲載いたします。」が光る。

 味の素にもそれぞれの時々の花嫁姿に、ドキュメンタリー性を感じた。

 象徴的だったのはH部門賞の「はやぶさ」。事実がしっかりしていれば、いたずらに表現を弄することは必要ない、と語りかけているようでもあった。

 仕事柄、広告賞の審査に関わる機会があるが、この賞だけは他とすこし違うと感じている。表現の単なる善しあしだけでは投票の基準を満たさない、と思えるからだ。今後も審査員としての責務を考えつつ、いい広告に出逢えることを期待したい。 もちろん私自身も、制作者として精進してゆかねば…。

(コピーライター 岡田直也氏)