電球製造事業の構造転換をリアルに描いた企業広告

 2010年度朝日広告賞・第2部の最高賞は、東芝の広告。CO2削減のため、他社に先がけて一般白熱電球の製造中止を決断した同社は、2008年より新聞紙上でこの事実を伝える企画をスタート。シリーズ第1弾となる二連版30段広告は、2008年度準朝日広告賞を受賞している。その後も広告部が中心となり、「より環境に配慮したLED電球にシフトしていくという、事業の構造転換、パラダイムシフトをリアルに描く」とのコンセプトのもと、訴求を続けてきた。審査会では、そうした2年越しの活動を含めて評価する声も多く聞かれた。

製造ラインを止める日に広告ビジュアルを撮影

電通 中澤真純氏 中澤真純氏

 最高賞を受賞したビジュアルは、一般白熱電球の製造ラインを止める2010年3月17日、栃木県の東芝ライテック鹿沼工場にて撮影された。

 「鹿沼工場で、一般白熱電球製造の中止式典が行われたのです。東芝の佐々木則夫社長をはじめ、同社幹部、関係業者、メディア各社が見守る中、工員さんが稼働している製造ラインのボタンを押し、停止させました。この日製造された一般白熱電球の最後の1個が次世代を担うLED電球とともに点灯される、世代交代のセレモニーでした」と語るのは、広告制作に参加した電通のクリエーティブディレクター・中澤真純氏。それはまさに、「事業の構造転換、パラダイムシフト」を象徴的に示す式典だった。立ち合った人の中には、感極まって涙ぐむ熟練工の姿もあったという。

 広告クリエーティブは、広告部が事前に何度も工場に赴いて取材し、「役割を終え、動きが止まって静まり返った電球製造ラインの前で、実際にそこで仕事をしていた工員たちがラインへ感謝と別れの一礼をしている構図でいく」と決めた。さらに、ニュース性を重視し、撮影日から間もない3月31日の出稿となった。

 「モノづくりの技術に対する敬意を感じました。メーカーだからできた発想です。シンメトリーのデザインは広告的には愚直に見えるかもしれませんが、テクニックに走らず、企業の思いを飾らずストレートに出そうとしたものです。コピーも、広告部から伝えたい内容を明確に提示していただきました。企業の独善は感じられず、ストンと腹に落ちてくる考え方だったので、私やコピーライターが悩むことはありませんでした。短い仕上げ期間でしたが、企業に明確なプランがあり、実現に向けた強い意志があると、こうもスムーズに作業が運ぶものかと実感しました」と中澤氏は振り返る。

2010年03月31日付 朝刊  全30段  東芝

2010年03月31日付 朝刊  全30段  東芝

事業におけるドラマを広告シナリオに落とす

 広告の成功について広告部の松本健一郎氏は、「事業をやめる、という強い事実を背景に、日本の昔からのモノづくりを代表するような事業が技術革新によって生まれ変わる『一抹の寂しさ』『未来への期待感』を醸し出せたことにあると思います」と述べている。実際、審査会でもそのような感想が多くあがった。

 東芝の姿勢について、中澤氏は語る。「こう言うと僭越(せんえつ)かもしれませんが、いい企業というのは謙虚で、社会的役割をきちんと自覚していると思います。東芝は、多くの優れた製品を有し、ニュースの宝庫といえます。今回、広告制作チームに加えていただき、光栄に思っています」

 企業の熱い思いがあってこそ、人々の心に届く広告は生まれる。電球製造に象徴される東芝のチャレンジスピリットは、広告表現の未来をも明るく照らした。